マツダ株式会社 MDI&IT担当常務執行役員 木谷昭博

技術者からシステムエンジニアへ DXで創るマツダブランド

マツダ株式会社 MDI&IT担当常務執行役員 木谷昭博(きだにあきひろ)

■プロフィール
1982年マツダ入社。2002年MDIプロジェクト推進室長、2007年パワートレイン革新部長、2013年R&D技術管理本部長、2019年MDIプロジェクト室長兼ITソリューション本部長を経て、同年執行役員MDI&IT本部長などを歴任。2022年より常務執行役員MDI&IT担当に就任し現在に至る。

入社42年目を迎え、以来デジタル技術を活用した自動車製造に携わるのが、マツダ株式会社の常務執行役員である木谷昭博氏だ。デジタル化の幕開けから常に最前線を担ってきた木谷氏に、自動車業界におけるDXとは何なのか、また、マツダのDXはどのように変化してきたのか伺った。急速な進歩を遂げる、自動車会社のDX最先端を紐解いていく。

私の大学生活は、朝8時から深夜0時まで研究室に篭っては、モノづくりに専念する日々でした。図面を書いたり、テストピースを作ったり、納得いくものができるまでひたすら手を動かしていました。今思えば、この経験が技術者への第一歩だったんでしょうね。材料工学を学ぶ学生の多くが設計段階に留まる中、職人に任せず自分の手で作ることを大切にする教授からは、真の技術者としての姿勢を教わったように思います。

■デジタル人生の始まり

技術職に憧れて入社したマツダ。新入社員のほとんどが研究開発を希望する中、私は製造現場希望という珍しいタイプでした。というのも、研究生時代に教授から「頭脳レベルは中高校生の段階で決まっているのだから、あなたが勝負できるのは製造現場だ!」と言われていたからです(笑)。もちろん、これまで磨いてきた材料工学を生かしたいという気持ちも強く、まずは10年かけて製造現場を1通り学ぶつもりでした。憧れの試作部に配属が叶い、向かった仕事場は、小さな町工場の片隅にある事務所でした。想い描いていた製造現場を目の前に、期待が膨らみましたね。職人さんに教えてもらいながら、半年かけてわずか30μの部品を製作できた時の達成感はこの上ないものでした。
ところが配属後まもなく、CAD/CAM開発 のプロジェクトへ異動となり、システムエンジニアとしてプログラミングに携わることになります。CADはコンピューターで図面作成を行うツールのことで、CAMはCADで作成した図面を使って製作段階のプログラムを作成するツールを指します。まさか自分がシステムを作る側になるとは思ってもいませんでしたが、研究生時代から汗水垂らして製作していたものが、プログラミングによって一気に効率化されることへの期待を胸に、ゼロから学び始めました。私のデジタル部門の仕事は、実にここから始まります。

■3D化×シミュレーションがもたらしたもの

DX化はここ数年の出来事だと思われるかもしれませんが、実は1996年のMDIプロジェクト開始時から、マツダのDXは始まっています。MDIプロジェクトとは、Mazda Digital innovationの略で、3次元のCAD/CAMを使い、設計から生産まで全て3次元による製造に挑戦するものです。以前はCADのデータが完璧でなかったので、生産段階で再度設計に戻ってデータを修正しながら金型を製作するのが主流でした。しかし、設計図面の3D化によって、テストピースを作る前に製造後のイメージを確認できるようになったのです。町工場で地道に手を動かしていた頃と比べると、たった20年ほどで技術が大きな進歩を遂げたことがよくわかるのではないでしょうか。
2010年代に入ると、技術による効率化だけではなく、“マツダブランド”としてのデジタル革新が推し進められます。例えば、粘土で作られた実物モデルとコンピューター上の3Dモデルを同時に操作することで、車体に複雑な陰影を付けられるようになり、マツダ独自の商品開発に成功しました。また、自動車会社にとって何より大切なのは、車体の安全性を高めることです。シミュレーションを用いた衝突実験を行い、燃費を良くするための軽量化を維持しながら、車体の高剛性や高強度化がどこまでできるか研究しました。このように、3D化やシミュレーション技術は開発期間や試作車の台数を削減し、自動車生産に大きな変革をもたらしました。そして、単に製造の効率化を図っただけではなく、デザインや安全性がマツダのブランディングにも寄与したのです。

■お客様まで届くDX

さらに2016年からは、MDI2と呼ばれる、ロジスティックスのDX化に取り組んでいます。自動車が購入に至るまでには、受注・生産・輸送・在庫・店舗といった大きな流れがありますね。こうしたサプライチェーンを可視化することで、どの店舗でどの車種が売れているかなど、1台1台の車の動きを関係者全員が共有できるようになっています。つまり、これまで開発から生産の領域に留まっていたDXが、開発からお客様まで広がったということですね。現在は、企業活動を陰から支える、経理部や人事部などのDX化を進めている段階です。これまでは各部門がそれぞれに分類されたデータを使用していましたが、部門ごとの壁をなくし、皆が同じデータを活用できるシステムの構築に取り組んでいます。
そして、DXのみならず、AIには無限の可能性があると思っています。今後はAIを駆使して、どれだけ少ない人数で多くの仕事ができるようになるかが鍵ですね。例えば、経理予算などの文書作成から、自動車の開発や生産など、AIをどこまで活用できるか考えていかなければなりません。

■大学生へのメッセージ

技術職を目指す学生に向けて、「卒業研究は、技術者への登竜門」という言葉を贈りたいと思います。これは、私が学生時代に教授から貰った言葉でもあり、実際に技術者としての道を経験した今思うことでもあります。大切なのは、とにかく手を動かして、テストピースを自分で作れるようになること。そして、未知の課題に対してどのようにアプローチするか実験し続けること。あなたがしようとしている研究は、まだ誰もしたことのない世界初の研究です。「なぜ?」と問い続けることを忘れずに、常に深掘りして新たな発見を生み出してほしいと思います。

学生新聞オンライン2025年2月17日取材 上智大学3年 白坂日葵

MAZDA TRANS AOYAMA

住所:東京都港区南青山5丁目6-19
営業時間:8:30 AM ~ 6:30 PM
*8:30 AM ~ 10:00 AM 1Fカフェのみ営業
定休日:月曜日
https://www.mazda.co.jp/experience/mazda_trans_aoyama/

武蔵野大学4年 西山流生/日本大学4年 鈴木準希/国際基督教大学 2年  若生真衣/東京薬科大学2年  庄司春菜/上智大学3年  白坂日葵/東洋大学3年  太田楓華/東京大学4年  吉田昂史

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