株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 ESG推進本部長 宮地信幸

持続可能な未来をつくる現場からの挑戦

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 ESG推進本部長 宮地信幸(みやぢのぶゆき)

■プロフィール
1991年に株式会社CSK(現SCSK)入社。1994年に株式会社セブン-イレブン・ジャパン入社後、株式会社アイワイバンク銀行(現セブン銀行)出向を経て、2006年に株式会社セブン&アイ・ホールディングスへ転籍。広報やCSR統括部、秘書室等を担当し、現在は執行役員 ESG推進本部長として、サステナビリティやガバナンスの責任者を担う。

全国で2万店以上の店舗を展開する株式会社セブン&アイ・ホールディングスは、環境負荷の低減や地域社会との連携など、さまざまな社会課題の解決に取り組んでいます。単なる小売業にとどまらず、日々の買い物を通じて社会をより良くしていくという思いを持つ同社のESG推進本部長の宮地信幸氏にその思いを迫った。

「現場を知る」ためのキャリア選択

学生時代を振り返ると、学業やアルバイト、1人旅を通じて、非常に充実した時間を過ごせたと実感しています。
もともとはジャーナリストになりたくて、上智大学の新聞学科に入学しました。当初は、取材を通じて社会の現実を伝えるアンカーマンのような存在を目指し、ゼミに所属しながらニュース番組の制作にも取り組んでいました。しかし、学びを進める中で、自分が想像していたものとは少し違うと感じるようになり、メディア業界を目指すことを断念しました。
当時はまだ「IT」という言葉が一般的ではありませんでしたが、今後の世の中を考えた際、グローバル化、ITシステム、情報といったキーワードが、今後のテーマになると考えました。その中で選んだのが、独立系IT企業であるCSK(現SCSK)です。新聞学科を卒業したので、職種は広報を希望して入りました。
しかし、IT業界での広報活動を続ける中で、「現場を知らずに情報を発信すること」に限界を感じ始めました。現場を知ることの大切さを痛感し、広報職にとどまらず、よりリアルな現場で経験を積みたいという思いが強くなりました。
そんな折、たまたま転職エージェントから電話がかかってきたことがきっかけで、セブン‐イレブン・ジャパンに出会いました。当時、コンビニエンスストアに特別な関心があったわけではありませんでしたが、セブン‐イレブンの実質的な創業者である鈴木敏文氏の哲学や躍進するセブン‐イレブンについて書かれた書籍を読み、その考え方に共鳴しました。特に、現場からキャリアを積むことができるという企業の方針に強く惹かれました。
私は現場を体験した上で情報発信や企業活動に携わりたいと考えていたため、迷わずセブン‐イレブンへの入社を決意しました。最初は店舗勤務からスタートし、レジ操作、品出し、シフト管理、売上分析など、店舗運営の基本を一から学ぶことになりました。お客様との直接のやりとりを通じて、現場でしか得られない知見を蓄積しました。

■リアル拠点から社会を動かす挑戦

セブン&アイ・ホールディングスの強みの一つは「現場力」にあると考えています。2万店を超えるリアルな拠点を持ち、セブン‐イレブンだけでも、毎日約920人のお客様が1店舗に訪れます。グループ全体では、1日で約2220万人を超えるお客様との接点が生まれています。この圧倒的なスケールを通じて、私たちは施策の結果をダイレクトに感じ取ることができます。
例えば、ある商品を改善すれば、すぐに売れ行きやお客様の反応に現れます。さらには、加盟店オーナー様に対しても、売上向上の支援を行うことで、オーナー様自身の笑顔や感謝の言葉を直接受け取ることができます。お客様とオーナー様という二重の「お客様」が存在し、そのどちらに対しても貢献できる。この距離の近さとリアルな反応こそが、流通小売業、特にセブン&アイグループで働く醍醐味だと思っています。
私が担当するESG推進の分野では、環境・社会・ガバナンスの3つの観点から、持続可能な社会を目指して取り組みを進めています。
環境面では、店舗のCO₂排出量削減や、ペットボトルやプラスチックトレーのリサイクル促進、食品ロス削減に取り組んでいます。また、社会面では、移動販売やデリバリーサービス「7NOW」を通じて、買い物弱者への支援を強化しています。さらに、国内外のサプライチェーンにおける人権侵害の防止、フェアトレード商品の推進など、広範な活動を展開しています。災害時には、セブン‐イレブン記念財団の募金活動を通じて被災地支援にも貢献しており、募金には多くのお客様からのご協力をいただいています。
私は、今、2万店舗以上のリアル拠点を持つこの企業だからこそできる、新しい社会貢献の形を模索しています。例えば、店頭で気候変動や生物多様性保護について啓発を行い、お客様一人ひとりの意識を少しずつ変えていく。また、寄付付き商品やエシカル商品を拡充することで、日々の買い物が自然に社会貢献につながる仕組みを作る。AIが進化し、情報が溢れる時代だからこそ、人の心に届くリアルな「世界観」や「哲学」を持った商品・サービスを提供することが、これからの小売業には求められていると感じています。
このように、我々は2万店を超えるリアルな接点を持つ企業として、社会課題に向き合い、商品やサービスを通じて「より良い社会」の実現を目指しています。日常的な買い物を通じて社会貢献できる、そんな小さな素晴しさをもっと広げたい。今後も社会や地域と共に、本業を通じた社会課題解決の取り組みを続けていきたいと思っています。単なるモノの売り買いではなく、お客様と共により良い未来をつくっていく。そのために、私はこれからも現場を見つめ、社会課題と真摯に向き合いながら、セブン&アイらしい持続可能な価値提供に取り組んでいきたいですね。

■大学生へのメッセージ

社会人になると、想像以上に日々が速く過ぎていきます。だからこそ、大学時代にはぜひ自分自身としっかり向き合い、将来何をやりたいのかをよく考えてほしいと思います。家族や友人とも対話を重ね、自分の強みや興味を見つめ直す時間を持ってください。
また時間に余裕のある今のうちに、英語力や財務に関する基本知識も身につけておくことをおすすめします。英語は必ずといっていいほど必要になりますし、企業活動には数字の理解が不可欠です。
とはいえ、大学時代を思いきり楽しむことが何よりも大切です。学生時代は人生で特別な輝きを持つ時期です。学びも遊びも、すべてを全力で味わってください。その経験は、必ず未来の自分を支える力になります。

学生新聞オンライン2025年4月2日取材 国際基督教大学3年 若生真衣

慶應義塾大学4年  松坂侑咲/城西国際大学2年 渡部優理絵 /
津田塾大学3年 石松果林 / 国際基督教大学3年 若生真衣

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