株式会社カインズ 代表取締役会長 土屋裕雅

“Kindness(カインドネス)”が創る明るい社会

株式会社カインズ 代表取締役会長 土屋裕雅(つちやひろまさ)

■プロフィール
1966年生まれ。早稲田大学商学部卒業後、1990年、野村證券入社。1996年にいせや(現・ベイシア)入社、1998年、カインズ入社。2002年に代表取締役社長に就任。社長就任6年目の2007年にはSPA(製造小売り)宣言を行い、オリジナル商品の開発へ舵を切る大変革を断行。カインズをホームセンター業界トップ企業に成長させた。2019年3月、会長に就任。

ホームセンター業界を牽引するカインズ。“Kindness”を大切にし、常にお客様に寄り添った商品をお届けしている。カインズの社長を経て、2019年には会長に就任し、現在は、カインズやワークマンなど複数の企業で構成されるベイシアグループの実質的なトップを務める土屋裕雅氏。そんな土屋氏に、会長就任するまでの道のりやカインズの魅力について伺った。

大学生時代は狂言研究会に所属し、活動に力を入れていました。学生サークルであるにも関わらずプロの狂言師に教えていただくという、とても贅沢な経験をさせていただきましたね。この経験があり、今でも狂言を続けています。また、アメリカに渡り、様々な地域の大学を巡る旅も経験しました。そんな楽しい大学生活を送っていました。

■遠心力でグループを成長させる

大学卒業後、野村證券に就職しました。野村證券では6年間働き、最初の3年間は営業職をやっていました。様々な人に出会って自分1人で計画を作って実行するという経験は、今の仕事にとても活きていると思います。そして後半の3年間は、IPO(未上場の企業が株式を新規公開して上場すること)を担当する部署で働きました。かなり忙しかったのですが、3年間で6、7社ほど上場させることができました。しかし、IPOの担当は担当企業の応援団のようになって働くのですが、実際上場が決まると、関係が切れてしまうんですよね。せっかく関係性を築いても上場後は何の関係性もなくなることに、少し虚しさを感じてしまいました。また、良い会社は上場後からすごく伸びていくんですよ。そんな会社を複数見て、「自分も事業会社で働いてみたい」という気持ちが芽生えました
ちょうど、そんなことを思っていた時に、父が創業し経営していたベイシアグループから、「そろそろ帰ってきて働かないか」という話があり、転職を決意しました。2002年からは17年間カインズの社長を務めましたが、カインズ以外の他のグループ会社についてはほとんど何も知りませんでした。2019年には、カインズの会長となりました。そして会長になると同時に、同じベイシアグループ内の会社も更に強くするため他の会社についても様々な形で関与するようになり、グループ全体が成長していく形を作ろうと決意しました。
私は、ベイシアグループのそれぞれの会社が、求心力ではなく、遠心力で伸びていける状態を作りたいと考えています。お客様がどのようにしたら喜んでくれるのか、それぞれの会社で考え、追及していく経営を理想としています。その中で、私が会長としてやるべきことは、未来のことを見据えて今から種を仕込むということだと思うんです。新しいことを始めてそれが実を結ぶのには3、4年はかかります。だからこそ、常に先を見据えて、何を仕込むべきか、仕込むには何をしたらいいかなどを考えるようにしています。

「Kindness」の折り返し

カインズは、オリジナル商品の開発に力を入れています。ホームセンターは多様な商品を取り扱っていますが、ナショナルブランドの商品を扱っているだけでは、どこも売っているものは同じになってしまうので、差別化が難しいんです。2000年以降アパレル業界を中心に、商品企画から設計、品質管理、物流からプロモーション、販売といった一連の流れを一貫して自社で行うSPA企業が増えてきました。それを見て「ホームセンターでもSPAができるのではないか」と思い、スタートしました。
特に印象に残っている商品は、菜箸ですね。置いた時に転がらず、台に箸先がつかない菜箸を開発し、日本、そして海外でもグッドデザイン賞を受賞しました。良いデザイン、くらしをラクに楽しくするデザインは、海を超えるのだと感じました。
カインズの魅力は、親切心をもった人が多いことですね。カインズという社名も”Kindness”という言葉からきているので、働いている方も感じの良い人が多いです。これは私たちのグループらしい特徴であると思います。商品を開発する際もお客様のことを第一に考えています。そして接客する時も、お客様軸で考えることを常に大事にしています。しかし、「これは”Kindness”な行動だ」と私たちが思っているだけではダメなんです。その行動がお客さんに”Kindness”だと感じていただけて初めて、”Kindness”であると言えるのです。私はそれを「Kindnessの折り返し」と呼んでいます。
このように、親切心を大切にしている会社ですので、マインドの良い人と共に働きたいです。入社する時に、すごいスキルをすでに持っているという人はほとんどいません。スキルよりも、課題に対して積極的に取り組んでみようとする、オープンマインドで周りの人と共にやり遂げようとする、そういう姿勢が大切だと思います。

■商業を通して社会の発展に貢献する

私は、どんな企業も、社会貢献につながらなければ必要とされないと思っています。そして時代と共に、社会から必要とされるものは変わってきます。全国にホームセンターがまだなかった時代のことです。カインズは静岡県に初出店しました。当時、静岡はとても物価が高かったのですが、カインズが出店したことで物価が下がった、と言ってもらえました。物価が下がることは、地域の人にとって嬉しいことです。このようにかつては、出店そのものが社会貢献につながったと思います。現在は、商品をより安く提供することに加え、生活の改善につながる価値ある商品をお届けすることで、社会に貢献しています。
そのほかにも「くみまち構想」に取り組んでいます。これは、地域の皆さんと協力し、地域の皆さんが主役の、未来の「まちのくらし」を共に創っていく取り組みです。一例として防災があります。カインズが取り扱う商品には防災用品が多いので、平時からそうした商品を販売し、有事の際に備えていただいています。そして万が一災害が起きた時には、その地域を守るために店舗を避難所として使っていただくのです。時代と共に変わっていくニーズに対応しながら、今後も社会貢献につながる事業を行っていきたいです。

■大学生へのメッセージ

学生の頃にやっていたこと、考えたこと、影響を受けたことで人生は大きく変わります。自分と向き合い、世の中と向き合う時間を大切にしてほしいです。学生だからこそできる貴重な機会だと思うので、是非その時間を存分に活用してください。

2025年2月28日取材 国際基督教大学2年 丸山実友

国際基督教大学2年 丸山実友 / 大妻中野高等学校3年 加藤眞優花 / 第一薬科大学附属高等学校2年 畠田瑠

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