トヨタ自動車株式会社 Chief Digital Officer 山下義行
データという数字に隠れた人の動きを感じ取る

トヨタ自動車株式会社 Chief Digital Officer 山下義行(やましたよしゆき)
■プロフィール
1989年電通に入社。ビジネスディベロップメント&アクティベーション局 局長後、2019年トヨタ自動車へ出向し、副本部長として国内販売事業に従事。2021年1月、デジタル領域の業務推進のためトヨタ自動車に転籍し、2023年4月より現職。また日本自動車工業会において、デジタルタスクフォースのリーダーとして、MSP(モビリティスマートパスポート)構想を担当。
※取材当時の肩書です。
「日本を元気にしたい」。トヨタ自動車の熱い想いだ。日常生活の移動から経済活動を支える物流まで、モビリティには人々を笑顔にする力があるという。これまでデータを活用した新規事業の立ち上げに携わるなど、データによる技術革新の可能性を感じてきた山下義行さんに、自動車DXについてお話を伺った。
トヨタといえば、世界中に多種多様なモビリティを展開しているイメージがあるかと思います。軽自動車からトラック、さらにはハイブリッド、燃料電池車、水素自動車など、裾野の広さは最大の魅力であり、今日もトヨタ自動車は世界中で走っています。トヨタの想いは、「地域で最も信頼され、愛される会社になる」ことです。ただ車を届けるだけではなく、地域に密着していることが、世界中でトヨタ自動車が受け入れられる理由だと考えています。
自動車産業は、原材料の確保や部品の調達など、生産から販売までに数多くの人が関わっています。サプライヤーとの関係が大きい業界だからこそ地域との関わりが必要不可欠なのです。トヨタブランドが地域に根付いていると言えるのは、地域の中でサプライチェーンが確立し、仕事を生み出していることも大きな理由です。
◾️データを活用したデジタル化への取り組み
皆さんは“自動車メーカーにおけるデジタル化”と言われて、何を想像するでしょうか。一口にデジタル化と言っても、その方法は管理システムの導入やビジネスチャットなど多岐にわたりますが、私が取り組んでいるのはデータを活用したデジタル化です。大企業ではともすれば縦割りになりがちなオペレーションを統一したり、データを用いて顧客との接点を生み出し、世の中のニーズを把握したりしてます。購入後の顧客との接点と言えば、サービスサポートや車検など、タイミングが限られますが、車の走行時に集められたデータを活用すれば、所有者それぞれの車の走り方が見えるようになります。これまでは自動車の「走る・曲がる・止まる」という3要素のみでしか計れなかったものが、今では通信環境の整備によって高速道路などと「つながる」ことができ、新しいデータを得られるようになったのです。これらの情報はサプライヤーとも連携して活用されるので、データがスムーズに流れる仕組みを整えることも仕事の一つです。
◾️DXでビジネスを変革する
私たちはまさに今、変動の時代を生きています。直接感じることは少ないかもしれませんが、これまで人の手で動かしていたシステムがあっという間にデジタルに置き換えられ、仕事の効率化が図られています。たとえば、自動車を購入するとき、従来は販売店に行って試乗するというのが一般的でしたが、今はインターネット上での契約や決済ができるようになりました。このような販売システムの整備は、まさにデジタル化を活用してビジネス自体を変革するDXに当てはまります。そして、現代の社会課題の複雑さから、トヨタだけでは完結しない問題も出てきました。その一つが環境問題です。カーボンニュートラルが叫ばれている中、自動車の生産や輸送の段階で温室効果ガスを削減する取り組みも始まっています。これまでは、特に同業他社で競争関係にあったものが、社会課題の解決へ向けて共に取り組む協調関係へと変化しつつあるのです。地球環境に良い生産プロセスに変革することは、まさにDX領域に踏み込んでいると言えるでしょう。
◾️パーソナルなサービス提供に活用
データを活用する事例や可能性についてここまで述べてきましたが、データは個々人に還元されてこそ役割を果たします。だからこそ、企業はビジネスになるデータばかりを活用するのではなく、データを分析して一人ひとりに合ったサービスの提供に注力しなければなりません。得られるデータが増えたということは、データの価値に柔軟性が出てきたということです。最近は契約者と利用者が異なる場合や、レンタカーの利用が増加しているため、利用者の属性が明確になると、よりニーズに合わせたサービスを展開できる可能性があります。一方でデータには自助・公助・共助の観点があり、データが個人のものなのか企業のものなのか、どこに活用するのか、誰にとって役に立つのかを丁寧に判断しなければなりません。データの有用性と安全性には難しいバランスがありますが、安心・安全にデータが流れ、必要なときに必要なデータを得られる仕組みが整ってこそ、個々人に意義のあるサービス提供につながると思います。
*message*
データは冷たくて無機質なものだと思われることが多いのですが、本当は暖かくて温もりを感じるものです。データというのは、人間の行動や発言が記録されたものです。だからこそ、データという数字に隠れた“人の動き”を感じてほしいのです。私たちのミッションは「データでありがとうをつくる」ことです。喜んでくれる誰かの笑顔を想像しながら日々尽力しています。皆さんもぜひデータに対する見方を変えて、手触りを感じとってほしいです。
学生新聞2025年4月発刊号 上智大学3年 白坂日葵

東洋大学2年 越山凛乃/上智大学3年 白坂日葵/東京薬科大学2年 庄司春菜
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