合同会社MidWives 代表 / 看護師・助産師・保健師 / 国際ラクテーションコンサルタント 高杉 絵理

助産師は近くて遠い。でも一生に寄り添い続けられる

合同会社MidWives 代表 / 看護師・助産師・保健師 / 国際ラクテーションコンサルタント 高杉 絵理(たかすぎ えり)

■プロフィール
総合周産期母子医療センターやクリニックで産科やNICUの経験を経て、世田谷区の保健センターやママ向けアプリ「ベビーカレンダー」で相談業務に携わる。
また、メディアでの妊娠・出産・育児に関する記事や動画の監修も行う。
安心して笑顔で子育てできるようなサービスを提供する場所として、品川区に育児支援HOUSE 助産師サロンを運営中。
2児の母としても育児に奮闘中で、助産師としての知識や経験を子どもたちから日々アップデート中。
https://josanshisalon.my.canva.site/

助産師、保健師、看護師の資格を持ち、現在は妊婦さんやママに寄り添う助産師サロンを運営する高杉絵理さん。出生前診断や出産を巡る様々な選択肢を描いた映画『渇愛の果て、』(2024/5/18公開)の取材協力をしている。作品を通して伝えたい思いや助産師として大切にしているマインドは何か、お話を伺った。

当時は大学で看護師・保健師・助産師の資格を同時に取れたので、実習や試験勉強でとても忙しかったです。もともと、5人兄弟の長女として大家族の生活をしていた私は、家族看護や家族が形成される過程に興味がありました。NICU(新生児集中治療室)の看護師を目指していたのですが、NICUで働くなら助産師としての知識も必要だと感じ、助産師の資格も取ることにしたんです。将来の幅を広げるために、学生のうちから自分の選択肢を増やしておこうと思っていました。助産師になると医療職以外の仕事の経験はしないだろうと思っていたので、今のうちに他の社会経験をしようとスターバックスでアルバイトもしていました。しかし、4年生の実習の忙しさは桁違いでした。まず、実習ではお産を10例経験しなければならなかったのですが、お産に立ち会えるかどうかはご縁です。どうしても最後の1例が取り上げられず、1か月ほど病院に泊まり込みをしたこともありました。しかし、この時の忙しさや充実感は私の糧で、今も励みになっています 。

■名キャッチャーのその先へ

 大学卒業後は、若いうちは病院で経験を積みたいと、総合周産期母子医療センターのNICUに看護師として就職しました。出産において最後の砦と言われるこの部署には、ハイリスクな妊婦さんや赤ちゃんが来ます。大変な分、やりがいを感じる仕事でしたが、次第に助産師の研修経験が自分の中で強く残っていることに気づき、産科に挑戦しました。お産は、どれ一つ取っても同じ家族、ママ、赤ちゃんはいません。そのため、常にスキルアップや臨機応変な判断が求められ、チームで体育会競技をしているかのような一体感があります。無事に赤ちゃんが生まれた時の安心感や高揚感は、助産師という仕事ならではの面白さだと実感しました。「名キャッチャーですね」とママに言われた時はとても嬉しかったです。
その後、30代半ばで結婚を機に上京することに。子育てと仕事の両立で、夜勤も多い大病院で働き続けることは難しいと感じていたし、看護師や助産師として十分に経験を積んだので、「なんでもできる!」という気持ちもありました。そこで、このタイミングでフリーの助産師として新しい働き方に挑戦しました。2023年には同期の助産師と2人で、産後ママの育児支援などを行う助産師サロンを開業しました。

■生まれてから死ぬまで、一生に寄り添う

 助産師サロンでは、「病院と自宅を繋ぐスロープになりたい」という想いで、出産・育児相談や日帰り産後ケアなどを行っています。病院はお産をお手伝いしますが、産後約5日間で退院しなければならず、産後の体調管理や育児のアドバイスなどは不十分です。赤ちゃんが0歳ならばママやパパも0歳だし、妊婦さんはマイナス0歳ですよね。私たちは、退院してすぐのママにも寄り添い、産後うつになりがちな時期やゆっくりとママやパパになる過程を支えていきたいと考えています。インターネットで簡単に情報を得られる今、常に寄り添って正しい情報を伝えること、信頼できる繋がりを生むことを大切にしています。
 また、資格があっても育児に追われて働けないという助産師さんたちが、新たな働き方を見つける場になることも目指しています。助産師の仕事は、数年間のブランクがあると復帰しづらいと言われています。お産の手伝いという印象が強いですが、その他にも助産師サロンで行っているような出産や育児のサポート、子どもへの性教育や命の教育、更年期の相談など、人生のあちこちに活躍の機会があるんです。時代が移り変わるにつれて、ママも助産師の在り方も変わっているので、フリーの助産師としての働き方の一つとしても広がっていくといいなと思います。

■知ること、考えること、向き合うこと

映画『渇愛の果て、』が、出生前診断や命の重さについて少しでも考えるきっかけになればいいなと思います。この物語は他人事ではなく、自分にも起こり得ること。もし自分だったらどう選択するか、身近な人と話してみてほしいですね。作中でも描かれる出生前診断は、障がいのある子どもを産まないためのものではなく、生まれてくる赤ちゃんを迎える心構えや準備のためのもの。気軽に検査が受けられるという情報がよく流れますが、検査結果を解釈・サポートするための受け皿が整っている機関で受診する重要性も知ってほしいと思います。
 脚本執筆前に監督とお話した時は、とにかく助産師魂を熱く語りました。例えば、私が助産師として「一番近い他人」という距離感を保とうとしていること。家族には心配をかけたくなくて言えないことも、一番近くにいながらも俯瞰して寄り添う私たちには話せることがあると思うんです。そのためには、一つの情報から可能性やリスクを先回りして考える想像力が必要です。出産や育児に正解はないので、ベターな選択ができるように、困った時に頼れる存在として在りたいと思っています。

■大学生へのメッセージ

やはり子どもは人生を彩ってくれる希望だと思うので、出産・育児の魅力も改めて伝えたいです。出産育児はとても大変ですが、それを上回るほどの喜びや面白さがあります。
 学生の間は、今しかできない経験をしてほしいです。学生のうちにいろんな人に会っていろんな話を聞いておくと、将来いろいろな場面でその人脈や経験が活きてくると思うからです。学生で 時間があるからこそできることを大切にして、挑戦してほしいですね。

学生新聞オンライン2024年4月25日取材 上智大学3年 吉川みなみ

映画『渇愛の果て、』

出演:
有田あん 山岡竜弘
輝有子 辻凪子

スタッフ
監督・脚本・プロデュース:有田あん
監修医:洞下由記 取材協力:高杉絵理(助産師サロン)
撮影:鈴木雅也 編集:日暮謙
音楽:多田羅幸宏(ブリキオーケストラ)
配給協力:神原健太朗

配給:野生児童
2023/日本/97分/カラー/アメリカン・ビスタ/ステレオ
©野生児童

新宿K’s cinemaにて5月18日(土)〜5月24日(金)12:15〜、
大阪・シアターセブンにて6月1日(土)〜6月7日(金)ほか全国順次公開

公式サイト:https://www.yaseijidou.net/katsuainohate
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Instagram: https://www.instagram.com/katsuainohate/?hl=ja

法政大学4年 島田大輝 / 上智大学3年 吉川みなみ

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