SMDO(Sano Minami Design Office) 代表 アートディレクター 佐野みなみ

理系で培った分析で、何色にでも染めていくクリエイティブを

SMDO(Sano Minami Design Office) 代表 アートディレクター 佐野みなみ(さのみなみ)

■プロフィール
1983年生まれ。
東京理科大学理学部化学科卒業。同大学院 中退
2010年4月より独立しSano Minami Design Office(SMDO)を設立。
2023、2024年発売『MdNデザイナーズファイル』にて最前線で活躍しているトップクリエイターの1人として掲載された。
VIの策定をはじめ、グラフィックデザイン、撮影、WEBデザイン、イラスト、パッケージデザイン等幅広く扱っている。


東京理科大学大学院にまで進学するも、中退。その後、研究とはまったく畑の違うアートディレクターへ転身するという、異色の経歴を持つ佐野みなみ氏。彼女の強みであるロジカルなディレクションは、多くの名だたる企業の信頼を得てきた。研究職からクリエイティブの道へ大きく舵を切った背景や、その後の成功の秘訣を伺った。

高校時代は、デザインではなく絵画に興味があったので、美術部の部長をしていました。鉛筆画では数々賞をいただくなど、努力はしたものの、苦労は感じませんでしたね。その後、東京理科大学へ進学しました。学業は大変でしたが、アルバイトとして原宿でバーテンダーをやったり、趣味でカメラをやったりと、色々経験をしました。フォトグラファーとして活動したい気持ちはありつつ、将来は研究職を目指すため、大学院へと進みました。研究対象だった無機化学は、未知のことを調べる研究です。答えがあるものではないので、センスや運も必要で、努力はするけど苦労はしなかったクリエイティブとは違って、努力しても報われないことが続きました。その中で、大学院2年生のときに、「自分は研究職には適性がないのだ」と気がつきました。両親には猛反対されましたが、自分の強い意向で、新たにクリエイティブの道を志そうと決めました。

SMDOとしてのアートディレクター

アートディレクターは、クリエイティブに関わることは何でも携わる、いわば美術監督です。グラフィックデザインやパッケージデザインなどクライアントの要望を聞いて整理し、提案した後、デザイナーに具体的なディレクションをすることで、ビジュアルを形にしていきます。
ポスターやCDのジャケット写真などの他にも、空間デザインやテレビ番組のキービジュアル、ホームページのデザインなども手がけています。自身がフォトグラファーとして撮影をすることもあります。現在はビューティー系やスイーツ案件の依頼が8割ほどを占めています。ときには、「一つのブランドを作りたい」というオーダーに対して、総合的なビジュアルブランディングをすることもあります。
私の強味は、理系出身ということもあり、分析・検証型のディレクターである点です。
現在SMDOには20人ほどが働いていますが、アートディレクター は私1人です。完全オンラインのスタイルをとっていて、私がパソコンに向かって話している動画を収録し、スタッフに送っています。動画は何度も見直すことができますので、スタッフから同じ質問をされる事もありませんし 「言った、言わない」の揉め事の心配も必要なくなりました。出勤しないことで、人間関係にも影響されず、成果物だけを見て評価できます。多い時で20個ほどのプロジェクトを抱えるという鬼のようなマルチタスクをするのですが、この体制のおかげで、余計な雑念を取り除いてタスクに関われるようになったことが成功のポイントだと思います。好きな環境で好きな格好をして好きな時間に仕事ができるので、今のスタイルは非常に満足しています。

■圧倒的な量と分析でクライアントに寄り添う

「私の色を出したい」というアーティスト的なアートディレクターもいますが、私の場合はクライアントさんの要望を叶えることを1番意識します。私のホームページのSMDOのロゴは、案件によって表示される色が変わるのですが、これは「クライアントさんの色に染まる」との意味を込めています。
相手の色に染まるためには、分析は欠かせません。クライアントさんが何を求めているかをヒアリングし、参考画像や様々な事例を提示します。デザインを出す際は3〜5案ほどが一般的なのですが、相手の許可を得た上で、100案ほど提示することもあります。これも、限られた条件の中で考えうる可能性を提示し、相手の本当に求めているクリエイティブを探るためです。 特に競合のコンペを開催する企業さんは、多くの案から検討したいとの目的があるので、全力投球して沢山の案を出します。複数の企業から沢山の案を募るところを、私たちはそれを1社でできるのもアピールポイントです。
沢山の案を出すためには、情報を集めて、検証して、何を掛け合わせるか。 寝ている間も何か考えていて、起きたらすぐにメモするほど、常にデザインのことを考えていますね。

■デザインで生活を彩る

この仕事の醍醐味としては、自分がデザインしたものがお客様の手に届くことだと感じています。ある案件で桜をモチーフにした焼き菓子のパッケージをデザインした際は、コロナのシーズンで世の中のムードが沈んでる時期だったので、桜を見上げているようなパッケージにしました。コロナの時代はネガティブな気持ちで下を向きがちだったので、上を見上げて頑張っていきましょうというメッセージを込めました。
この商品を手に取った方から、SNSのDMで、「生まれたばかりの赤ちゃんがいて、コロナでお花見もできませんでした。でも、このパッケージで初めてお花見をさせてあげることができました。このパッケージを作ってくれてありがとうございました」とのご連絡をいただきました。自分のデザインを通じて、どこかで喜んでくれる誰かがいたことがとても嬉しかったです。

■大学生へのメッセージ

人生は一度しかありません。20代であれば、まだまだ180度違う方向にでも行けると思います。私自身、大学院まで進学して中退し、当時は親に勘当された中で、クリエイティブの道に進みました。ただし、180度違う方向に行くには、そこにかかる労力は半端ではありません。私も独立したての頃には、魔法瓶にアイスコーヒーを入れて、寝る間を惜しんでひたすら働くような日々を3年くらい過ごしました。でも、その生活を苦痛だとは思いませんでした。苦労ではなくて努力だったと思います。大変なことでも「苦しい」ではなくて「楽しい」と自分が思えることは、きっと自分の力を伸ばせるジャンルだと思います。適性に悩んだり迷ったりしても、大丈夫です。本気になれば人生を変えられるのだと、ぜひ皆さんにお伝えしたいです。

学生新聞オンライン2024年9月3日取材 慶應義塾大学3年 松坂侑咲

上智大学3年 吉川みなみ / 慶應義塾大学3年 松坂侑咲 / 京都芸術大学1年 猪本玲菜 / 東洋大学3年 橋本千咲 / 文化服装学院2年 橋場もも

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