経済産業省 事務次官 飯田祐二

国と人の未来を第一に。経済産業省が描く今後の日本とは。

経済産業省 事務次官 飯田祐二 (いいだゆうじ)

■プロフィール
東京大学経済学部経済学科卒業後、1988年4月通商産業省入省。
2014年7月 大臣官房秘書課長、2017年7月 大臣官房総括審議官(併任 地域経済産業グループ長)、2018年7月 産業技術環境局長、2020年7月 資源エネルギー庁次長、2021年7月 大臣官房長、2022年7月 経済産業政策局長(併任 内閣官房GX実行推進室長)
2023年7月より経済産業事務次官(併任 内閣官房GX実行推進室総括室長)

将来の日本を見据え、具体的な結果につながる政策を打ち立てる経済産業省。世界情勢を見据えつつ、日本が抱える課題解決に取り組み、私たち国民にとって豊かで住みやすい国をつくるべく、日々尽力されている。同省の事務次官である飯田祐二さんに、官僚の道を目指したきっかけや、社会課題解決に取り組んだ経験を経て培われたご自身の信念、ビジョンについて伺った。

私が経済産業省に入った理由は、自分がやっている仕事に意義・価値があると思える道に進みたいと思ったからです。大学1、2年生のころは、就職を特に意識しておらず、やりたいことがあまり明確ではありませんでした。就職活動をする時になり、人生において圧倒的多くの時間を使う「仕事」に「価値・意義・やりがいを持てるか」、「所得を得る手段」で「できるだけ短い時間で終わらせたい」ものでなく、「結果を出すために進んで全力で取り組みたい」と思える仕事を選びたいと考えました。それで、国や人のために役に立てるのではないかと思い、国家公務員への道を目指したのです。数ある省庁の中で経済産業省を選んだ決め手は、お会いした先輩を通じて、省が抱く課題への考え方、組織像が鮮明に見えた気がしたからです。「人」で決めました。
経済産業省は、鉄鋼、自動車、流通からエネルギー、通商、中小企業、知的財産など幅広い業務を担当しています。広範囲な分野に携わる中で、それぞれの利害を調整しながら政策を作り上げることは、社会の縮図そのものです。また、入省後、特に印象に残っているのは、農水産課に配属された時のことです。農水産課では野生動物を保護するワシントン条約など貿易関連業務を担当していました。経済産業省の業務の中で、農水産課が扱うものは、決して優先度が高いものではないかも知れません。しかし、やっていくうちに面白さ、意義、やりがいを強く感じるようになりました。これらの経験を経て、広い視野で考え判断することの大切さと、どんな仕事にも意義があり、どう向き合うかは自分次第であることに気づきました。

■事務次官になったのは「課題解決」の積み重ね

事務次官の仕事は、一言で言えば、大臣をお支えし、経済産業省全体を俯瞰的に見て組織をデザイン、管理、重要政策をリードし結果を出すことです。経済産業省の中には、事業ごとに実に多彩な部局がありますが、私は各部局が円滑に連携できるようスーパーバイズしたり、組織内の体制を整えたり、時には他の省庁との調整などを行っています。
私は、現在は事務次官というポストに就いていますが、ここまできたのは日々の仕事の積み重ねだと考えています。若い頃「仕事ができる人、頼り甲斐があるのはどういう人だろうか」「そういう人になりたい」と考えていました。入省時に、多くの先輩から「入省してから5年で仕事の基礎を身につけることが不可欠」と言われました。しかし、最初は、それが何なのかよくわからず、自分なりにその言葉の意味を模索しました。経験を積むにつれ、その答えは「課題を見つけ解決する」ということなのだと感じるようになりました。前例にとらわれず、重要な課題を見つけ、解決への道筋を考え、関係者と連携、協力、調整し、これを実際に解決する。これを繰り返してきた結果が、今のポストなのだと考えています。

■日本経済の転換点となる「経済産業政策の新機軸」とは

入省後に、バブルが崩壊、その後の産業政策は規制・制度改革が中心となったので、私自身、その旗振り役として政策を進めました。この政策は、日本が先進国の仲間入りする中で、バブルが崩壊したことを受け、日本経済を牽引する事業を創出するために、民間企業の創意工夫を阻害している規制・制度を改革するために取り組まれました。企業から新規事業等の障害となっている規制・制度の緩和要望をお聞きし、その要望について政府として対応出来るのか、難しいのか、難しい場合はその理由を明確にし、公表する、複数年の計画を作り、毎年リバイスしていく、そのような仕組みを構築しました。私は、当時としては、こうした政策は、その後の日本経済にとって非常に意義のあるものであったと考えています。
しかし、経済状況は変化し、そのスピードも速いため、政策もそれに対応できるよう素早い対応が必要となります。
現在、経済産業省では、規制・制度改革を中心とする新自由主義的な政策から大きく転換し、「経済産業政策の新機軸」に全省をあげて取り組んでいます。「経済産業政策の新機軸」とは、気候変動や資源循環、経済安全保障、健康、デジタルといった社会経済課題の解決を経済成長に繋げるために、官も民も一歩前に出る、必要な場合には、国もリスクを取って、大規模・長期・計画的に支援を行うなど政策を総動員するという考え方です。かつてはこうした政策を批判していた欧米を含め世界中が取り組んでおり、政策の国際競争が行われているような状況です。国内投資の拡大、イノベーションによる新事業創出、地域活性化、国民所得の向上、内需の拡大という経済の好循環を実現するために必要な政策です。現在、日本は、30年振りに国内投資が拡大し、賃上げも進んできており、良い意味での「潮目の変化」が見られる状況です。これが継続するか、これまでのようなデフレ経済に逆戻りするか、現在はその分岐点にあると考えています。ここで手を抜くことなく、継続的かつ強力に政策を実行し、今後、人口が減り高齢化が進んでも、経済成長し豊かな日本を実現していきたいと考えています。2040年に向けた「成長投資が導く2040年の産業構造」も策定しています。
国家公務員という職業は、「人のため」に働き、結果を出す仕事です。経済産業省は各省庁に先駆け人事評価を導入し、その中でコンピテンシーという概念を取り入れました。これは、学歴や知識、やる気ということではなく、課題解決能力に焦点を当てた概念であり、課題解決に向けて、具体的にどういう役割を果たしたかを客観的に分析し、評価していくものです。多くの人が、自らの成長は、知識やスキルを身につけることと考える傾向があると思いますが、そうではなくて、そうした知識やスキルを使って、自らの力で課題解決に具体的に繋げられるかを評価しようとする考え方です。国家公務員として日本をより良くしていくためには、こうした能力を持つ多数の人材が必要になるし、そうした人と一緒に働きたいと考えています。私は、経済産業省で人事の仕事に長く携わって来ましたが、個人個人にはそれぞれものすごいポテンシャルがあると感じています。そのポテンシャルが発揮されるタイミングは、人それぞれ違うと思います。学生時代に発揮される人もいれば、仕事をする中で開花していく人もいると思います。大事なことは、まずは仕事を選ばずに、まず自分の力で課題解決に取り組み、やり切れるようになることです。また、やり切るためには、その意義について腹落ちすることが必要なので、その仕事は何のためにやるのかをしっかり考えるようにすることです。仕事の重要さや大きさよりも、仕事の意義を考える事です。国のため、人のために尽くしたい、結果を出したいという気持ちを持ち、課題解決能力を高め、成長していきたいという意思を持つ人には、国家公務員、経済産業省の仕事に挑戦して欲しいと考えています。

■⼤学⽣へのメッセージ

大学生には、ぜひ世界を意識し、見て欲しいと思います。日本を考える上で、各国はどういう状況か、何をやっているのか、日本との違いなど、学ぶことも多く、極めて重要だと思います。競争相手でもあります。
あとは、一生懸命打ち込めることを何か見つけてほしいですね。バイトでもサークルでも他の活動でもなんでもいいので。その中で、いろいろな課題に直面すると思うので、そこから逃げずに、自ら中心となって課題を解決する経験をして欲しいと思います。
また、自分はどういう人間で、何をしたいのかは一度真剣に考えて欲しいです。学生時代に一度真剣に悩んで下さい。

学生新聞オンライン2025年4月30日取材 中央大学1年 加藤眞優花

N高等学校3年 服部将昌/中央大学1年 加藤眞優花/東洋大学3年 越山凛乃/
城西国際大学2年    渡部優理絵/青山学院大学1年 松山絢美 

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