立命館アジア太平洋大学(APU) 第5代目学長  米山裕

留学経験が引っ込み思案だった自分から脱皮する出発点に

立命館アジア太平洋大学(APU) 第5代目学長  米山裕(よねやま ひろし)

■プロフィール
1959年東京都生まれ。東京大学教養学部卒業後、筑波大学にて文学修士(史学)取得。1991年カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院歴史学研究科退学。東京大学教養学部助手、東洋女子短期大学助教授、立命館大学文学部教授等を経て、2020年に立命館アジア太平洋大学に副学長として着任。2024年1月から現職。専門はアメリカ史・日系移民史。

大分県別府市にキャンパスを構えるAPU。2000年に「3つの50」(国際学生の比率50%、外国籍の教員比率50%、学生の出身国・地域数50以上)をコンセプトに掲げ、開学。今では100を超える国・地域から学生が集まる、日本を代表する国際的な大学となっている。米山裕学長からAPUへの熱い想いや学長としての役割、大学生へのメッセージを伺った。

■どのような学生時代を送っていましたか

大学では教養学部でアメリカの日系人にまつわる研究をしていました。もともとは、理科一類に入学したのですが、「1年目が面白くない病」に罹ってしまって困っていたんです。すると、「国際関係論」という授業をきっかけに文系の学びの面白さを見つけ、文転を決断しました。それから先輩の勧めで在学中に、奨学金を得てアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に1年間の留学をしました。勉強はもちろん大変でしたが、留学先では自分1人で決断する場面やいろいろなトラブルを自分1人で交渉して解決しなくてはならないなど大変な経験をしました。さらに、インターナショナルスクールに通っていた日本人や中国と日本にルーツを持つ人など、日本社会で生きづらさを感じてきた学生とも交流をしました。そうした出会いを通して、人間の多様性を実感し、その知見が日系人を研究するうえでもとても役に立ちました。今振り返ると、アメリカの留学経験が、引っ込み思案で本を読むのが好きな若い自分から、脱皮する出発点になったと思います。

■学長としての仕事内容を教えてください

学長に就任する前は、立命館大学の文学部で21年間教えていました。もともと国際的な学びができるAPUに関心があったので、当時学長であった出口治明氏から副学長の誘いがあった時には「はい、行きます!」と立命館大学から離れて、大分に引っ越す決意をしました。
主に学長は大学のトップとして先頭に立ち、学生の学びと成長を保証するべく、学内の意見を取りまとめ、最終的な意思決定を行っています。APUの特徴の1つに大分の別府にキャンパスがあるため、1年生のほとんどが「APハウス」という学生寮に入居しています。4月と9月それぞれに約半数の学生が入学し、寮生も半年ごとに半分入れ替わるので、毎学期「学長も泊まらnight」というイベントを実施し、学生と一緒に寮に泊まって交流を深めています。このようなことも学長の大切な仕事です。広報活動としては、高校や塾、企業と連携を行い、APUの学生の強みをアピールすることで学生募集や、就職、インターン活動の幅を広げる取り組みを行っています。そのほかにも、5年後10年後にAPUがどのような大学であるべきか、中長期的なビジョンを教職員のみなさんと議論を進めています。
現在新たに取り組んでいることの1つに、APUの教育を学生以外の社会人にどのようにして提供していくかについて話し合いを進めています。政府が推進する新しい知識やスキルを学ぶ「リスキリング」を、APUではライフロングラーニングと表現しており、単なるスキルの習得に留まらず、年齢や属性に関係なく、自分の成長や企業や地域の課題解決のために、大学の教育や研究を活用してもらえるような仕組みを提供したいと考えています。立命館大学で教鞭を執っていた頃は学長になるなんて想像もつきませんでした。でも今は、「自分はこういうことをしたかったのか」という気づきにつながり、学長になって本当に良かったと思っています。

■学生が生み出す「新たな人類社会」とは

APUでは、日本で成長した学生も外国から来た学生も、どちらかが肩身の狭い思いをすることなく対等に付き合っている姿が見られます。これは新しい人類社会だ、すごい環境がこのキャンパスに生まれている、と素直に感じました。今日本社会では、外国人を巡り反対論が生まれ議論が過熱している一方です。しかし、学生たちの約50%が留学生という環境の中、楽しそうにお互いに切磋琢磨して学んでいるのがAPUでのリアルです。日本人の皆さんにもできることだと、確信を持ってもらえたらいいなと感じています。国際交流は大学の枠を超えて別府という地域全体に広がっています。APUの学生が生活しているからこそ、ホテルやレストランだけでなく、別府市全体のインバウンド対応にも貢献しています。
また、日本人はよく主体的に動かないから国際的に活躍できないと言われていますが、私は半分は嘘ではないかと考えています。留学生と聞くとアクティブで国際的なイメージを持ちますが、そんなことはなく、ミャンマーやインドネシアのように自分の意見をはっきり言わない教育を受けている学生やインド、パキスタンのように自分の意見を強く主張する学生もいるなど多様な人が集まっています。教える教員も約50%が外国籍という環境で、人とは違う自分の独自の感じ方、考え方を大事にされると、インタラクティブで人と話すことが好きになることを意味する「コミュニカティブ」な能力が鍛えられて伸びると感じます。正しい環境さえ提供できれば、若い人たちはどんどん羽を伸ばして活躍できるポテンシャルを秘めています。APUの学生たちを見ていると、ディスカッションがとても活発で、「意識高い系」みたいな揶揄が絶対になく、お互いにサポートする学生文化があります。若い人たちのポテンシャルを生かすには、社会全体としてどんな取り組みを行うべきか、我々が考えさせられる体験を常にしています。

■学生へのメッセージをお願いします

学生の皆さんはこれから短くとも50年、60年社会で活躍することになると思います。今見えているのはエネルギー問題や気候変動、AIの台頭や紛争も起こる不安定な世の中ですが、それを超えて、我々大人が予想もできない未来が来るはずです。その時にどんなことが起きても対応する覚悟と、どんなことが起きても対応できるよう学び続ける姿勢を持つことが、皆さんにとっての最大の武器です。これから起こる変化にポジティブに対応し、少し楽しむくらいで、自分の成長のチャンスとして捉え、「何が来ても自分は乗り越える力はあるぞ」という学び続ける姿勢を期待したいです。

学生新聞オンライン2026年7月26日取材 日本女子大学1年 大池絵万里

国際基督教大学4年 若生真衣/開智日本橋学園高等学校2年 古家凛音/東京女子大学3年 浮田梨沙/青山学院大学2年 松山絢美

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