エステー株式会社 会長 鈴木貴子

ニッチな日用品×お客様の心に訴えるデザインで改革を

エステー株式会社 会長 鈴木貴子 (すずきたかこ)

■プロフィール

1962年生まれ。1984年3月 上智大学外国語学部 卒業。同年4月 日産自動車株式会社に入社。2001年8月 LVJグループ株式会社(現ルイ・ヴィトン・ジャパン株式会社)に入社後、2010年1月 エステー株式会社に入社。2013年4月同社取締役兼代表執行役社長就任後、2021年6月 同社取締役会議長兼代表執行役社長に就任。2023年 同社会長に就任。現在に至る。

1946年にはじまり、「消臭力」や「ムシューダ」「ドライペット」などのニッチな日用品で私たちの生活に欠かせない存在となったエステー。今回は創業者の娘として第8代社長に就任し、「デザイン革命」で利益をV字回復させた鈴木貴子さんに、エステーの強みとご自身の経歴について伺いました。

■挑戦と成長の時代

大学時代に所属していたイスパニア語学科は落第も珍しくないほど難しい学科だったので、学生時代はしっかり勉強していました。授業以外の時間も、家庭教師やサンプリングのアルバイトもびっちり入れていましたね。そのほかにも広告研究会というサークルに所属し、友人たちと新しいアクティビティに挑戦していました。例えば上智大学の学園祭であるソフィア祭で大きなイベントを主催したり、企業によるアイデア募集に応募したりです。学生時代は全てが楽しく、全力でした。経営者のキャリアは考えていませんでしたが、目の前にある市場の課題を解決していくようなマーケティングやブランディングには昔から興味がありました。

身内は会社に入れないという父の方針から、大学卒業後にエステーに入社する道はありませんでした。しかし、そのおかげで自分の好きな道を選ぶことができたように思います。当初は女性をターゲットにした最終消費財のマーケティングに興味がありましたが、当時の就職難もあり、学科指定の枠で日産自動車に入社しました。日産では中南米エリアの輸出業務を担当しましたが、市場が遠く、リアリティを持って仕事に取り組むことが難しかったため、アイデアにも限界を感じ、転職を決意しました。数々のブランド企業で経験を積み、その後、フリーランスとして記事広告を手がけたり、化粧品会社のPRを担当したりしました。

■「情緒的価値」を追求するデザイン革命

そんな中、叔父である鈴木喬氏から、日用品のデザイン革命を依頼されました。広告以外で「人を欲しい気持ちにさせる」というのは、ブランドビジネスで学んだスキルのひとつです。その経験を生かせるのではと思い、エステーのデザイン改革に着手しました。その後、エステーに正式に入社し、デザイン以外の面からも改革を進めるようになりました。

当時の社員たちは、商品の価値を「機能」だけだと捉えており、デザインや香りといった「情緒的価値」に目を向けることがなかったので、私の意見はあまり通りませんでした。商品の価値を高め、単価を上げる努力が必要だ……と考えるなか、その状況を変えたのが、女性チームで開発した「シャルダン ステキプラス」のヒットでした。この成功を通じて、周囲のスタッフたちも情緒的価値の重要性に気付き始めたのです。これが転機となり、看板商品である「消臭力」を筆頭に、他の商品もプレミアム化され、利益のV字回復という結果をもたらしました。そして、日用品メーカーとしての枠を超え、「空気ビジネス」を再定義することで、ホテルや介護分野などのBtoB事業への拡大を図りました。

■SDGsへの貢献

森の中に入ると空気が綺麗なのはなぜなのかに着目し、森の天然の空気浄化メカニズムを研究して、「クリアフォレスト」事業を始めました。未利用のトドマツの間伐材から、天然森林オイル、天然森林ウォーター、天然針葉パウダーを抽出しています。これらには消臭効果や大気汚染低減、森林浴効果があり、私たちはその機能性樹木抽出成分を活用しています。従来の間伐材は不要な未使用資源でしたが、この取り組みで全てが活用されるため、ゼロエミッションの達成にも繋がっています。現在では、「ほっかいどう企業の森林づくり」協定を結び、「エステークリアフォレストの森」のネーミングライツを取得して地域の児童とともに「植樹会」や「木育教室」を定期的に実施しております。

■エステーのウェルネスビジョン

エステーは今後、ウェルネスカンパニーへの脱皮を目指しています。香りを通じて人々の暮らしや心に良い効果をもたらす企業を目指し、フェムテックにも力を入れていく予定です。私は「お客様にウェルネスを提供するために、まず私たちが幸福である必要がある」という持論を持っています。「こころに響くアイデアで、ふとした瞬間を、フフッと笑顔に。」というパーパスを制定したように、忙しさの中でもまず笑顔で幸せであることを大切にしています。

また、空気を軸にペットケア事業にも乗り出しています。花王株式会社から「ニャンとも清潔トイレ」の事業を譲り受けるなど、M&Aを通じて新たな領域でもウェルネスの観点から事業を拡大しています。今後は、タイや中国などのアジア市場への拡大も視野に入れています。

■大学生へのメッセージ

エステーで活躍している社員には、失敗を恐れずに新しい挑戦を続けるという共通点があります。エステーもこれまでたくさんの失敗を経験してきましたが、失敗の中からヒットが生まれるもの。だから、少しの失敗なんて大したことではありません。

最後に、大学生の皆さんにお伝えしたいのは、自分が情熱を持って取り組めることを見つける大切さです。学生時代に自分の生きる道を見つけるのは難しいですが、学生時代の経験がキャリアに繋がることは多いです。だからこそ、学生時代は時間を有効に使い、好奇心を抱いたことには積極的に挑戦してほしいと思います。

最近、私が学生さんや新入社員に伝えているのは「異分子であり続けてほしい」ということです。日本社会は同質化が進んでおり、それが革新を阻んでいると感じます。社会人としての礼儀を持っていれば、上の人に意見をぶつけても受け入れてくれるものです。異分子として違和感を抱いたことや、学生時代のきらきらした好奇心をずっと大切にしてほしいと思います。

学生新聞オンライン2024年6月6日取材 上智大学3年 東芽衣

上智大学3年 東芽衣 / 武蔵野大学4年 西山流生

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