ミュージシャン・シンガーソングライター みるきーうぇい 伊集院香織
音楽から映画へ 広がる表現の舞台

ミュージシャン・シンガーソングライター みるきーうぇい 伊集院香織(いじゅういんかおり)
■プロフィール
みるきーうぇいのギターボーカル。自身の実体験を曲にした「カセットテープとカッターナイフ」のMVが話題となり、YouTubeの再生数が50万再生を超え、異例のオリコンインディーズチャート5位を記録。関西最大の音楽コンテストeo Music Try2017で審査員特別賞を受賞するなど精力的に活動中。
学生時代に孤立した経験や、音楽に救われた体験を楽曲に込める伊集院香織さん。バンド活動と弾き語りの二つのスタイルで言葉とメロディーの両方でメッセージを伝え、様々な方を勇気づけています。音楽だけでなく小説執筆にも挑戦し、言葉の力を大切にする伊集院さんに音楽への想いや、映画出演についてお話を伺いました。
■音楽が逃げ場だった学生時代
幼少期からピアノを習っていて、漠然と音楽が好きでした。小学生の頃からなんとなく学校に馴染めていないなと感じるようになり、中学生になったときにははっきりといじめを認識するようになりました。クラスでは孤立していましたが、友達がいたブラスバンド部だけが唯一の居場所で、部活の仲間だけは優しくしてくれたんです。
以来、音楽は人生における私の逃げ場であり、救いでもありました。ブラスバンド部ではフルートを担当しながら、J-POPのブラスバンドアレンジなどを演奏する中で、ぼんやりと、演奏するなど音楽に携わる仕事がしたいなと思うようになったのです。
中学3年生のクラスに、誰とでも仲良く話せるタイプの男の子がいたのですが、音楽の授業の歌のテストで私の歌を聞いて「天使の歌声やな」と褒めてくれたことがありました。その子が「いじゅ(伊集院さんのあだ名)はいつか音楽作れるようになるんかなあ。それで有名になったりしたらすごいなあ」と言ってくれたことが、ずっと心に残っています。「音楽を仕事にするなんて絶対に無理、有名になるなんてもっと無理」という固定概念があったのですが、そのときに初めて音楽を仕事にしたいと思っていいのかなと考えるようになりました。
■自己表現の広がりとスタイル
高校生になると、同い年の仲間と組んで、バンド活動を始めました。しかし、大学に進学したタイミングで、みんなの環境がガラッと変わり、メンバーが抜けてしまって。そして、19歳のとき、「もう一人でやるしかない」と思い、弾き語りを始めました。「若いときに結果を出さないといけない」と、焦っていたんでしょうね。
このとき、中学生の頃に受けたいじめをテーマにした曲を作りました。乗り越えるのが難しいトラウマは誰にでもあるのかなと思いますが、自分の中で整理できていないうちは、芸術に昇華させるのが難しいときもあります。私の場合は、その後、ライブハウスで出会った人や、対バンしたミュージシャンたちの優しさに触れられたおかげで、「あぁ、私がいじめられていたのは、あの環境が特殊だっただけなんだ」と思えたことが大きかったです。その結果、いじめは過去の記憶となり、曲づくりに活かせたのだと思います。
バンドでの活動時は、会場全体で盛り上がるパフォーマンスを重視しています。一方の弾き語りでは、お客さんが歌詞に没頭して聴いてくれて、しんみりと泣いてくれたりするので、落ち着きを意識しています。今後も、バンドと弾き語りの二つのスタイルでやっていこうと思っています。
いつも、私の音楽で人を救いたいという気持ちがあります。けれども、人それぞれの環境や事情があるので、みんなを完全に救うというのは難しいと思っています。だから、理論的な解決をするのではなく、せめて私の音楽を聴くことで、トラウマや問題をうやむやにできないかなと思っています。救うまではいかない音楽も、時には人間には必要だと思うので。
私が小説を書きたいと思ったきっかけは、山田詠美さんという小説家の作品でした。山田さんの小説で、自分のトラウマが救われた感覚がありました。小説は言葉だけの世界なのに、こんなにも人を救うことができるんだととても衝撃を受けたのです。中学生のときに自分も小説を書いてみたいと思ったのですが、経験も少なく、読書量も少なかったこともあって何を書けばいいのかわからず、一行書いて止まってしまっていました。
その後、読書量が増えてきた頃に、音楽を始めました。そして、作詞作曲という形なら、小説を書きたい気持ちと音楽をやりたい気持ちの両方を消化できるのではないかと気づきました。20代後半でようやく小説も書けるようになり、自分の書きたいものが見つかってきて今のスタイルが生まれました。
■映画『ボールド アズ、君。』出演が決まったとき
映画『ボールド アズ、君。』に出演することになったのは、岡本崇監督からの「主演をお願いしたいです」というLINEがきっかけでした。「やったー! 出ます!」と返信し、出演に至ります。撮影中も監督と女優というよりはバンドマン同士として、フランクに接していただきました。岡本監督ご自身もバンド活動をしているということもあり、私のバンド活動を理解した上で撮影スケジュールを組んでくださったのはありがたかったです。
演じた南條珠は、私の半分分身のような感じで重なる部分が多くありました。“推し”(後藤まりこさん演じるバンドのボーカル)と映画館の支配人の二人が神様で、それ以外の世界は珠にとってはあまり面白くないもので、推しが生きがいというところが近いです。自分が仕事も恋愛もダメダメで、絶望してしまって、生きるか死ぬかという状態だった時に、後藤まりこさんの「4がつ6日」という曲を狂ったようにリピートして聴いていて、その曲がすごく好きでライブを見に行ったら、ライブも素晴らしかったです。ライブ後に後藤さんがお客さんにハグをしていて、自分もハグをしてもらった時に、「生きててよかった、頑張って生きよう」と思ったので、命の恩人です。脚本を読んで、「(自分にとって“神様”という関係性)そのままだな」と思って、自分の気持ちを投影しようと思いました。
映画の見所は、何と言ってもライブシーンです。実際のお客さんもたくさん来ていただいての撮影だったので、生の臨場感が伝わると思います。ぜひ劇場でご覧ください。
■今後の目標
今よりもさらに自分の音楽を聴いてくれる人を増やして、Spotify O-EASTや日比谷野音のような会場でワンマンライブがしたいです。もっと大きな夢を言えば、武道館や大阪城ホールのようなホールでライブをしたいです。 映画の出演についても、バンド活動のスケジュールを理解していただけるチームであれば出てみたいなと思います。特に、今回の岡本監督の作品であればまたぜひ出たいです!
■大学生へのメッセージ
私は10代の頃「若いうちにチャンスを掴んで成功しないとダメだ」と焦っていました。でも、今思えば、そんなに焦る必要はなかったなと思います。自分を奮い立たせることは素敵なことだと思うのですが、あまり自分を責めすぎないでほしいです。とはいえ、私がバンドを始めたときとは音楽の広まり方が変わってきて、今は好きなことにのめり込んだりっていうのが自分の仕事になったりもする時代です。皆さんにもぜひ好きなことにのめり込む経験を体験してみてほしいと思います。
学生新聞オンライン2025年2月10日取材 城西国際大学1年 渡部優理絵

映画『ボールド アズ、君。』
出演:伊集院香織(みるきーうぇい) 後藤まりこ
刄田綴色(東京事変) 津田寛治
監督・脚本・音楽・編集:岡本崇
製作:コココロ制作 配給:Cinemago
3月29日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
公式サイト: https://kokokoromovie.com/boldaskimi/
公式X:https://x.com/kokokoromovie
公式インスタグラム:https://x.com/kokokoromovie
公式Facebook:https://www.facebook.com/boldaskimi
公式TikTok: https://www.tiktok.com/@boldaskimi

No comments yet.