株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 代表取締役社長 小松雅美

ボトムアップ型で全員が経営に参加できる企業を目指して

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 代表取締役社長 小松雅美(こまつまさみ)

■プロフィール

1960年千葉県生まれ。日本大学文理学部卒業後、1986 年に株式会社デニーズジャパン(現株式会社 セブン&アイ・フードシステムズ)入社。現場の店長や地区担当マネジャーを経験後、営業本部 総括マネジャー や 商品開発 部長、レストラン事業部長などを経て、2017 年 3月に代表取締役社長就任。

「社員やパートの方の成長に関われることが一番の喜び」だと語るのは、株式会社セブン&アイ・フードシステムズの小松雅美社長だ。大学時代に、障がいを持つ人々の介助に関わったことから、社会をどうすればよくできるかを考えるようになったという。現在、自身が運営を担当するファミリーレストランのデニーズだからこそ、お客様に提供できる価値や、今の若者に向けた熱いメッセージを伺った。

■障がいを持つ人々の介助から学んだこと

大学時代の経験として、一番印象に残っていて、現在でも思考や行動の礎となっているのが、障がいを持つ方が集まる施設で介助をさせて頂いたことです。
今でこそ、エレベーターや多目的トイレなど様々なバリアフリーが充実していますが、当時は障がいを持つ方が外出することは難しかった。たとえば、現在では、車いすの方が電車に乗る時に駅員さんが補助をしてくれますが、私の学生時代は、車いすの方が階段を上るときは、周りの人々に声をかけて手伝ってもらうことが多かったです。その介助を通じて、年齢などに関係なく手伝ってくれる方は一定数いることに気が付き、人の優しさを感じましたね。
ただ、その一方で、社会の矛盾やゆがみを感じるようにもなりました。

■人の成長の過程を見ることに楽しさを感じる

当初は教員を目指していましたが、4年生の時に「本当に自分が教師になっていいのか」と悩み、教員になるために必要な単位を1つ取らずに卒業し、卒業後はホテルに入社しました。

ホテルを選んだのは、飲食業でのアルバイト経験があったからです。大学に通う傍ら、介助を週5、6回ほど行っていたため、介助に行くための交通費や日々の食事代を稼ぐためにいろいろなアルバイトをしていました。そのときに、アルバイト先で料理に携わったことから関心を持ち、「コックになりたい」と思いました。

当時、大卒でコックになる人は珍しかったので、周りが私を見る目は懐疑的でした。ただ、一生懸命に働き続けたおかげで、次第に先輩からも認められるようになりましたね。

そんなとき、たまたま友人の務めている学校が規模を拡大し、「教員が不足しているからやってみないか」という話をいただきました。取り残した1単位を通信課程で取れば教員になれるので、仕事をしながら勉強できる環境を求め、デニーズに転職したのです。

しかし、いざ転職したところ、思ったよりもデニーズでの仕事が忙しく、勉強する時間がなかなか取れません。さらに、働いて一年が過ぎたころ体を壊してしまい、「何故私はコックをやめて、デニーズにいるんだろう」と考え、自分の仕事について改めて見つめ直しました。

当時の私は、デニーズで働くアルバイトの方々の教育を通じて、彼らの成長の過程を見ることに楽しさを感じていました。それに気づいたとき、「これは教師よりもやりがいがあるのではないか」という考えに変わり、教師の道ではなく、デニーズで働き続けることを選びました。

■食を通して人の命や健康を扱っている尊い仕事

仕事のやりがいは、お客様も含めて人と人が出会い、生まれる効果を感じられることです。働き始めたときから、人間の命や健康という人生の根幹に関わる尊い仕事をさせて頂いているという思いはずっと変わっていません。
また、この仕事の醍醐味は人の成長だと思います。我々の理念を体現してくれる社員やスタッフは宝物であり、彼らの成長に関われることが本当にありがたいことです。毎日お客様から様々なご意見を頂くのですが、お褒めの言葉をいただいた時は本当に嬉しいです。反対に、お客様からお叱りを受けることもあるので、いただいたご意見を参考に、日々改善に向けた取り組みを進めています。

ただ、頭では「こうしたほうがいい」とわかっていても、その理念を社員やスタッフのみなさんに体現してもらわないと意味がありません。だから、日々、「どうしたら、自分の理想と会社の理念を1万1千人以上の全社員に伝えられるか」を、常に考えています。
自分の想いを伝えるため、いろんなことに取り組んでいるのですが、その一つが、毎週全従業員に向けて手紙を書くことです。その手紙には、自分の考える会社の在り方や接客の理想像などを書いています。ありがたいことに、この手紙に対して、社員だけではなくアルバイトやパートの方からも感想文が届くのですが、それを読んだり、返事を書くのも楽しみですね。

■デニーズの魅力は、親しみやすさとこまやかな変化にも対応できる点

ファミリーレストランであるデニーズの魅力は、地域社会に根付いているため、お客様との距離が近い点だと思います。そのため、日々、フレンドリーサービスを心掛けていて、「いらっしゃいませ、デニーズにようこそ」という挨拶も、お客様に親しみやすく感じてもらえるように考えたものです。
常連のお客様によっては「いつもの」という一言でオーダーが通るなど、お客様との距離感や明るさもデニーズの魅力だと思います。
また、デニーズはセントラルキッチンを持っていません。ひとつ一つの商品を自社の商品開発部と購買部門だけでなく、メーカーなどお取引先様とタッグを組んで開発している点が、他社との差別化につながっていると思います。技術と情報を一番もっているのはメーカー様なので、メーカー様の知見と私たちの知見を組み合わせることによって、より良い商品を開発することができます。また、お客様の嗜好の変化にも、こまやかに対応できるのがメリットです。

■時代の変革期ゆえ、自分の意見が言える人がキーパーソンに

私たちの会社は対面での接客業がメインなので、人と人との関係つくりが好きな人や人に関心がある人、元気で明るくチャレンジ精神がある人と一緒に働きたいと思っています。
今は大きな変化の時です。変化が激しいため、誰にも経営の正解や活路が分からない状態といえます。そんななか、トップや経営陣だけの経験や知識に基づく方策・施策だけでは、社会の変化に対応ができずにスピードが遅れる可能性があります。
だからこそ、会社の理念に共感して共鳴しつつも自分の意見を持ち、活発に議論ができるような方がキーパーソンになると思います。会社の構造自体も、どんな人でも自由に意見が言えるようなボトムアップ型の構造になるように改革中です。
実際に、私たちが今やっている取り組みのなかでも、ボトムアップ型で出てきた意見が反映されて、成果が出ているものもあります。今後も、社員1万1千人の経験と知識を総結集し、さまざまなトライ&エラーを繰り返して、この荒波を乗り越えていきたいと思います。

■message
大学生への皆様へ伝えたいことは2つあります。
1つ目は失敗を恐れないでほしいということです。失敗を通して自分の中にいろいろな引き出しが増えていき成長につながります。トライ&エラーを繰り返して、どんどんいろんなことにチャレンジしていってほしいですね。
2つ目は小さな行動の積み重ねが重要ということです。
豊かな明日を作り、守るために、私たちができることは身近にたくさんあります。小さな行動のひとつ一つが社会課題の解決や持続可能な社会の実現につながると思います。

学生新聞オンライン2022年3月24日 明治大学3年 酒井躍

明治大学3年 酒井躍/津田塾大学2年 佐藤心咲/早稲田大学 3年 Nang Honey Aung/慶應義塾大学2年 伊東美優

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