クオール株式会社 代表取締役社長/薬剤師 柄澤忍

『何だって相談できる身近な薬局を目指して』

クオール株式会社 代表取締役社長・薬剤師 柄澤忍(からさわしのぶ)

■プロフィール
名城大学薬学部を卒業後、病院薬剤師として就職。その後、パート薬剤師としてクオール株式会社へ入社。2020年からは代表取締役社長に就任し、全国約600店舗に展開するクオール薬局の経営を行っている。

薬局といえば、薬をもらう所というイメージを持つ人がほとんどだろう。しかし全国に薬局を展開するクオール株式会社の代表取締役社長、柄澤忍さんは「何かあったら一番最初に行くところが薬局であってほしい」と語る。気軽に相談できる薬局を目指す柄澤さんに、会社の魅力やこれからの薬局の在り方などを伺った。

■身近な存在の薬剤師に憧れて

私は両親が薬剤師で、母親は町に一軒しかない小さな薬屋さんを営んでいました。その店は薬のことだけでなく世間話や相談事など、いつも誰かが来ていて母親と話をして帰っていく、「町の集まる場所」でした。小さい頃から、お母さんのしている仕事は、医療面だけでなく人の役に立つ、喜ばれる仕事だと感じていたので、私が薬学部に進学し、薬剤師になるのは自然な流れでした。
進学した名城大学は総合大学なのですが、薬学部だけ違う場所に棟があったので薬剤師を目指す人たちばかりの中で大学生活を送っていました。研究の結果を共有するなど、常にいい仲間たちと一緒に学生生活を過ごすことができました。今でも彼ら、彼女らとはずっと付き合いが続いています。

■ママ友たちの言葉から始まったクオールとの縁

結婚をして、病院の薬剤師を退職した頃、ママ友たちとの会話の中で、薬剤師として働いていたという話をしたときに「もったいない! アルバイトでもやった方が良いよ」と言われました。初めて「自分の仕事はみんなからもったいないと言われる仕事なんだな」と思い、家の近くにあったクオール薬局でアルバイトとして働き始めました。ママ友たちのアドバイスによって仕事に復帰し、そのアルバイト先がたまたまクオール薬局だったという縁があっての入社でした。そのときのママ友と今でも会うのですが、「まさか社長になるとは思わなかった」と言っていました(笑)。
社長に就任するまでには子育てや母の介護もあり、周りの人たちに助けてもらうことの連続でした。これまで温かい人たちに恵まれ、アドバイスをもらいながら、アルバイト、社員、責任ある仕事へと任される中で、人との出会いの大切さを感じました。社長に任命されたときは、や はりびっくりしましたし、不安もありました。ですが、クオールホールディングスの中村社長から「これが本当に正しいのかと迷ったときは『わたしたちは、すべての人の、クオリティ オブ ライフに向きあいます。いつでも、どこでも、あなたに。』という大切な企業理念に当てはめて、社長としての判断の目安にしてください」とアドバイスをもらったことで、何とか自分でやれるかもしれないと思えました。

■仕事が違っても、同じ方向を向いて働く社員の姿

薬局で活躍する社員の姿を見るのは大事なことだと思っているので、月に5~15店舗を回っています。行くことで、「この店は段差があるから直した方が良いな」などと気付くこともあります。本社の社員も現場に足を運び、ときには電話などで話す機会が多いので、本社と現場が分かり合うような形を取っているなと感じます。本社の機能は、現場の機能をより高め、スムーズにすることです。だからこそ、本社の社員が、現場を理解する気持ちが大切です。一見、全然違う仕事をしているようだけど見ているところは同じで。それがクオールの特徴だと思います。
“社長”は、相手を緊張させる肩書きだと思います。ですから、公平であることや、店舗を回るなど近い存在に感じもらえるように色々な努力をしています。目指しているのは、怖いけど温かい社長、すなわち“こわあたたかい”社長です。「ちょっと怖いな、社長にみせるから資料も良く確認しないとな」と緊張感を持ってもらうことも必要ですが、いつでも相談できて信頼できる温かくてフレンドリーな上司でありたいなと思っています。

■クオールは挑戦したいを実現できる会社

クオールは挑戦ができる会社です。社員たちが出してくれる色んなアイディアをどんどん実現させるのが魅力だと思います。ある社員のアイディアで始めたのが、『子育て大学』という取り組みです。これは子育てをするうえで様々な心配事がある地域のお母さん達に向けて行う勉強会です。クオール薬局が、薬の使い方や保存方法を教えたり、他にも他の企業さんを招いて、資生堂さんによる子どもの日焼けの話、アシックスさんによる最初に履く運動靴の選び方などの勉強会を行います。子どもを育てるお母さん達に頼られる薬局にしたいと、この子育て大学は、いまでは10年以上続いています。
また、弊社で伝統的なアイテムとなっているのがクオールの名前が入ったビブスです。東京ドームで行われたコロナのワクチン接種の際、社員からのアイディアで作られたのがきっかけですが、今年の能登半島地震のときにも着用しました。当時、クオール薬局能登町店は津波により一階が浸水し、すぐに薬局を開局することができませんでした。しかし、近くには薬局がうちしかなかったため、薬剤師たちが避難所である中学校の被服室で薬局を開き、避難所に届く薬を開封して被災者の方に説明を行いました。

■新しい医療が始まる時の先駆者、リーダー会社になりたい

今後はオンライン服薬指導や電子処方箋など、どんどん医療がデジタル化していきます。今まで対面で服薬指導を行っていたときは、薬剤師が患者さまの目の前にお薬を出して、「これは何錠飲んでくださいね」と説明していましたが、オンライン服薬指導後に配達されたお薬を患者さま本人が自分で確認するとなると、「薬の飲み方が分からない」「薬剤師にも聞きづらい」という課題が出てきます。本来、新しいことが起きたときは今までやれていた以上に良いものにしなくてはいけないはずです。そこで、オンライン服薬指導の導入で不便なことはなかったかなど、定期的に社員たちを集めて意見を聞いたり、オンラインで薬を説明する際は必ず裏表を患者さまに見せるなどの取り組みを行っています。些細なことですが、便利になっても、今までやれていたことが置き去りにならないように気を付けています。これから先、薬局は違った形にどんどん進化していくと思いますが、違った形になったとしても地域の方にとって非常に信頼され、有効で安全な薬の治療になるようにこれからも努力していきたいと思います。

■医療のファーストアクセスを目指して

私は、医療のことで困ったりしたときに気軽に相談できる薬局でありたいと常日頃思っています。そのために、健康サポート薬局などを設置し、処方箋を持たずして来てもらえるように努力を行っています。そのほか、ローソンやビックカメラなど他の企業とコラボを行っているのはクオールならでは、です。今後も企業とコラボし、街ナカや駅ナカなどみんなが来やすい身近なものにしていきたいです。薬局を「処方箋を持っていく場所」から「何でも相談できる場所」に変えていくことが、これからの課題ですね。

■学生へのメッセージ

今の大学を好きになっていただいて、友人も大学生活の間もそして卒業してからもその関係性を続けていってもらいたいです。大人になると仕事上で付き合うことも出てきます。そのとき、相手といい関係であるといい仕事ができると思います。私は薬学部という狭い社会の出身なので、当時の友人たちと一緒になることも多く、いい関係であったからこそ、いい仕事ができた経験があります。自分でいろんなことを判断できる大学時代だからこそ、ともに4年間という長い時間を過ごしてきた友人関係を大切にしてください。

学生新聞オンライン2024年9月10日取材 東洋大学2年 越山凛乃

京都芸術大学1年 猪本玲菜 / 東洋大学2年 越山凛乃 /
城西国際大学1年 渡部優理恵 / 専修大学3年 増田音生

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