日本テレビ放送網株式会社 顧問 小杉善信

「見る前に面白い」を企む。ヒットの裏にあった利他精神

日本テレビ放送網株式会社 顧問 小杉善信 (こすぎよしのぶ)

■プロフィール
1954年 富山県生まれ 落語家の立川志の輔とは幼馴染 一橋大学卒 
1976年 日本テレビ入社 制作局配属  22年間番組制作に携わる
1998年~編成部長、営業部長、営業局長、編成局長を歴任
2009年~日テレアックスオン代表取締役社長
2011年~帰任後 取締役、常務、専務、副社長  
2019年~代表取締役社長
2022年 代表取締役退任
現在、複数の社外取締役、顧問を兼職

学生時代は年間200本の映画を見まくり、落語と麻雀で対人力を磨きました。日テレ入社後『金田一少年の事件簿』などヒットドラマや『24時間テレビ』の改革をプロデュース。
「見る前に面白い」コンテンツ作りとは?「立山連邦」に学ぶリーダー論とは?ミスター日本テレビが語る、学生への熱いエールを届けます。

学生時代はプラプラと過ごしていました。ただ、なんとなくテレビ局に入りたい思いがあり、誰よりも映画を見ることだけは徹底していました。年間200本、3年間で約600本。3本立てやオールナイト上映を駆使して、浴びるように映画を見ていました。都心の大学生が複数人でお弁当を持ってきて映画館に来ているのを見て羨ましく思いながら、1人で鑑賞する日々でした。その際、必ず感想とカット割りをノートに記録していました。演出の意図を自分なりに分析し続けたのです。
また、あがり症を克服するために2年間落語研究会に入り、ゲーム代わりと人脈作りのために麻雀にも没頭しました。
就職活動では、故郷の富山県で最初に開局した民放が日本テレビ系列だった縁もあり、日本テレビが第一志望でした。面接で「落語をやってみろ」と言われても物怖じせずに「入社式の日にやります」と冗談で返せたのは、学生時代の経験のおかげですね。

■作品至上主義の打破

入社後はバラエティ班に配属されましたが、キラキラした世界とは程遠い毎日でした。当時はハラスメントの概念もなく、先輩から「入門テスト」と称された無茶もしていました。でも、私はそれを修行と捉え、むしろ面白がっていました。どんな状況でもジョークで返せるか、場の空気を読めるか。そんなバラエティの精神と強靭なメンタルを、この時期に徹底的に叩き込まれました。
18年間バラエティを経験した後、ドラマ班へ異動。当時ドラマ班は「作品主義」で、視聴率が悪くても「作品の良さが分からない視聴者が悪い」と傷を舐め合うような空気がありました。 
私はその雰囲気を撤廃し、視聴者がワクワク・ドキドキできるドラマを作るのだと宣言しました。掲げたのが「見る前に面白い」番組作りです。中身が面白いのは当たり前。大切なのは、見る前の段階で「これは面白そうだ」と思わせることです。キャスティングと企画の段階で勝負は決まる。この方針のもと、『金田一少年の事件簿』などを制作し、世帯視聴率20%以上を連発させました。

■『24時間テレビ』の改革と企みの重要性

「見る前に面白い」という考えを最も発揮したのが、『24時間テレビ』の改革です。当時、番組開始から15年が経ち、視聴率は7%まで低迷していました。今まで担当した番組の10倍以上ある予算を見て、腰が抜けそうになりました。ただ、これまでの経験にないからこそやってほしいと依頼され、チャリティーに全く興味のない層を振り向かせるための企みを考えました。
それが、ダウンタウンさんの起用です。当時はチャリティと縁遠いイメージだった彼らにあえて黄色いTシャツを着せ、「チャリティーやで」というキャッチコピーを添える。これが実現できたら成功すると、確信がありました。「あのダウンタウンが何をするんだ?」という興味が、普段チャリティーを見ない人たちをテレビの前に連れてきたのです。
今までと全く違う番組にした結果、視聴率は17%超へとV字回復しました。チャリティーのためのチャリティー番組ではなく、結果としてチャリティーの輪を広げる番組にする。この精神は今でも番組作りに活かされています。
一緒に働きたいと思うのも、こうした「企み」を持てる人です。0から1を生み出してみる。それが難しくても、あるものをアレンジして全く新しい価値を作る。企画が進みだしても、立ち止まってアレンジしながら、人を驚かせる仕掛けを考えられる人と仕事がしたいですね。

■利己ではなく利他であれ。立山連邦に学ぶ組織論

私が仕事をする上で重視していることは、「利己」ではなく「利他」であるかどうかです。「自分の手柄にしたい」という人ではなく、チームのため、誰かのために汗をかける精神を持った人と働きたい。
この考え方は、故郷にある「立山連邦」のあり方にも通じています。 実は、立山連邦の中に「立山」という山はありません。雄山、大汝山、富士ノ折立という3つの峰の総称なのです。しかも面白いことに、主峰とされる「雄山」(3003m)よりも、「大汝山」(3015m)の方が高く、
主峰が一番高くないことが不思議でした。しかし、ある登山ガイドの方に「山は高きだけが貴きにあらず」と言われ、ハッとしました。
これは私の経営スタイルと似ています。私は出世欲もありませんし、カリスマ型でもありません。だからこそ、自分より優秀な部下たちが力を発揮できる環境を作り、チーム全体で目標に向かって歩き出せるようにする。現在は顧問として若手の育成やOBOG会の活動をしていますが、これも日本テレビ愛と恩返しを旨として、私なりの他己の実践をしています。

■大学生へのメッセージ

皆さんに伝えたいことは2つあります。1つ目は、「何を知っているか」ではなく「誰を知っているか」が重要ということです。知識や情報はAIですぐに調べられる時代に、信頼できる人脈や、困った時に助け合える人間の繋がりは、何にも代替できません。自分にとって質の高い、尊敬できる人との縁を大切にすることが、必ず皆さんの仕事・人生を助けてくれます。
2つ目は、アイスホッケーの伝説的選手、ウェイン・グレツキーの言葉です。『100%入らないシュートは、打たなかったシュートである(You miss 100% of the shots you don’t take.)』。打たなければ、絶対に入りません。失敗を恐れて枠外に外れることを気にするより、「企み」を持って、「利他」の精神を忘れず、恐れずにシュートを打ち続けてみてください。

学生新聞オンライン2026年2月9日取材 慶應義塾大学3年 山本唯那

慶應義塾大学3年 山本唯那/東京薬科大学3年 庄司春菜/昭和女子大学2年 阿部瑠璃香/武蔵野大学3年 吉松明優奈/早稲田大学2年 中澤京平

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