成田悠輔 「徒競走」ではなく「盆踊り」で未来をデザイン

経済学者 成田悠輔(なりたゆうすけ)
■プロフィール
経済学者・データ科学者・事業家・三流タレント。データ・アルゴリズム・思想を融合しビジネスと公共政策をデザイン。多分野で研究発表し、企業・自治体と共同事業を展開。報道・討論・お笑い・アート・ファッションなど多様な企画・出演にも携わる。
【夜明け前のPLAYERS】
未来の日本を作る 変革者「PLAYERS」と成田悠輔の予測不能な対談番組。
地上波、YouTube、公式HPで、それぞれさまざまな形の番組視聴が可能です。このインタビューの様子は「第26夜 学生記者とゾンビマネーの夜明け」で視聴できます。
https://www.youtube.com/@yoakemaeplayers

『22世紀の資本主義やがてお金は絶滅する』(文春新書)
お金の夢から醒めろ。株価も仮想通貨も過去最高値を更新。生成AIの猛威が眼前に立ち現れ、かつてなく資本主義が加速する時代。お金や市場経済はどこへ向かうのか。
■どんな学生時代を過ごしていましたか
寝てばかりの高校時代でした。学校の授業はほとんど寝ていて、目が覚めると図書館や古本屋、レコード屋や映画館をふらふらする。ただあらゆるものを目的なく眺める時間でしたね。目的に向かって正常に前進する日常から逃げたかったのかもしれません。あの頃の私には、夢や目標はありませんでした。ただ、焦りもなかったです。何も考えていなかったからです。
■データがもたらす未来についてお聞きします
目標や目的がないと、たいていのことはどうでもよくなります。たとえば偉くなるとか、お金を人より稼ぐとかに執着がないです。でも、お金というのは不思議ですね。お金は「過去の記憶をざっくりと表現した装置」だと思います。ただこのお金という仕組み、1万円の持ち主がどんな価値を生み出してきたのか、その1万円からは区別できないという弱さがあります。しかし、「データ」というピンチヒッターが出てきました。現代の技術は、私たちの属性や日々の行動、それらから染み出す価値観を細かく記録するようになりました。そういったデータは、お金に変わる感謝と信用の基盤になりえます。
■学生へのメッセージ
未来の世界ではお金の評価や働き方が大きく変わるかもしれません。競争の意味についても、これまでは速さや強さ、賢さを競う「縦の競争」が支配してきました。勉強では偏差値で、運動会では速さや強さで、社会人になれば営業成績や年収で評価されます。順位がつくわけです。しかし、お金のような単純な尺度より複雑なデータが大事になっていくこれからの社会では、「横の競争」がより大事になっていくと予想しています。たとえば運動会。かけっこで順位をつけるかわりに、みんな自由に踊る。人より速いか遅いかではなく、どれだけ自己満足できるかを競い合うような文化です。競争や評価が消えるわけではなく、競争の形が徒競走のように速い遅いや大小・高低を競うものから、盆踊りのように違いと変化を楽しむものに変わっていく。私たちが人と比べることから解放され、もっと自由に生きられる未来への第一歩だと思います。
学生新聞2025年4月号 法政大学 4年 島田大輝
<中高生新聞別冊eスポーツ特集2025年4月号 表紙スペシャルインタビュー>
■価値観や世界観のごった煮を食べた時代
寝てばかりの高校時代でした。学校の授業はほとんど寝てて、目が覚めると図書館や古本屋、レコード屋や映画館をふらふらする。ただあらゆるものを目的なく眺める時間でしたね。目的に向かって正常に前進する日常から逃げたかったのかもしれません。部員が3人しかいない山岳部の部室の棚の上でもよく寝てました。部と行っても名ばかりで、ときどき山に登って何日も何日もひたすら歩く。それだけです。南アルプスを一週間くらいかけて縦断していて、突然開けた視界に遥か彼方の山々の尾根が夕陽に照らされて飛び込んできたとき、世界は違う場所に溢れていると感じることもありました。
あの頃の私には、何の夢や目標もありませんでした。ただ、焦りもなかったです。何も考えていなかったからです。そういう時間を過ごしたことが、今ここと向き合うコツを教えてくれた気がします。無駄なことに悩まず、劣等感や優越感で自分を駆りたてず、死に向かって淡々と流されていく姿勢を授けてくれたように思うのです。今も夢や目標はないままです。
■お金を超える未来
目標や目的がないとたいていのことはどうでもよくなります。たとえば偉くなることにもこだわりがないですし、お金を人より稼ぐことにもそんなに執着がないです。でもお金というのは不思議ですね。
お金は「過去の記憶をざっくりと表現した装置」だと思います。いまお金を持っているということは、自分や自分の保護者が過去に何か価値を生み出して他人から感謝されたということですよね。誰かからの「ありがとう」の痕跡がお金です。
でもこのお金という仕組み、雑すぎませんかね。1万円の持ち主がどんな価値を生み出してきたのか、その1万円からは何もわかりません。慈善事業で生み出された1万円と詐欺恐喝で生み出された1万円を区別できないという弱さです。お金は個々人の背景や行動の詳細を消し去ってしまう消しゴムなのです。だからこそどんな人でも過去に囚われずにお金さえあれば物が買えるという利点もあるわけですが。
しかしここに来て、お金の弱点を埋めるピンチヒッターが出てきました。データです。スマホが捉える膨大な行動データ、SNS上での発言や繋がりの情報…現代の技術は私たちの属性や日々の行動、それらから染み出す価値観を細かく記録するようになりました。そういったデータはお金に変わる感謝と信用の基盤になりえます。たとえば、スーパーで商品を買うとき、お金ではなく、過去の行動データを基に信用されて商品を手にする。そんな世界が現実になるかもしれません。
もちろんそれが「いい」世界なのかは謎です。お金がいらないデータ社会はディスピア的になる可能性もあります。ただ、ユートピアとディストピアはいつも紙一重で裏表です。お金という仕組みの限界を乗り越え、より柔軟で新鮮な形で「ありがとう」や信用を伝達する装置を作れるかどうか。私たちの想像力と実装力にかかっています。
■縦の競争から横の競争へ
競争の意味も変わります。これまでは、速さや強さ、賢さを競う「縦の競争」が支配してきました。勉強では偏差値で、運動会では速さや強さで、社会人になれば営業成績や年収で評価されます。順位がつくわけです。しかし、お金のような単純な尺度より複雑なデータが大事になっていくこれからの社会では「横の競争」がより大事になっていくと予想しています。横の競争、つまり個性や逸脱を競い合う競争です。
たとえば運動会。かけっこで順位をつけるかわりに、みんな自由に踊る。そういう変化がすでに生まれつつありますよね。人より速いか遅いかではなく、それぞれがどれだけ勝手気ままに奇天烈に踊れるか、どれだけ自己満足できるかを競い合うような文化です。勉強も全員一律の授業や教科書・試験ではなく、それぞれの興味や得意不得意に応じて一人一人にカスタマイズされた教育が当たり前になっていきます。
競争や評価そのものが消えるわけではありません。ただ、競争の形が徒競走のように速い遅いや大小・高低を競うものから、盆踊りのように違いと変化を楽しむものに変わっていく。私たちが人と比べることから解放され、もっと自分自身として生きられる未来への第一歩だと思います。
■勉強してる暇があったらゲームしなさい
そんな未来にとって鍵になるのが、eスポーツ、というかゲームや仮想空間ですね。ゲームというと真面目な大人たちが眉をしかめるので、eスポーツと呼び直すのは賛成です(笑)。あちらの空間では、こちらの現実世界で生きづらさを感じる人々も新しい人生を作れます。たとえば身体的なハンディキャップを持つ人がゲームの世界で体を動かし、現実では得られない喜びや繋がりを築く。現実世界での制約を超えて、仮想空間で自分の新しい別の価値を発揮し逸脱する人が増えていくでしょう。先ほどお話しした新しい競争そのものです。それはゲームに没頭して時間を浪費することではなく、新たな人間、新たな社会、新たな現実を創り上げる行為そのものなのです。
法政大学4年 島田大輝

N 高等学校2年 服部将昌/国立音楽大学4年 岡部満里阿/法政大学4 年 島田大輝
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