三菱地所レジデンス株式会社 経営企画部DX推進室DX推進グループ長 定光 俊英
目指すべきは顧客体験の向上であり、DXはその手段に過ぎない
■プロフィール
マンション販売業務を約10年経験した後、三菱地所グループ内のマンション管理会社とインテリア会社に出向、2019年4月より三菱地所レジデンスに復職し広告企画を担当、2020年4月より全社的なデジタルトランスフォーメーションを推進するDX推進室DX推進グループが設立され現在の職務を担当するに至る。
DX(デジタルトランスフォーメーション)というとデジタル導入が注目されがちであるが、大切なことは単なるデジタル導入ではなく、より良い顧客体験を追求し、既存の業務の在り方を再構築することである。デジタル導入はその手段に過ぎない。DXという前例のない取組に挑み、事業の成長や新たな未来の可能性の探索を担うDX推進室の使命を伺った。
三菱地所にはDX専任部署が2018年からあったのですが、三菱地所グループ内で住宅事業を担う弊社のDX専任部署は2020年4月から立ち上がったばかりの新設部署です。現在は主なプロジェクトとして1スマートホームプロジェクト、2データ活用プロジェクト、3契約者様手続きのオンライン化、4顧客体験の再定義の4つが挙げられます。
1のスマートホームプロジェクトでは、住宅内のIoT機器をアプリや音声で操作できるというお客様の利便性を一時的に提供できるだけではなく、われわれ企業にとって住宅という大事な商品をお客様がどのようにお使いになられているかをデータで取得して商品企画や、ご入居後のより良い生活のご提案に活かす新たな機会を得ることにより、さらに顧客体験を向上させることができるチャンスだとも捉えています。もちろん住宅というプライバシー保護が大切な商品ですので、お客様の生活状況をデータで取得するというわけではなく住宅設備機器の使用状況をデータで把握して、お客様にとって価値ある住宅設備とは何かを把握し商品企画に活かすことや、住宅設備の故障前に異常を検知して修理/交換をご提案するということも将来的にはできるようになる可能性があると思っております。
2は、社内で部署ごとに保管されている顧客データを統合してマーケティングに活かそうという取り組みです。顧客データを一元集約して顧客IDで各データを紐づけることにより、一人ひとりのお客様のカスタマージャーニーが一気通貫して把握することができます。そうなると、一人ひとりのお客様のニーズやお困りごと等が部署横断して把握して対応ができるようになり、マンション分譲の商談だけでなく、鍵のお引き渡し、ご入居後のアフターサービスまでシームレスに顧客体験を向上させることができることを目指しております。
3は今まで紙や郵送といったアナログな手法で行っていた契約やその後の事務手続きをオンライン化しようという取り組みです。これはDXというような変革の取り組みではありませんが、お客様にご入居までの手続きをスムーズに行っていただくための重要なプロジェクトです。
■DXは既存の仕事を見つめ直すこと
4はこれまで我々がお客様にご提供してきたマンション分譲の在り方を再定義し、あるべき姿を再構築するというビジョン駆動型のアプローチです。マンション分譲という業務フローは、デジタル技術の進化が著しい現代においても従来とは大きく変わらず、広告をご覧になったお客様にモデルルームにお越しいただき、ご契約に至るまで数回ご来場のうえ商談をさせていただくというスタイルが半世紀程度続いています。もちろん、ウェブ広告/ウェブサイト/リモート商談等にデジタル導入は行っておりますが、根本的に顧客体験を再構築するような活用ではありませんでした。よって、これからのさらなるデジタル技術進化を見据えて、われわれが目指す最良の顧客体験を提供するマンション分譲の在り方とは何かを再定義する必要があると思うに至り取り組んでおります。
■誰も正解を知らない未知の領域への挑戦
DXのような変革プロジェクトは社内に前例のないものです。つまりは誰も正解を知らない未知の領域への挑戦とも言えるわけで、そこに大きな魅力を感じております。
誰も正解を知らないとはいえ、世の中には先進事例がすでに多くありますし、社内にも知見のある人材がおりますので、外部と内部から情報収集すればヒントは見えてきます。そのヒントをさらに、外部と内部の情報収集からカタチにしていき、小さく試して早く成功体験を積み重ねることにより、それを繰り返す先にDX後の姿に至ることができると信じています。
■message
DXのような変革の主役はワカモノ/ヨソモノという例えがあります。これは従来の価値観にとらわれずあるべきビジョンを見出し実現できるマインドとスキルを指しています。日本企業にDXという変革が求められている今、まさにワカモノである学生の皆さんのマインドとスキルを活かすべき世の中だと言えるのではないでしょうか。
学生新聞2021年4月号別冊 国際基督教大学4年鈴木菜桜
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