京浜急行電鉄株式会社 取締役社長 川俣幸宏
移動とまちづくりの融合で、沿線の変化をとらえ新しい価値を共創する

京浜急行電鉄株式会社 取締役社長 川俣 幸宏(かわまた ゆきひろ)
■プロフィール
1964年生まれ。栃木県出身。横浜市立大学商学部卒業。1986年入社。2013年に株式会社ホテルグランパシフィック専務取締役に就任するなど、ホテル事業に長く携わる。グループ戦略室長、取締役常務執行役員などを歴任し、2022年4月に京浜急行電鉄株式会社取締役社長に就任。
品川から三浦半島まで、多様な顔を持つ沿線を舞台に「移動」と「まち創造」両輪のプラットフォームのスパイラルアップで価値を創造する京急電鉄。ホテル事業などの多彩なキャリアを経てトップに立った川俣社長に、太陽を求めた大学時代の経験から、変化する社会で求められる人間力と、目指す共創の未来について伺った。
■太陽の下でのスポーツと、現像室での試行錯誤
大学時代を振り返ると、勉強よりも部活動に力を入れ、軟式野球部と写真部を掛け持ちしていました。高校まで続けていた剣道部から一転、大学では「日の光の下で外のスポーツを」と決めていました。一方、写真部に入ったのは、表現することへの憧れがあったからです。限られたフィルムの中で一瞬を切り取る緊張感にのめり込みました。アート思考や美意識を、無意識のうちに学んでいたのかもしれません。
また、生活にも遊びにもお金が必要でしたからとにかくアルバイトをしていました。頭よりも体を使って昼夜問わず働いていました。学業で唯一真面目に取り組んだのは、経営戦略論のゼミですね。イゴール・アンゾフなどの企業戦略を学び、40年経った今、当時の理論が現在の経営に通じると気づき、基礎の大切さを噛み締めています。
■文系でも「まちづくり」「ものづくり」ができる感動
就職活動では、最初から鉄道会社を目指していたわけではありませんでした。商社志望でしたが、活動終盤に地元の京急を訪問したのが転機でした。
そこで、鉄道会社が電車を走らせているだけでなく、まちづくりを行っていると知りました。メーカーや技術職でなくても、文系の人間がまちづくりやものづくりに関われる。多様な事業を行う鉄道会社だからこそ、自分の思いを描くことができるのではないかと思い、この世界に飛び込もうと決めました。入社後は、実は鉄道事業でなくホテルや管理部門でのキャリアが長いんです。来年で入社40年になりますが、サラリーマン生活の半分以上はホテル関係の仕事をしていました。
■顧客と向き合い続けたホテルマン時代
私のキャリアの中で現在の経営判断に最も大きな影響を与えているのは、やはり長く携わったホテル事業での経験です。ホテルは、ホスピタリティそのものを商品として提供するビジネスです。「お客様は誰なのか」「その方は何を求めているのか」「我々は何を提供できるのか」。この三つを常に考え続けなければ、商売として成り立ちません。ブライダルや宴会の企画などを行うなかで、失敗してお叱りを受けることもありましたが、自分の企画でお客様が喜んでくださる経験は代えがたいものでした。
鉄道事業においても、顧客視点という考え方は全く同じです。ご利用いただくお客様の潜在的なニーズを掘り起こし、京急ならではの価値をどう提供するか。市場の変化に敏感になり、お客様に向き合い続ける姿勢は、ホテル時代に培った私の原点です。
元々「社長になりたい」という野心はありませんでした。縛られず、自由が好きな性分でして。でも若い頃から目の前の仕事を面白がり、やりがいを見つけることだけは意識してきました。京急は懐が深くて、私のように少し自由な人間でも、やろうと思ったことを任せてくれる風土がある。それに救われたキャリアだったと思います。
■「移動」×「まちづくり」で生み出す価値
私たちの経営戦略は、「移動プラットフォーム」と「まち創造プラットフォーム」の二つを掛け合わせ、相互に価値を提供し合うことです。魅力的なまちがあれば人は移動しますし、移動が便利になればまちは活性化します。
そして、京急の事業エリアは、都心の品川から、玄関口の羽田空港、エンタメと産業の川崎、ビジネス拠点横浜、そして豊かな自然をもつリゾート三浦半島まで、非常に多様な顔を持っています。最近ではその沿線の特色も変化してきており、川崎の次世代エネルギー拠点や、横浜でのイノベーション地区形成、三浦半島では高級リゾート開発も進んでいます。
まちづくりは、私たちだけではできません。そこで重要になるのが「共創」です。私たちは場を提供し、そこに優れたコンテンツを持つ専業の事業者さんや地域の方々に参画していただく。共創しながら、「これも京急!?」と喜ばれる新しい価値を沿線の方々に届け、沿線全体の価値を上げていくのです。
具体例としては、「newcal(ニューカル)」というエリアマネジメント活動を展開しています。地域ごとの特性に合わせたコミュニティを形成し、駅を単なる通過点ではなく、地域の玄関口として、人々が集い、新しい何かが生まれる場にしていきたい。ハード面だけでなく、ソフト面のコミュニティ形成を通じた沿線全体の豊かさ実現が、私たちの目指す未来です。
■大学生へのメッセージ
これから社会に出る皆さんには、「自分を知る経験」をしてほしいです。現代は情報が溢れ、AIがサポートしてくれる便利な時代です。失敗を恐れ、傷つかないようにと、守られすぎているかもしれません。しかし、社会に出れば、自分の力ではどうにもならない局面に必ず遭遇します。だからこそ、学生のうちにあえて困難な道を選んだり、厳しい環境に身を置いたりして、自分の限界を知る経験をしてほしいのです。自分がどこまで耐えられるのかを知ることは自分を守る術になります。そして、自分の弱さを知るからこそ、仲間と協力する大切さが分かります。
変化のスピードが加速するこれからの時代を生き抜くために必要なのは、変化を敏感に感じ取る感性と、失敗を恐れずにトライする精神、そして基礎的な「人間としての体力」です。仲間と共に変化を楽しみながら、新しい価値を創造していってください。私たち京急も、そんな志を持った方と一緒に働けることを楽しみにしています。
学生新聞オンライン2025年12月1日取材 慶應義塾大学3年 山本唯那

慶應義塾大学3年 山本唯那/東京女子大学 2年 浮田梨紗


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