農林中央金庫 常務執行役員 土田智子

ステークホルダーと共に歩み、農林水産業の未来に貢献

農林中央金庫 常務執行役員 土田智子(つちだともこ)

■プロフィール
1994年東京大学経済学部卒業後、農林中央金庫に入庫。総合企画部広報CSR企画室長兼副部長、監事室長、名古屋支店長などを経て、2024年4月より現職。

「農林水産業の発展に寄与し、国民経済の発展に貢献する。」という使命のもと、全国の農林水産業者を支えてきた農林中央金庫。安定した資金調達基盤を背景に、持続可能な社会の実現を目指している。今回、土田智子常務執行役員に、自身のキャリアや農林中央金庫の取り組みについてお話を伺った。

私の学生時代は、今の皆さんとは大きく異なる時代背景のもとにありました。1990年に私が大学に入学した当時は、バブル経済の終わりの時期で、社会全体にはまだ楽観的な雰囲気が漂っていました。高校時代には、「大学生になったら楽しもう」と猛勉強に励んだのを覚えています。大学ではスキーやテニスのサークルに所属し、アルバイトに励む日々を送りました。
当時のアルバイトは、家庭教師が中心でした。ピーク時には5人の生徒を受け持ち、兄弟を教えることで時間を有効活用していました。しかし、これだけでは社会経験が不足していると感じ、地元の市場で年末の販売補助の仕事に挑戦し、お客様との直接のやり取りを通して、社会人としての基礎を学ぶことができたのです。
就職活動においては、当時まだインターネットが普及しておらず、企業の情報収集はハガキを使った資料請求が主流でした。さまざまな業界の資料を請求し、企業研究を重ねた中で、農林中央金庫の存在を知りました。経済学部で財政を専攻していた私は、金融機関への就職を希望しており、農林中央金庫は当時多くの都道府県に支店があり、地方の良さを活かせる環境に大きな魅力を感じたのです。

■協同組織金融機関としての使命と独自性

農林中央金庫は、農林水産業の発展を支えるユニークな金融機関です。協同組織金融機関として、他の銀行とは異なる独自の役割を担っています。単なる金融サービスの提供にとどまらず、農協や漁協との連携を通じて、現場の声を反映した支援を行っています。
例えば、JAバンクやJFマリンバンクの一員として、地方の小規模農家や新規就農者への支援策を実施し、資金調達だけでなく、事業の安定化や販路拡大をサポートしています。さらに、地域の特性に応じた金融サービスを提供するJA・JFをサポートすることで、農林水産業従事者や地域住民の課題解決に貢献しています。
また、当金庫は、農林水産業に必要な資材の生産から、生産後の加工・流通・外食・小売・輸出・消費に至るまで、食農バリューチェーン全体に幅広くネットワークを有しています。農林水産業者所得の向上に向けて、融資だけにとどまらず、取引先のビジネスマッチングや、販路拡大のサポートなどを行っています。

■安定した資金調達基盤と挑戦

農林中央金庫の強みの一つは、強固な資金調達基盤と高い信用力です。私たちは農林水産業のメインバンクとして安定した資金調達力を持ち、国内外の信用格付機関からも高い評価を受けています。これは、会員であるJA・JFなどへの組合員・利用者からの厚い信頼と、協同組織金融機関としての結びつきの強さが反映されたものだと思います。
当金庫自身も、これまで以上に経営基盤を安定させ、将来にわたって会員と連携しながら農林水産業の発展を支え続けることを目指しています。
ただ、農林水産業の課題は、労働力不足の解消から経営の高度化まで多様であり、その解決に向けては、当金庫単独でできることには限界があります。それは気候変動や生物多様性といったサステナブル分野の課題も同様です。JAグループをはじめとした農業・水産業・林業の協同組合組織はもとより、スタートアップ企業などとも連携して新たな技術やサービスなども活用しつつ、会員や取引先の課題解決に向けてどうしたらよいか、対話を行っていきます。このように、関係者をつなぐことも金融機関としての大事な役割だと考えています。

■国際展開と農林水産業への貢献

農林中央金庫では、1990年代後半から、国内の低金利環境が続くなかで国内の農林水産業の発展を支えるため、資金運用の多様化の観点から、国内外での投融資活動を積極的に展開しています。
海外では、会員の皆様に利益を還元するため、安定した収益基盤の確保を目的として、国際的な金融市場での投資活動を通じた資金運用を進めています。また、農林水産業に関連する事業やインフラへの投融資なども行っています。
海外展開にも注力し、日本の農林水産品の魅力を世界に発信する役割を担っていきたいです。グローバルな市場に目を向け、海外投融資を通じた新たなビジネスチャンスを模索し、国内産業の競争力向上に貢献することを目指しています。
農林水産業の構造変化に対応するための情報収集も重要な役割の一つです。例えば、気候変動の影響により農産物の生産地が変化するケースも増えており、気候変動が稲作・生乳・肉牛の生産量・価格・輸入に与える影響などを分析し、農林中金の報告書やホームページで開示しております。
今後も、国内の農林水産業と密接に連携しながら、持続的な成長を支えるための投融資を展開していく方針です。

■大学生へのメッセージ

今の時代は、変化のスピードが非常に速く、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢が求められています。学生の皆さんには、変わることを是とする姿勢と、常に「なぜ」、「どうして」、を考え抜く好奇心を大事にしてほしいです。純粋な好奇心に沿って時間をぜいたくに使えるのも学生の強みです。大学生活では、勉強・サークル活動・アルバイト・趣味など何でもよいので、失敗を恐れず、自分の思うところをやってみてください。その先に社会における自分の道が見えてくるのではないでしょうか。

学生新聞オンライン2025年1月25日取材 津田塾大学2年 石松果林

城西国際大学1年 渡部優理絵/津田塾大学2 年 石松果林/N高等学校2年 服部将昌/立教大学4年 緒方成菜/東洋大学2年 越山凛乃/学習院女子大学4年 小川莉実/東京大学4年 吉田昂史

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