アパグループ 社長兼最高経営責任者(CEO) 元谷一志
原点となったのは、父からの教え「情報の感度を磨け」。
アパグループ 社長兼最高経営責任者(CEO) 元谷一志 (もとやいっし)
■プロフィール
1971年4月20日福井県生まれ。石川県出身。1990年石川県立金沢二水高等学校卒業。1995年学習院大学経済学部経営学科卒業。住友銀行にて5年間勤務した後、1999年11月アパホテル株式会社常務取締役として入社。2004年に専務取締役に就任した後、2012年5月にアパグループ株式会社代表取締役社長に就任し、グループ専務取締役最高財務責任者、グローバル事業本部長を歴任。2022年4月アパグループ社長兼最高経営責任者(CEO)に就任し、現在に至る。
ホテルやマンション開発などのリーディングカンパニーとして、誰もが一度は、その名前を目にした事があるであろうアパグループ。そのCEOである元谷一志さんは、常に時代を先取り、数々のイノベーションを起こす経営者としても知られています。そんな元谷さんが、「生まれた瞬間から受け入れてきた」と語る自身が感じる使命や、世の中の動きを俊敏にキャッチするため、日々心掛けていることなどを伺いました。
■父から学んだ帝王学
昭和46年私が生まれた日、父が独立し、会社設立申請登記をして、いまのアパグループが誕生しました。幼少期から「会社を継げ、継げ」と言われて育ったため、「自分は将来経営者になるのだな」という宿命を受け入れていましたね。
私は人生において、宿命と運命があると思います。仕事や結婚は運命で能動的に選べますが、宿命からは逃れられない。小学生の頃、私が21時に寝ても、父の帰宅時23時頃に起こされるんです。そして、その時に、父の身体のマッサージなどをして、今日1日 学校であった話などを話していました。父は恐らくマッサージ中に私と話す事によって、強制的にコミュニケーションを取っていたんですね。父からは、「ひとりの子どもとしてでなく、ひとりの人間として育てる」と言われ、帝王学を沢山学びました。そのとき教わった数々の教えの中でも、特に今でも生きているのは、情報をキャッチする大切さです。
■「社会勉強」を意識していた大学時代
高校までは金沢で過ごしていて、大学では東京に行きたくて学習院大学の経済学部に入学しました。一浪して入学したのですが、私の世代はベビーブームと言われていて人口が多かったので、受験競争も激しかった。「一浪」と書いて「ひとなみ」と呼ぶほど一般的でしたね。大学生活ではドイツ文化研究会とテニスサークルの2つのサークルに入ったり、家庭教師のアルバイトをしたりしていました。家庭教師のバイトでは、いかに要領よく少ない労力で点を取るかをポイントに教えていました。
ただ、大学時代に意識していたのは、社会を知ることです。親からはずっと「テストより社会勉強をしっかりしろ」と教え込まれていました。物事には何事にも理由がある、その理由を「なんで?」と考えるクセをつける様に言われていました。疑問を持たないと「生み出す」という事自体が喪失してしまいますからね。
■東京の中心で情報感度を磨いてきなさい
「情報の感度を上げろ」
これが、父から言われた言葉です。上流の情報をつかめば、それが仕事になるのです。世界で起こっている事に目を向け、いつでも最前線の情報を自ら仕入れれば、ビジネスになります。逆に感度が低い人はビジネスには向いていないです。例えば、東京で流行ったものは地方に遅れてきて流行ります。時差があることは格差になって、ビジネスとなります。
日本人には2つの特性があると思います。一つ目は老舗企業へのリスペクト。二つ目は西洋ブランドへの敬慕。こちらも地方の時間軸で成り立っています。アパグループは開業51年で老舗企業ではないですが、世界で部屋数では19番目のホテルチェーンになりました。それは情報の活かし方によって成ったものだと思います。
大学4年生の時に父から「本当に継ぐ気はあるのか?」と問われました。「その気があるなら銀行に行け。継がないのであればどこへ行ってもいいけど、『遺産の遺留分を放棄する』と一筆書いて行け」と言われました。「銀行へ行け」というのは、「お金は人間の血流だからお金のメカニズムを学べ」という事でした。
私は会社を継ぐ事を決意して住友銀行へ入行しました。継いだ理由は二つあります。一つ目は親孝行のため。そして二つ目は起業家になるためにゼロから事業を行うのは無理があるが、いまある種を雪だるまのように大きくするのも良いなと思ったからです。
当時はまだホテルが地方に四つしかなく、事業を成長させる素地はあると感じました。また、「事業を運営する上では、銀行の心理やテクニックを知らないとダメだ」と感じ。銀行で、の信用審査や税の流れなどを理解した上で家業に戻りました。
■ITや効率化を進める、アパグループの進化
私たちアパグループでは事前決済を取り入れています。予約の手間がかかる事もありますが、事前決済しておくと、キャンセル率が減るのです。また、お客様にお部屋を選んでいただけるため、いろんな方の用途に沿ってサービスできるメリットもあります。ホテル業界での事前決済の展開は、日本では私たちが業界初となりました。
効率化の点でいえば、バックヤードを極力小さくして、一個ずつの客室スペースを増やしました。従業員の部屋は違うところで借りて、無駄なスペースは客室にして収益化を図っています。
また、アパグループはITに力を入れており、インターネット予約をいち早く取り入れました。新しい企画を一つ出す度に、満足度が低減しないようイノベーションも進化させます。お客様にも成功体験をしていただき、帰宅時間軸でキャッチアップできるよう、自社サイトを充実させ、お客様と直で繋がれるアプリも作りました。
■日々大変なのは、ONとOFFの切り替えがないこと
日々の経営で大変だと思うのは、サラリーマンと経営者は全く違い、ONとOFFの切り替えが出来ないのです。四六時中、仕事の効率化を考えてしまうのです。私自身、遊びでゴルフに行くのですが、自身でゴルフ場の経営もしているので、運営するための効率をついつい考えてしまいます。このように仕事と遊びが繋がっているからこそ、ヒントがある事もあります。そのため、ヒントを得るため、ときには他のホテルに泊まることも多いですね。
ホテルという存在は体験型ビジネスです。人が死ぬ時に後悔する事は、「見たかった」「食べたかった」「行きたかった」 だと思います。これらはあくなき欲求のど真ん中に位置します。こうした潜在的な体験欲求をホテルは満たします。その中で、どうやって選ばれるかホテルになるかを追求するため、トライ&エラーを繰り返して最善を尽くします。ときにはもちろん失敗することもあります。でも、その要因はタイミングで。実は早過ぎただけかもしれない。そんなミスマッチが起こらないように、常に時代に沿って適応するように心掛けています。
■学生へのメッセージ
アパグループでは、能動的、固定概念を持たず、意欲的な学生を採用したいです。私は最速であり、三角形の重心の皆さんのど真ん中の存在になりたいと思っています。
大学生の皆さんは今、人生の岐路に立っている事だと思います。そんな時に大事な事は迷わずに飛び込む事です。不安に思うことも沢山あると思いますが、まずは体験してから考えてみてください。ためらわずに体験に貪欲になり、物事に取り組んでみてほしいと思います。自分自身で納得できる人生を送ってください。
2022年5月2日学生新聞オンライン取材 国立音楽大学 2年 岡部満里阿
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