STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐橋 宏隆

愛知から世界へはばたく、グローバルスタートアップをつくる

STATION Ai株式会社 代表取締役社長兼CEO 佐橋 宏隆 (さはし ひろたか)

■プロフィール
ソフトバンク株式会社入社後人事部門を経て、ソフトバンクグループ株式会社社長室にて経営戦略を担当。東日本大震災後、SBエナジー株式会社を設立し、事業企画部長として再生可能エネルギー事業を管掌。2014年よりSBイノベンチャー株式会社にて、社内起業家育成プログラムの構築やハンズオン支援を推進。2021年9月にSTATION Ai株式会社を設立し、スタートアップ支援をはじめとした日本最大級のオープンイノベーション拠点となる事業を開始。

愛知県に位置する日本最大級のオープンイノベーション拠点・STATION Ai。スタートアップや企業の成長をサポートする場所として、最新の設備と充実したリソースを提供し、起業家や企業が革新的なアイデアを実現するための理想的な環境を整えているのが特徴だ。同社代表である佐橋宏隆さんに、世界市場を見据えたグローバルな展開の拠点としての在り方やその取り組みを聞いた。

■ソフトバンクに新卒入社したきっかけ

ソフトバンクに入ったきっかけは、NHKで放送されていた番組「プロジェクトX 挑戦者たち」です。大学の先生が何本か見せてくれるなか、いつの間にかこの番組が好きになりましました。その中で、特に印象に残ったのが「プロジェクトX 挑戦者たち 町工場 世界へ翔ぶ ~トランジスタラジオ・営業マンの闘い~」という作品です。その中で描かれていたのが、戦後復興期にアメリカのマンハッタンの日本食料理屋で、夜な夜な企業の営業マンの方々が集まって話すシーンです。「敗戦後の貧しい状況を脱して、今後日本を豊かな国にするにはどうしたらいいか」という白熱した議論が交わされていました。この番組を観て、国を動かす大きなダイナミズムの中で仕事をする面白さに惹かれ、そんな企業で働きたいと思うようになりました。そして、就職活動をし始めた時に『孫正義 起業の若き獅子』という本に出会い、ソフトバンクを作った孫正義さんと働きたいと考え、同社への就職を決めたのです。

■ビジネスの「しくみづくり」に関心を持つ

学生時代から「将来は起業して事業をしたい」と思っていたため、ソフトバンクに入った後も、事業責任者を担当してみたいという強い気持ちを持っていました。はじめて事業立ち上げを経験したのは、東日本大震災の復興支援プロジェクトです。この経験後、ソフトバンクイノベンチャーという社内スタートアップを作る制度を担当し、以来、事業を起こす人の支援やスタートアップに着手するようになりました。現状、ソフトバンクにある新しい事業の成功は孫さんが作った事業が多く、孫さん一人への依存度が非常に高い。そんな組織を変革し、「孫さんがいなくても、事業が生まれ続ける組織を作ろう」という意識から生まれたのです。

そのほかにも、今後30年も引き続き情報革命で人々の幸せに貢献し、世界の人々から最も必要とされる企業グループを目指すべく、ソフトバンクとして掲げている「30年ビジョン」の設立などにもかかわりました。

■世界に誇れるスタートアップ輩出を狙うSTATION Ai

STATION Aiは、愛知県に作ったスタートアップと大企業が集まる日本最大級のオープンイノベーション拠点です。愛知県のスタートアップ戦略は、大村秀章知事にとって肝入りのプロジェクトです。そして、その中心を担うのが、私たちSTATION Ai です。東京以外の国内で、世界と競うようなスタートアップエコシステムを作れるのは愛知県だと私は思っています。豊田をはじめ、愛知県はものづくりの集積地で、圧倒的に製造業が強く、全国的な企業の本社も多いし、オーナー企業も多い。製造業は雇用を産むので、サービス産業の発展にもつながります。

 また、スタートアップエコシステムを成立させるには、既存産業の強さが重要です。スタートアップに対して、企業が大きなリスクマネーを供給したり、企業が持つ製造拠点や技術などのアセットを使ったりすることで、大きく成長できるからです。さらに、愛知県は名古屋大学をはじめノーベル賞受賞者も多く、面白い研究の種が眠っている地域です。その点でも、スタートアップが生まれる地域のポテンシャルが高いと思っています。

ここで生まれた成果を世界に対して発信して、世界からこの地域にスタートアップが集まる循環を作りたいです。この循環を作っていくことで、世界をリードするような産業地域が生まれると思っています。

■STATION Ai の魅力とは

2024年6月のプレエントリーの時点で、STATION Aiには426社のスタートアップが集まっています。スタートアップと大企業がこの規模で同居していること自体が、世界的にもかなり珍しいことだと思います。私たちがモデルにしたのは、フランスのSTATION Fです。かつてはスタートアップ不毛の地と言われていたフランスですが、STATION Fによって大きく変化し、5年後にはEU圏のスタートアップの地として名を馳せました。

 ここまで多くの企業が集まるのは、そこに大きな価値を感じる企業が多いからだと思います。たとえば、スタートアップは、ひとつの意思決定に時間がかかりやすく、コミュニケーションコストが高い。ですが、大企業が身近にいる環境では、そのスピード感が違います。さらに、スタートアップが集積していれば、お互いにできることやできないことを共有しながら協業できます。このような協業という付加価値が生まれるのも利点でしょう。

 また、STATION Ai はスマートビルでもあります。いろんなセンサーがついており、データを収集し、学習する機能もある。オープン以降は、ここで得られたあらゆるデータを開放して、ビルの中での実証実験を行うしくみも整えています。ロボットフレンドリーなビル作りや、スタートアップ同士の交流ができるような偶然な出会いが生まれる場づくりにも、こだわっています。

■大学生へのメッセージ

STATION Aiを通じて、今後の時代はスタートアップに入って起業し、成功につながる、というカルチャーを根付かせていきたいです。なぜなら、これからの時代は、自分で事業を作ったり、起業をしたりするスキルを持たないと、リスクになります。みんなが起業する必要はありませんが、起業を選択肢のひとつにできるような戦闘力を、より多くの人が身につけたほうがいいと思います。起業体験を通じて、世の中にない新たな価値を提供する楽しさや魅力に触れてほしいです。

学生新聞オンライン2024年5月24日取材 慶應義塾大学3年 塚紗里依

慶應義塾大学3年 塚紗里依 / 立教大学4年 須藤覚斗

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