株式会社AIメディカルサービス 代表取締役 CEO 多田智裕

挑戦し続ける医療革新のフロンティア

株式会社AIメディカルサービス 代表取締役 CEO 多田智裕 (ただともひろ)

■プロフィール

東京大学医学部ならびに大学院卒。東京大学医学部附属病院などで勤務。2006年にただともひろ胃腸科肛門科を開業。2017年株式会社AIメディカルサービスを設立。2025年より医療法人SCジェイズ胃腸内視鏡・肛門クリニック名誉理事長。『行列のできる 患者に優しい“無痛”大腸内視鏡挿入法』『東大病院をやめて埼玉で開業医になった僕が世界をめざしてAIスタートアップを立ち上げた話』など著書複数。

AI技術を活用した内視鏡検査の革新で、医療業界に新たな風を吹き込む多田智裕さん。学生時代から医師、起業家としての道を切り開き、現在はAIメディカルサービスのCEOとして活躍。革新的な挑戦を続ける多田さんに、医療とテクノロジーの未来、そして大学生へのメッセージを伺いました。

■医学部時代、努力の積み重ね

学生時代は、勉強とアルバイトにほとんどの時間を費やしていました。医学部に在籍していたため、朝から晩まで授業や実習が詰まっており、他学部の友人たちが「週1回の授業だけでいい」と話しているのを聞くと驚くばかりでした。医学部のカリキュラムは非常に過密で、9時から夕方までの授業が連日続く上、実習が長引いて帰宅が夜遅くなることもしばしばありました。一方で、学費や生活費は全て自分で賄う必要がありました。塾講師のアルバイトをしながら、勉強と仕事を両立する日々は厳しかったですが、自分自身で努力して道を切り開く経験は大きな財産となりました。
医学部を志した理由は、シンプルに「医師という職業が面白そうだ」と感じたからです。周囲には医師を目指す友人や先輩が多く、「人の命に関わる医療分野なら、自分の可能性を最大限に試せる」と思いました。大きな決断というよりは、興味や好奇心が背中を押してくれた形です。当時の私にとって、医師になることは確かなハードルではありましたが、挑戦してみる価値があると感じました。

■開業医としての自由と責任

医学部を卒業後、東大病院を始めとする複数の病院で研修医として勤務し、外科専門医を取得しました。そののちに東大大学院に進み、卒業後に埼玉でクリニックを開業しました。開業医として働くことで、医療の現場で必要とされる自由と責任を強く感じました。開業医は、すべての決定権を自分で持つことができます。例えば、スタッフの採用や医療機器の導入も私自身の裁量で進められます。大学病院のように予算申請や承認プロセスに時間を取られることなく、患者さんのために迅速な判断ができる。そのことは大きな魅力でした。
私が開業した当時は、まだまだ専門性を持つクリニックが少ない時代でした。多くのクリニックが幅広い診療科目を掲げていた中で、私が選んだのは内視鏡検査に特化する道です。内視鏡検査は、胃がんや大腸がんといった消化管がんを早期に発見するために非常に重要な検査です。特に、ステージ1で発見できれば治癒の可能性が高く、私はこの分野で専門性を磨くことで、患者さんの命を救う可能性を広げたいと考えました。
また、内視鏡検査の普及には患者さんの負担を軽減する必要がありました。当時、胃カメラや大腸内視鏡は苦痛を伴う検査というイメージが強く、検査を受けること自体を敬遠する患者さんが少なくありませんでした。そのため、私は技術を改良し、苦痛を最小限に抑えた検査方法を追求しました。この取り組みを通じて、患者さんが安心して検査を受けられる環境を整えることができたと感じています。

■AIと医療を融合させた新たな挑戦

クリニックを運営する中で、内視鏡検査の精度についても問題意識を持っていました。というのも内視鏡検査は人の目で診る検査のため、どれだけ技術が発達しても最後は医師の画像診断能力に依存するからです。そんなときに東京大学の松尾豊教授から「AIの画像認識能力が人間を超えた」ということを伺い、AIを活用すれば内視鏡検査の精度をさらに高め、究極的には見逃しをゼロにすることができると考え、内視鏡AIの研究開発に挑戦することにしました。そして、世界初の胃がん検出AIの研究開発に成功したのです。この技術を研究で終わらせず社会実装すべく、2017年に株式会社AIメディカルサービスを設立しました。
内視鏡AIは徐々に医療現場に取り入れられ始めており、内視鏡専門医の目でも見逃されていた難しい病変の検出が期待されています。また、当社のソフトウェアに関してはベンダーフリーである点が大きな特徴です。検査機器を問わないため導入のハードルを下げつつ、診断精度の向上を支援することで、多くの患者さんの命を救う可能性を広げています。
私たちのミッションは、内視鏡検査の普及と診断精度の向上を通じて、がん死亡率を減らすことです。この取り組みを通じて、日本発の医療技術を世界に広げたいと考えています。特に、胃がんや大腸がんといった消化管がんの早期発見は、患者の生存率を劇的に向上させることができるはず。これを可能にする内視鏡AIは、日本のみならず世界でも注目されており、私たちの技術が患者さんの未来を変える一助になればと思っています。

■大学生へのメッセージ

大学生の皆さんには、「自分の可能性を信じて挑戦してほしい」とお伝えしたいです。例えば、スタートアップという選択肢も、今後のキャリアを広げる上で非常に有効な道です。AIやデータサイエンスなどの分野では、スタートアップがイノベーションの中心となっています。
私もクリニックの開業やAI技術の開発に挑戦してきましたが、どちらも「失敗を恐れない」精神が大きな原動力でした。大企業でのキャリアも魅力的ですが、スタートアップでは短期間で大きな成果を生み出すチャンスがあります。成功や失敗を繰り返しながら、自分自身の可能性を追求してほしいです。また、起業という選択肢についても、ぜひ検討していただきたいと思います。日本ではまだ起業が少ない現状ですが、自分で道を切り開く経験は、他では得られない貴重な学びをもたらしてくれます。自分の興味や情熱を軸に行動し、一歩踏み出すことで、新しい世界が開けるはずです。失敗を恐れず挑戦する皆さんの姿が、日本の未来を切り開いていくことを心から期待しています。

学生新聞オンライン2024年11月20日取材 津田塾大学2年 石松果林

武蔵野大学 4年 西山流生/城西国際大学 1年 渡部優理絵/津田塾大学 2年 石松果林/青山学院大学4年 北嶋里奈子/法政大学4年 鈴木悠介

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