株式会社プランテックス 代表取締役社長 山田耕資

「密閉型植物工場」で新しい食料供給システムを実現する

株式会社プランテックス 代表取締役社長 山田耕資(やまだこうすけ)

■プロフィール
2007年に東京大学大学院卒業後、ものづくりの生産工程改革で有名な㈱インクスに勤務。2010年以降、日米計6社のベンチャーの創業に参加。2013年末に、人工光型植物工場と出会う。世界の食と農に革新をもたらす技術だと確信し、創業を決意。エンジニアリングの分野で卓越した実績・スキルを持つメンバーらと共に、新しい産業を興すことを目指して㈱プランテックスを創業。

近年、世界的にも注目されている密閉型の植物工場を開発したPLANTX。創業者、山田耕資氏は「植物工場は未来の農業を担う」と確信し、研究を始めた。そんな山田耕資氏に、植物工場との出会い、今の技術を確立するまでの道のり、今後の目標について伺った。

学生の頃から起業家になりたいという夢をもっていました。そう思うきっかけは、家族に起業をしている人が多かったからです。学生時代は、何をテーマに起業するのかを模索していました。自分の興味を探るために、チャンスがあれば、様々なことに参加していました。起業ができるのか分からない中でも、色々動いて、なるべく起業の可能性が高まるような選択をしてきましたね。

植物工場との出会い

大学院卒業後、私の親が創業しているモノづくりの会社に入社しました。モノづくりは、日本の産業の中心となっていたため、昔から興味がありました。当時非常に勢いのある会社だったので、一度中から見ておきたいという気持ちもあって、入社を決めました。その後は、創業に関わる仕事をずっとしてきました。色んな人の会社を立ち上げる手伝いをして、結果的には6社の創業に携わるような経験をしました。そんな中で、植物工場を見学するきっかけがあったのです。最初に見た時、「これが未来の農業を担っていくのだ」と感じました。
今でこそ植物工場は知名度も高くなってきましたが、当時はあまり知られていなかったので、初めて見た時はやはりインパクトがありましたね。屋内でできる農業がこれだけ進化しているのだと驚くとともに、将来性の高さを感じたのです。一方で、長年モノづくりに携わってきた中で、植物工場は技術的に未成熟な状態だとも思いました。だからこそ、「ここにモノづくりの技術を入れたらものすごい成果を出せるのではないか」と思ったんです。これは確信をもって感じましたね。

■食料問題解決のキーテクノロジー「密閉型植物工場」

植物工場を技術的に発展させるために勉強する中で、持続可能な食料を達成することの難しさを感じました。世界的にみて今、食料供給が圧倒的に足りておらず、2050年までに1.7倍の食料が必要になるだろうと言われています。水不足、農地不足、人手不足、気候変動など多くの問題を抱えます。これらを解決するキーテクノロジーは植物工場だろうと考えました。
私たちが開発した植物工場は、世界初の密閉型の工場です。従来の植物工場は、閉鎖された屋内での栽培は可能にしますが、栽培室に棚を設置し栽培室全体で環境を制御する方式で、我々はそれをオープンタイプの栽培装置と呼んでいます。オープンタイプの植物工場では植物を育てる環境のコントロールが不十分であり、温度や光、空気の状態にばらつきが出てしまう。そうすると、植物工場のイメージと違うかもしれませんが、実は収穫の安定に課題を抱えておりました。予定通りの収穫ができないのです。植物工場は、農薬を使用せず、菌が少なく洗わずに食べることができたり、日持ちしたりとメリットが多いのですが、うまくいっていない最大の理由が生産の不安定さです。そこで、これらを緻密にコントロールするにはどうすればいいか考えた時に、密閉型にしようと思いついたのです。栽培装置の全体を覆う形で密閉することにより、植物の近くに狭い空間をつくり、その狭い空間の環境をコントロールするという方式です。従来のオープン型と比べて制御性が格段に高く、環境が緻密にコントロールされているので、植物の生長をより安定的に引き出すことが可能になります。作物を安定的に収穫し、供給することができます。

辛抱強さの先に今がある

今の技術を確立するまでは多くの苦労がありました。植物や農業についての知識がない状態で創業し、最初の2年間は主に勉強する期間でした。植物工場の技術を上げるためには、植物のことを正確に理解することが何よりも重要だと思ったのです。そして、モノづくりのエキスパートたちが、植物について熱心に勉強して、モノづくり、植物、両方について詳しくなってくれました。そういう人たちが中心になってくれたからこそ、今の私たちの植物工場がありますね。そして、最初の2年は本当に大切な期間だったと強く思います。

創業について大切なのは、業界についての知識よりも、なんとしても実現するという想いだと思います。興味をもって、それがうまくいくと確信を持てたら、迷わずに力強く推進方法を考え続けられるような人。そんな人とぜひ共に働きたいですね。
今後の目標は、様々な作物の社会実装を成功させることです。今は、世界的に見て黒字を証明し社会実装を進められているのはレタスだけです。でも、植物工場で栽培できる作物はレタスだけではありません。だからこそ、植物工場では色んな作物を作れるということを示して、「これは食料問題の解決に貢献する技術なんだ」ということを、より広く認知してもらいたいです。
そして、2030年までの目標として、確立したいのが栽培レシピというビジネスモデルです。栽培レシピとは、植物を育てるための環境条件の組み合わせです。私たちの研究装置と量産装置は共通規格化されており、相互に再現性高く環境条件をコントロールすることができます。。そのため、研究所で開発された植物の栽培レシピを、そのまま量産装置で再現することができます。このシステムを使うことで、研究所で次々に新しい栽培レシピを生み出し、工場は栽培レシピをダウンロードし栽培することで、効率よく社会実装を進めていくことができます。このプラットフォームを確立することで、世界的に植物工場が広がり、食料生産の問題解決に繋がっていくと信じています。

大学生へのメッセージ

是非、新しいことにチャレンジしてみてください。新しいことにチャレンジすることはすごく楽しいことでもあります。私自身も自分で始めた今の仕事がとても楽しく、やりがいもあります。一番いいのは、仕事の中で何かやりたいことが出てくることです。せっかくだったら、楽しくてやりがいのある仕事についてほしいなと思います。

学生新聞オンライン2024年11月13日取材 国際基督教大学2年 丸山実友

国際基督教大学2年 丸山実友 / 城西国際大学1年 渡部優理絵 / プランテックス 代表取締役 山田耕資様 / シニア・マネージャー 建部輝彦 / 東洋大学2年 越山凛乃

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