三井住友トラストグループ株式会社 執行役常務兼執行役員CISO 米山学朋
『古き良き技術と新しい技術の融合で、未来を創る。』
三井住友トラストグループ株式会社 執行役常務兼執行役員CISO
三井住友信託銀行株式会社 取締役常務執行役員 米山学朋(よねやま まなとも)
■プロフィール
1991年に住友信託銀行(現:三井住友信託銀行)に入社。海外駐在、システム開発、経営企画等の幅広い分野の要職を歴任。2017年に業務管理部長、その後は初代デジタル企画部長としてデジタル戦略を推進。2019年に経営企画部長、2021年より取締役常務執行役員(現職)。2024年に三井住友トラストグループ株式会社執行役常務兼執行役員 CISO(チーフ インフォメーション セキュリティ オフィサー)に就任。
信託銀行の仕事は、「お客様から託された大切な財産をお客様のためにどう活用していくか、制度を設計する『モノづくり』である」と語るのは、三井住友トラストグループ株式会社の常務である米山学朋さんだ。そんな米山さんに信託の仕組みから、現在行うデジタルを活用した新たな取り組み、これからの展望について伺った。
■入社のきっかけは、金融の世界のモノづくりに興味を抱いたから
信託銀行とは、お客様から財産等を預かり、それを適切に運用・維持・管理して、利益を受ける方にお返しするビジネスです。資産を預けてくれる方を「委託者」、受け取って運用するものが「受託者」、利益を受ける方を「受益者」、と呼びます。
例えば、企業の人事部が従業員の福利厚生のために独自の年金制度を導入する際、自分達だけだと複雑で運営が難しいため、企業の人事部が担っていた年金制度をまとめて信託業務としてスタートしたのが「年金信託」です。この時、私たちはその企業・従業員にとって最適な年金の制度を設計します。つまり金融はお金の仲介だけではなく、制度設計づくりのパーツが非常に大きな部分を占めています。金融のいろんな機能を一つのパッケージ商品にしてモノづくりをしているというのが、普通の銀行にはない信託銀行の重要な部分です。
私は経済学部でしたが、元々理系志望でモノづくりに興味がありました。経済の中でモノづくりというのは難しく、就職を考えたとき信託銀行はモノづくりに非常に近い業態だと感じました。金融でモノづくりをする方が、やりがいがあり興味を持ってできると思ったのが入社の1番の動機です。
■信託の機能は『意思決定の支援』と『適切な選択肢の提供』
私は「信託って何?」と聞かれたとき、「信託機能とは意思決定の支援と適切な選択肢の提供である」と答えます。我々は信託財産をお客様があらかじめ定めた目的に沿って管理・運用しています。そのため、お客様が検討しなければならない項目は多岐にわたり、選択肢は無限にあるわけです。でも、皆さんプロではありませんので全部並べられても分からない状況です。そこで、専門家である我々が、最適な選択肢を提示して、次のステップに進む後押しをしてあげることが大切になります。各種制度を詳しく知っている専門家のアドバイスが必要ですが、意思決定するのはあくまでもお客様です。ですから信託は意思決定の支援をするという機能がすごく重要なエッセンスとして入っています。加えて、20個も30個も選択肢があっても分かりづらいですよね。選択肢は3つ~5つぐらいが適切です。ある程度ニーズに合った、ちょうどよく選べる選択肢を提供することが信託の大きな機能だと思っています。自分達で組み上げたものがお客様の手に渡るのをダイレクトに感じ、お客様や社内の人たちからのフィードバックを得られることがやりがいや達成感に繋がります。
■今あるものをデジタルによってトランスフォーメーションしていく
三井住友トラストグループは、今年100周年を迎えた業歴が長い企業です。金融業界は商品ライフサイクルがとても長いため、30年単位の昔ながらの制度を守っていかなくてはいけません。そのため、すごく古いシステムや技術が今でも現役で動いています。この古い技術をデジタルという新しい技術を活用して、どのように近代化させ、最先端のテクノロジーをベースにどのように業務フィッティングさせていくのか、これが今の最大のテーマです。
信託銀行の特徴として、企業や個人ごとにオリジナルの制度の設計をするため少量多品種になることがあります。大量消費・大量生産のものはシステム化しやすいですが、少ししかないものは、システム化が難しいことがあります。つまり信託銀行のビジネスではITをうまく使っていかないと処理限界が生じることがあります。実際、ある商品では法人のお客様の場合、1,000人ぐらいの従業員がいらっしゃる企業でないと投資採算が合わないということがあり、サイズ感が限定されるために我々がカバーできないことがありました。しかし、クラウド環境を活用することで部品パーツだけ流用することができ、低コスト化も可能になりました。システム化のサイズ感を小さくし、従業員数というハードルを300名、100名、10名にしてサービスを供する「信託サービスの民主化」が出来るのではないか。これが現在のチャレンジしていることです。
■昔ながらの技術もそのまま、適切に新たな技術を活用する
事務的作業は、最後人間が目で見てチェックを行い、すごく高い品質を保っています。これは99.99・・・%の精度です。お客様はミスが無くて安心感を覚えます。日本人のサービスに対する感受性と求めるクオリティーの高さは世界でも有数です。例えばOCRという認識系AIを使えば99%ぐらいまでは持っていけます。ところが人による作業だと99.99・・・%の精度ですから「なにこれ、全く使えない。」という評価になります。認識系AIの限界です。ですから、去年の生成AIの登場はすごいインパクトでした。生成AI はベテランの人たちが身に着けてきた経験から類推して読み取ることが可能のため、お客様に受け入れてもらえる所まで精度を上げることが出来ると思っています。最後のワンマイルの解決策になります。皆さんも、もしも自分の預金通帳の数字が間違っていたら嫌ですよね。金融だから安全安心という部分が必ずあると思います。今も業務の厳密な正確性が求められる部分は、新たなテクノロジーではなく昔ながらの技術で行っています。古い技術を捨てるのではなく、適切な部分に新たな技術を取り入れ、より早くより好みに合わせたものに適応していくことが大事だと思います。
■世界に認知されるグループへ
他の大手企業の場合デジタル人材は全体の10%ぐらいですが、信託銀行はモノづくりなので「全員がデジタル人材だ」と言っています。そのために、クラウドコンピューティングなど基礎的な知識や実地研修で自分のスキルを座学で身に着けるなど、デジタル人材をつくる環境があります。また、各々業務ごとに求められるDXのエッセンスは変わってきます。より自分のいるマーケティングフロントに近いスキルを磨く必要がありますが、全員がなるべく多くどの領域でも対応できるように研修などを通じてデジタル人材の育成に注力しています。
三井住友信託銀行の魅力は他の信託銀行と違い、上場して信託を専業で行っている金融機関である点です。そのため、大手の国内・国外の金融企業では比較対象がありません。「諸外国には三井住友トラストグループのような会社はありますか?」という質問が一番答えにくいのです。ですから、私の展望は、三井住友トラストグループという一つの生態系を日本や世界で認知される、定義される企業グループにすることです。これまでも掲げてきた、そしてこれからも変わらない大きなミッションです。
■大学生へのメッセージ
私は、昔の価値観を持つ上の世代の人たちが、社会の中核を担ってすべて回していく未来は、本当に正しいのだろうかと疑問に思うことがあります。私がアメリカにいた時、「すごいな」と感じたのは、働いている人たちは45歳ぐらいでリタイアメントし、若い世代がこれからの社会を作るという意識が非常に高かったことです。確かに60歳の人と35歳の人では経験値は全然違います。しかし、経験値はアドバイスでもらえばいいのですが、判断やモノを動かす、進めるという時に大事なのは経験値だけではないのかなと思っています。もちろん上の世代の人たちにも引き続き社会に関与して貢献・活躍できる領域があるし、新たなものを作る意識を持たなくてはなりませんが、中核や主要を担うのは一番バイタリティがあり、働ける年齢の人たちであると私は思います。ぜひとも若い皆さんには会社、社会を変えていって欲しいです。
学生新聞オンライン2024年8月15日取材 東洋大学2年 越山凛乃
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