一般社団法人日本飲食業経営審議会 代表理事 高橋英樹

飲食業の未来を守るため。国や政治家に、自分たちの声を届ける。

一般社団法人日本飲食業経営審議会 代表理事 高橋英樹(たかはしひでき)

■プロフィール
1970年、福岡県生まれ。15歳から大阪の飲食店で修業し、24歳の時に有限会社夢笛コーポレーション設立のため、先代社長とともに広島の福山へ。34歳で会社を引き継ぎ同社代表取締役に就任。2008年から2年間はNPO法人居酒屋甲子園の二代目理事長も務めた。2021年11月、コロナ禍で甚大なダメージを被った飲食業界を立て直すべく業界団体「日本飲食業経営審議会」を設立し、代表理事に就任。
飲食関連の48団体が加盟する一般社団法人日本飲食団体連合会の専務理事も務め、日本の飲食業界が抱える課題解決に取り組んでいる。

飲食業界の声をまとめて国に届けることでルールから変えていくため、48団体が所属する日本飲食団体連合会。どのような経緯で日本飲食団体連合会が立ち上がったのか。また、団体の目指す未来とは。日本飲食団体連合会の専務理事であり、日本飲食業経営審議会の代表理事である高橋さんにお話しを伺った。

◾️たった一つの出会いが人生を大きく変える

人生は、時に予期せぬ分岐点から導かれるもの。私の人生も、高校時代の偶然から始まりました。小学生時代からサッカーが好きだった私は、大学生までサッカーを続けたいと思っていました。しかし、いざ入学した高校ではラグビー部しかなく、学校に行く目的を見失ってしまいます。失意から、高校はわずか3か月で中退してしまい、小学生からの夢だった教師への道も遠ざかりました。しかし、そこで出会ったのが飲食の世界です。当時始めた居酒屋のアルバイトが楽しくて、サッカーからアルバイトに好奇心の矢印が向くようになりました。その後、中卒だった私を唯一雇ってくれた居酒屋さんとの出会いから、私の人生は大きく変わっていきました。

その後も、大きな人生の分岐点が4つありました。

1つ目は仕事の意識の変化です。16歳のとき、居酒屋で働き始めたものの、私は常にさぼっていました。365日中360日働いていたものの360日遅刻していましたから、やる気のなさがよくわかるはず(笑)。ですが、16歳のときに、一人の先輩が「このままでいいのか?」と諭してくれました。その言葉がきっかけとなり、「どうせならちゃんとやろう」と考え、板前の世界に入ることを決意します。

2つ目は20歳のとき、中卒だった私を唯一雇ってくれたお店の専務からの声かけです。当時、私は板前をめざし、神戸の料亭で働いていました。すると、最初に雇ってくれた居酒屋の専務から、居酒屋の店長をしないか?という話をいただきました。専務への恩もあったので、板前の勉強を中座して大阪に戻りました。大阪に戻ってからは店長として3店舗かけもちして働きます。初の店長職でしたが、3店舗の売上はすべて前年比を超えることができました。特別なことをしたわけではなく、挨拶や店をきれいにするなど当たり前のことをしただけです。そこで私は当たり前が実績を作ることを学びました。

3つ目は、34歳で社長になったことです。3店舗の店長を始めてから3年後、15歳の時に私を面接してくれた人が「広島で開くお店の総料理長としてこないか」と声をかけてくれました。いい経験になるだろうと思った私は総料理長として入り、店長、マネージャーを経て10年がたったころには営業部長になっていました。お店は6店舗になっていたものの、自分の将来を考え、「独立するならいまだ」と会社を辞める決意をします。辞める表明をしたものの全店舗の店長が「私が辞めるなら辞める」と言ってくれたため、MBOで会社を買い、34歳で社長になりました。

4つ目は、大嶋啓介さんとの出会いと日本飲食団体連合会の立ち上げです。まず、「居酒屋から日本を変えよう。居酒屋業界を元気に」という思いで、大嶋啓介さんと日本一の居酒屋店を競い合う、居酒屋甲子園を立ち上げました。居酒屋甲子園を通じてロマンをひたすら追いかけることはできましたが、そろばん部分、すなわち収益構造を改善していかないと業界が変わらないことにも気づかされました。居酒屋甲子園引退後はFC、ブライダルなど自分の事業を拡げていきました。コロナ禍において、政府の方針に従わざるを得ない状況の中、さまざまルールが変わっていき、飲食業界の声が届いていないことをとても痛感しました。しかし、そうした飲食業界の声がまとまることで政府や国に届くのです。正攻法で政治家の人と対話をできるきっかけが必要だと感じた私は、飲食業界の団体をまとめようと決意します。そこで48団体が所属する日本飲食団体連合会を立ち上げました。

◾️生の声を国に届ける。ルールが変わることで未来も変わる。

飲食業界では東京と地方の差も大きく、地方を助けなければと思い、食団連の地方支部の1つとして、日本飲食業経営審議会も立ち上げました。食べる食文化と職人の文化を未来に繋ぎ、文化的価値の向上と金銭的な価値を向上させる。これが食団連の目指すビジョンになります。そのためにもルールが必要です。ルールを作るための団体でもあり、ルールを学ぶ団体として食団連があります。飲食業界の健全な価値観を作るためにも実際に政治家の方との勉強会を開催したりなどしています。政治家だけでなく飲食業界にも訴えていく動きも必要です。労働者の7パーセントは飲食業界で働いています。だからこそ働いている人たちが報われるように、飲食従業者の未来を作ります。飲食で働いている人たちが誇りをもって働けるように。それは1000円の居酒屋でも同じです。飲食業界の明るい未来を、食団連を通じて創り上げていけたらなと思っています。

◾️message

私が子どもに伝えているのは、嘘をつかないこと、命を大事にしてほしいこと、兄弟力を合わせることです。また、素直さも大切です。素直さとは人を否定するのではなく、肯定的な態度をもち、笑顔になる思考です。ポジティブに物事を変換できるだけでも大きく変わってくると思います。このことは会社でも一緒です。そして、会社は守ってくれません。会社に期待するのではなく、常に自分の意志で考えながら動いてください。意思のない歯車ではないのですから。

学生新聞オンライン2024年3月4日取材 法政大学3年 島田大輝

法政大学  3年 島田大輝 /慶應義塾大学大学院  2年 賀彦嘉/東洋学園大学 3年 石原秀真/武蔵野大学 4年 西山流生

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