アサヒビール株式会社 代表取締役社長 松山一雄
自ら変化を起こし、行動し、挑戦し続ける人に幸運が訪れる

アサヒビール株式会社 代表取締役社長 松山一雄(まつやまかずお)
■プロフィール
1960年東京生まれ。春日部高校ではラグビー、青山学院大学では ESS(ディベート)に没頭。卒業後、鹿島建設に入社し、サトーへ転職。その後、米国で MBAを取得し、P&Gなどの外資系会社を経て、2001年サトーに復職。2011年10月に社長へ。2018年9月にアサヒビールに入社後、マーケティング本部長などを歴任し、2023年3月から現職。
終身雇用が当たり前の時代に、5社を渡り歩くという異色の経歴を持つ松山社長。その原動力となっているのは「自分に限界を置かない」姿勢だ。これからの時代に求められるのは、自ら変化を起こし、その過程を楽しめる人だという。松山社長に行動し、挑戦することの大切さについて語っていただいた。
高校時代はラグビーに打ち込み、理系への進学を夢見ていました。今は必ずしもそうではないと思いますが、進路を考える中で色覚検査をきっかけに将来の選択肢が制限される可能性を指摘されました。当時は大きなショックでしたが、気持ちを切り替え、もう一つ好きだった英語の道へ進むことを決意しました。
進学した青山学院大学ではE S S(English Speaking Society)に所属し、英語ディベートに没頭しました。まだインターネットもなく、英会話学校も一般的ではなかった時代です。仲間と図書館に通い、コピー代を工面しながら資料を集め、議論を重ねました。ディベートでは、限られた時間の中で論理を組み立て、相手の反論に対応する。その経験を通じて情報収集力やタイムマネジメント力、チームワークが鍛えられました。全国大会三連覇を達成したこの時間こそが私の原点です。
■「限界を決めない」キャリアの原動力
大学3~4年次のときに、アメリカの大学生とのディベート交換プログラムに参加しました。そこで出会った学生たちは、「MBAを取得して経営者になる」「将来はこの業界を変える」といった明確な目標を堂々と語っていました。その姿に強い衝撃を受け、「自分も小さくまとまってはいけない」と感じたことを今でもよく覚えています。
卒業後は海外で働きたいという思いが強く、鹿島建設に入社。マレーシアのジャングルでの建設プロジェクトにも携わりました。その後、27歳でサトーに転職し、海外工場の立ち上げに挑戦。さらに31歳のときにマーケティングの世界で有名なノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に留学。MBAを取得しました。
帰国後はP&Gでブランドマネージャーを務め、外資系製薬会社では日本のマーケティング部門の責任者などを経験。その後再びサトーに戻り、最後の6年半は社長として経営を担いました。
終身雇用や年功序列が当たり前だった時代に、5社を渡り歩くキャリアは決して一般的ではありませんでした。しかし振り返ってみると、その原動力は大学時代のディベートと海外経験によって培われた「自分で限界を決めない姿勢」だったと思います。
■アサヒビールに受け継がれる挑戦のDNA
アサヒビールに入社して8年が経ちました。アサヒビールはかつて「夕日ビール」と揶揄されるほど業績が低迷。その後、1987年に誕生した「スーパードライ」が市場に革命をもたらし、V字回復。「辛口」という新しい価値提案によって、ビールの常識そのものを変えたのです。
近年では、コロナ禍に誕生した「生ジョッキ缶」が象徴的な挑戦でした。実はこの商品は、研究所に眠っていた2つの没ネタとなったアイデアを組み合わせることで生まれたものです。お客様への調査だけでは見えてこない発想を、現場の好奇心と挑戦心が形にしました。そして来年はスーパードライ誕生から40周年を迎え、さらに新しい挑戦をしていきます。
私が社員に伝え続けているのは、「真ん中お客様」という考え方です。お客様こそが最も重要な存在であり、変化する価値観に寄り添い続けることこそがブランドを育てる力になると信じています。
■スマドリが描く未来
今、私が最も力を注いでいる一つが「スマートドリンキング(スマドリ)」です。スマドリは、お酒を飲む人と飲まない人を分ける考え方ではありません。すべての大人が自分らしく楽しめる飲み物を選べる社会を目指す取り組みです。アルコール飲料だけでなく、ノンアルコール飲料や低アルコール飲料、さらには“大人テイスト飲料”という新しいカテゴリーまで含めて、多様な選択肢を提供していきたいと考えています。
私たちが目指しているのは、単にビールをつくる会社ではなく、「ビールのある、いい人生をつくる会社」です。そして、「世界で一番魅力的でワクワクする『ビール会社』」であり、「100年後も愛され続ける『未来のビール会社』」でありたい。その実現に向けて変化を待つのではなく、自ら変化していきたいと思っています。
これからの時代に最も求められるのは、変化を面白がれる人だと思います。変化を恐れないだけでなく、変化の過程を楽しめる人です。正解が見えない時代だからこそ、自分自身で問いを立て続けることが重要になります。
私が大切にしている言葉に、「セレンディピティ」があります。幸運はただ待っていても訪れません。一生懸命考え、行動し、挑戦し続ける人のもとに、思いがけない形でやってきます。理系への道を断念した経験が結果として英語との出会いにつながり、その後の人生を大きく変えました。振り返ればあの挫折も次の可能性への入口だったのです。
■message
これから必要とされるのは、「誰かの役に立ちたい」という思いを持ち、挑戦を楽しめる人です。自分のためだけではなく、誰かのために力を尽くそうとする人は、仕事そのものを深く楽しむことができます。何かに夢中になり、「気付けばこんなに時間が経っていた」と感じる瞬間があるはずです。その感覚を大切にしながら自ら考え、自ら選び、自分の人生のストーリーを紡いでいってください。
学生新聞2026年10月号 情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥

日本大学2年 原田達司/成城大学2年 小澤実桜/東京薬科大学4年 庄司春菜/情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥/早稲田大学3年 伊藤健太


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