株式会社Kyash 代表取締役社長 鷹取真一
人びとと世の中の価値をつなぎ、お金の流れを自由に
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株式会社Kyash 代表取締役社長 鷹取真一(たかとりしんいち)
■プロフィール
早稲田大学国際教養学部卒業後、三井住友銀行に入行。法人営業を経て、経営企画にて海外拠点設立、金融機関との提携戦略の担当として国内外の銀行モデルを研究。その後、米系戦略コンサルファームの日米拠点にてB2C向け新規事業に携わる。次世代の通貨を構想し、株式会社Kyashを創業。
昨今、支払いの仕方は非常に多様化している。そんな中でスマホの決済サービスとクレジットカードの機能を融合したユニークなサービスを展開するのが、株式会社kyashだ。代表取締役社長の鷹取真一さんは、キャッシュレスが急速に進行している今だからこそ「お金と人びとの関係性を取り戻したい」と言う。そんな鷹取さんに学生時代のお話から会社の魅力、そしてこれからの展望まで伺った。
■留学を通して学んだ多様性
私は高校で1年間アメリカに留学をしていました。帰国後は、すぐに受験をして、大学に入学しました。日本とは違う教育を経て、大きなカルチャーショックを受けて帰ってきたので「みんなと同じようにやっていては、確実に周囲には追いつかない」と考え、どうやったら周囲に追いつけるのか、“自己流”で編み出すことを考えるようになりました。自分なりのやり方は何なのか、自分と向き合った大学時代でした。
在籍していた早稲田大学の国際教養学部は、新設の学部で、授業は全部英語で行われた上、在学中のカリキュラムに留学が含まれていました。高校生の時にも留学をしていたのですが、もう一度したいと考えていたので、その学部を選びました。名古屋の実家はホストファミリーをやっていて、家には海外からの留学生がいる環境だったので、自然と自分も海外に行きたいとの思いがありました。高校、大学とアメリカに留学をして学んだことは、世界における多様性の広さ。そして、アメリカは、日本のようにはいかず、誰も何もしてくれないということです(笑)。海外では全て自己責任で、自分から手を挙げて行動しないと何も起きません。そこで学んだ主体性の重要性は、今の自分の考えを作っていると思います。
■日本の銀行サービスを見直す機会になった銀行員時代
起業をしようとは思っていなかったものの、何かを生み出すことは素晴らしいなと思っていました。三井住友銀行に入行して、銀行の海外拠点を作る業務を行う中で、銀行に何が出来るのか、外国では銀行はどういう存在なのかを学びました。国によって現地での銀行の存在は違っていて、銀行がどのような金融機能を提供すれば人びとの利便性を高められるかという銀行の多様性を見ることができ、日本の銀行サービスの課題も知りました。
そして、銀行の本店に移って間もなく東日本大震災が起こり、銀行は寄付金を募るために現金口座を開設しました。しかし、被災地に100円を送るにも手数料がかかったんです。必要としている場所にデジタルなお金を届けるだけなのに、手数料によって価値が目減りしているように思いました。いわば、お金の高速道路の通行料が高すぎると感じたんです。
その後、コンサルに転職し、店舗体験とスマホ体験をいかに融合していくかという、今で言うDXについて関わるようになりました。
お金の高速道路、すなわちモバイルやインターネットを通してお金が移動できれば、通行料はゼロになる。自らそのシステム構築にチャレンジしてみたいと考え、創業に至りました。
■真の価値移動のインフラを創る
Kyashのサービスは、創業期にVisaと提携するに至り、他のスマホ決済サービスと同じように、スマホのデジタルウォレットにチャージして使います。特徴としては、Visaが利用できる場所であればどこでも使えることです。ウォレット間の価値移動は当然お金がかからないですし、事前にチャージをするだけでなく、お金が足りない時に後払いが出来るサービスも展開しています。イメージとしては、スマホの決済サービスとクレジットカードの機能を融合したようなものでしょうか。また、Kyashは利用する人の年齢制限がありません。クレジットカードは後で払うというシステムを取っているので、考え方としてはお金を貸しているのと同じです。その場合、未成年にお金を貸すのはどうなんだという議論もあるでしょう。しかし、みんなが使いすぎるわけではないですし、現金での支払いが難しい場面がある時代になってきている以上、年齢にかかわらず、スマホさえ持っていれば制限なくお金が使えるシステムが登場するのは当然ではないかと考えています。
■未来の人・社会への貢献もKyashのミッション
送金機能を利用すれば、自分のQRコードを作って開示し、応援してくれる人にお金を投げ込んでもらうという簡単なクラウドファンディングも出来ます。今後は、個人の発信力が増して、“個”が強くなっていく時代だと思います。有名人でなければ挑戦できないのではなくて、よいアイデアがあれば思い立ってチャレンジできる環境が生まれるはずです。
たとえば、自分で絵を描いてみて、絵の下にQRコードを付けていたら、その絵を気に入ってくれた人から100円が送られてきた……といった小さな成功体験は、色んなチャンスを芽生えさせると思います。そんな明るく良い未来に、Kyashが貢献できればなと思います。
また、挑戦する人、必要とする人に、移動コストなしで価値を届けていく役割を大きくしていくことも創業のミッションの一つです。Kyashを通じて、お金の動き方が変わり、経済活動がより活発化する社会が作れたら、社会への貢献にも繋がると信じています。
■人びととお金の関係性を取り戻す
創業時には、お金を届けたい人と必要とする人の間に、滑らかなお金の通り道を作るインフラを考えていました。しかし提供する過程で、キャッシュレスがすごい勢いで社会に浸透した結果、キャッシュレスが人びとを混乱させているという誤ったイメージが植え付けられてしまった節があります。たしかに、現在の社会を見ていると、お金というコンセプトと、それを扱うビジネスや仕組みが便利になりすぎて、人びとがお金に対する主導権を失って、逆に振り回されているのではと思います。そこでKyashが重要視しているのが、人びととお金の関係性を取り戻していくことです。いくら、どんなことにお金を使っているかを、Kyashアプリで見られる仕組みを導入しているのも、その想いが根本にあります。もちろん創業して当時決めたビジョンを守り続けることが良いとは限りませんし、社会の変化に合わせて柔軟に対応することも求められています。そんな中、いかに社会で必要な存在として認めてもらえるかが、おもしろさでもあり、難しさでもあると感じます。
■学生へのメッセージ
現在は、インスタなどのSNSを開けば、自分の好きなもの、関連のあるものばかりがでてきて、個々人に最適化されたコンテンツを見ることが当たり前になっています。インターネットを通じて色んなものにアクセスできるように見えて、結局は社会の極めてごく一部、しかも自分の思考に偏ったものしかアクセスできていないということもあると思います。そう考えると、本当の意味での多様性や世界を知る行為が、大切になってきます。私も家族や仲間たちに教えてもらい、いろんな経験をしたことが、財産になっています。多様な価値観に触れたうえで、世界の広さを感じ、自分が作っていきたい未来について考えてみてください。
学生新聞オンライン2024年11月6日取材 東洋大学2年 越山凛乃
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東洋大学2年 越山凛乃/東洋大学3年 太田楓華
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