Terra Drone 株式会社 代表取締役社長 徳重徹
己を知り、挑戦し、空の産業を創出する

Terra Drone 株式会社 代表取締役社長 徳重徹(とくしげとおる)
■プロフィール
1970年山口県生まれ。九州大学工学部を卒業後、大手損害保険会社に入社し商品企画・営業企画を担当。2000年に米サンダーバード国際経営大学院で経営学修士号(MBA)を取得し、米国でベンチャー企業の支援会社を立ち上げる。帰国後、2010年にTerra Motors株式会社を設立。2016年にTerra Drone株式会社を設立。世界市場で勝てる、日本発のメガベンチャーの創出を志し、創業時から海外展開に力を入れている。
2024年「ドローンサービス企業 世界ランキング」で世界1位に輝いたTerra Drone株式会社。その快挙の裏には、大企業を飛び出し、シリコンバレーで挑戦を重ねてきた徳重氏の熱い信念と経験がある。今の日本社会に警鐘を鳴らしながら、新しい産業と価値を生み出す徳重氏は、どのように社会を見ているのかをお話を伺った。
■学生時代の経験としてプラスになった、世界旅行と読書
学生時代の経験で、現在に強く影響していると思うのは、世界旅行と読書です。幼少期は、山口県の人口約6000人の村で育ちました。外国人にも一度もあった事がないような環境だったので、世界を広く見てみたいと思い、大学に入ってからは数十カ国を旅しました。
また、偉人や経営者の本もたくさん読むようにしていました。本を読むようになったのは、大学受験に失敗したときのこと。そして、本を読むなかで、色々な不幸は皆に降ってくるけれど、最終的に成功するのは物事をプラスに考えている人なのだと気が付きました。しかも、その職業は起業家の人ばかり。彼らはすごく気骨があるので、諦めずにやり続ける精神やその生き方が格好良いと感じて、起業家に憧れるようになりました。そこから、「世界でやる、大きなことをする、人生を楽しむ」という軸が形成されていきました。
しかし、就職活動の際は、地元に支店がある大企業に行くように父親から言われ、大手損害保険会社に入社します。毎日が充実していましたし、学びもありました。しかし、入社して5年目の意見交換会で、現場の声が上に届かないことを経営層に直訴しようと伝えると、「私にも妻や子供がいるから立場が悪くなると困る」という発言が相次ぎ、反対されたのです。この周囲の姿勢にショックを受け、退社を決意しました。
そこから、念願だったスタートアップの道を歩むべく、「シリコンバレーで起業する」と周囲に宣言して、再出発を試みました。しかし、残念ながらシリコンバレー近郊の大学には進学できませんでした。有言実行できない自分に悔しさを感じつつも、アメリカのThunderbird経営大学のMBAを取得し、その後も「シリコンバレーで仕事したい」という想いを強めていきました。そして、その想いが実り、最終的には、シリコンバレーで起業する夢を叶えました。
■ベンチャーは産業を創る
まだまだ当時の日本では、ベンチャーは人を騙す「山師」という印象が強かったのですが、シリコンバレーでは、すでにベンチャー企業が新しい産業を創るのが当たり前でした。Googleなどのスタートアップが急成長し、イノベーションを起こし、新たな雇用を生み、税収増で国に貢献する。そして、その企業のメンバーがスピンアウトして、また新たな会社を創って同じような流れを作っていく。これはまさに産業の創出そのもので、私が目指していた世界観そのものでした。働いている人たちも、優秀な人ほどクレイジーで、本気で世界を変えてやるという強い意志を持っていました。スタートアップに対する日本のイメージは、大きく違っていましたね。
その中で、私が一番最初に始めたのがTerra MotorsというEV の二輪、三輪を扱う会社です。当時から、私が抱いてたテーマは、いかにスケールがある大きなベンチャーを世界で展開するか、新産業において世界で勝てる会社を創るか、でした。松下幸之助が当時高級だった家電製品を日本に普及させたように、「日本社会をよくするためにビジネスをする」というパブリックなマインドは大切にしています。「ベンチャー=ニッチ」ではない。
世界市場で大きなビジネスを展開するには、テクノロジーの構造そのものが大きく変わるタイミングをとらえることが重要です。たとえば、インターネットのように新たな巨大産業が立ち上がり、成長局面にあるときにシェアを獲得していくということです。そうした考えのもと、新たに立ち上げたのが、測量・点検・農業におけるドローンなどのハード・ソフトの開発などを手掛けるTerra Droneです。
■世界No.1の先に見据えるもの
ドローンには、大きく分けて、ハード・ソフト・サービスの3つの領域があり、さらに運航管理のプラットフォーム事業があります。ハードについては中国の会社が強いのですが、サービスとプラットフォーム事業に関しては、Terra Droneは世界No.1です。次に目指しているのは、ドローンをインターネットと同じような大きな産業にすることです。ドローンはまだ黎明期なので、私たちが起点となって活性化していきたいですね。今は地上での車の自動運転や宇宙のデータは出てきていますが、低空域の領域は未開拓です。「低空域経済圏」という言葉があるように、その先の未来には、空飛ぶクルマやドローンがどんどん飛ぶような世界観を私たちの手で創っていく。それを日本だけでなく、世界の市場で行っていきたいです。
■学生へのメッセージ
今の日本には、夢を持つことに消極的です。私が世界を見て感じるのは、日本人はポテンシャルが極めて高いです。しかし、制度が悪かったり、真面目なルールがあって仕方なくやらされていたり、押さえつけられたりするような雰囲気が、ポテンシャルを下げてしまう。これは非常に、もったいないなと感じています。
私の高校時代、世界の時価総額トップ20のうち15個が日本の会社でした。今は、トヨタ1社がトップ50番以内に入っているかどうかです。
就活ランキングの上の会社に入ったら勝ちというわけではありません。自分が何に好奇心を持ち、どうなりたいかを自己分析した上で、その夢を実現できそうな会社を選ぶことが大切です。今の時代、真に実力をつけていくことも重要ですが、日本にはチャレンジできる場所があまり無い。そういう意味では、叶えたい夢があるならば、スタートアップに行くのは良い選択だと思います。例え誰かに何かを言われようとも、自分を信じてチャレンジをしてください。私も最初からはそうはなれませんでしたが、シリコンバレーで無一文になり毎日マクドナルドを食べる日が続いても、夢を持ち続けられたからこそ、ここまで来ました。若い皆さんも、夢をもち、行動をしてほしいと思います。
学生新聞オンライン2025年4月21日取材 慶應義塾大学4年 松坂侑咲
■インフォメーション
徳重氏の行動と思想を描いたノンフィクション『常識を逸脱せよ。』(山口雅之著)が、6月3日にプレジデント社より刊行されます。
https://terra-drone.net/21686


慶應義塾大学4年 松坂侑咲 / 城西国際大学 2 年 渡部優理絵 / 立教大学 4年 須藤覚斗
No comments yet.