モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 蘭美
たった5%のチャンスが無限大の成果を生み出す
モデルナ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 鈴木 蘭美(すずき らみ)
■プロフィール
1999年英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで医学博士号取得、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンでの博士研究員を経て、英国でベンチャーキャピタル事業に従事。その後、エーザイ事業開発執行役、ヤンセンファーマ株式会社にて事業開発本部長やメディカル事業部門本部長、フェリング・ファーマ株式会社最高経営責任者などを経て、21年11月より現職。
コロナ禍には、一躍その名が世界中に知れ渡ったモデルナの日本法人であるモデルナ・ジャパン株式会社。そのトップに立つ鈴木蘭美社長は、3児の母としての顔も併せ持つ。「医療の世界に携わることこそ、私の生まれてきた理由だと思った」と語る鈴木社長のこれまでの軌跡に迫る。
■単身15歳で英国へ渡った学生時代。そして、医療の道へ。
子どもの頃の自分を、一言でまとめると“ませていた”のだと思います。中学生まではとにかく遊んでばかり。中高一貫校でしたので、「このまま高校生になってはいけない」という気持ちから、全く違う環境に身を投じようと英国への留学を母に申し出ました。「大学からであれば」と言われ、大学検定試験を受けて、15歳で単身英国へ留学しました。しかし想定していたよりも、やはり言葉の壁は厚かったですね。英語を学ぶうちに3年の時が経ち、あっという間に普通の大学生の歳になっていました。
大学では薬理学を専攻しました。大学検定を受ける際に、苦手な理系科目に力を入れて勉強するうちにいつしか文系科目よりも理系科目に面白さを感じるようになったことがきっかけでした。その中でも薬理学は、西洋の薬や人類の健康医学の歴史などの数学的要素以外も学べるところに魅力を感じました。
修士課程に進んだ頃、同じ大学で二人の友人が癌の宣告を受ける出来事がありました。副作用ばかりが強力で、効果があまり期待できないにもかかわらず、薬が投与される。壮絶な治療を受ける彼らを目の当たりにし、「なんて不条理なのだろう、これを正さないといけない」という強い衝動に駆られました。
その後、ある日印象的な夢を見ました。夢の内容は詳しくは覚えていないのですが、朝、ふと目を覚ましたき、「私は癌を完治させるために生まれてきた」という生まれ持った役目があることが腹にストンと落ちていったのです。それがきっかけで、医学博士への道を志すことを決めました。
当時の部門長だった教授にその夢の話を伝えたところ、「それなら」と英国の大学で有名な乳がんの外科医の方を紹介されました。さらにその方の紹介から大学院で乳がんの研究もスタートしました。そのご縁や恩を返さねばというプレッシャーを感じながらも、仕事を続けていくなかで今日に至っています。
■mRNAだけに注力してきたユニークな会社・モデルナの魅力と課題とは
モデルナはmRNAだけに注力をしてきた、非常にユニークな存在だと思います。新型コロナウイルスのワクチンを開発する以前から、10年間で、4000億円を超える投資をmRNAの研究開発につぎ込んできました。その当時はmRNAが医薬品になる可能性は低いと言われていました。しかし、赤字が続く中でも、たとえ成功確率が1%でも5%でも、成功した時の計り知れないインパクトに情熱を注ぐ人たちの集団、それこそがモデルナだったのです。
モデルナ・ジャパンとしては、現在48の感染症やがん治療などに役立てる新薬候補を持っています。他国と比べても遅延なく、それらの薬を日本で提供していくことが私達の存在意義です。
社員のワークライフバランスも考えた上で、その存在意義をどう実現するか。これが今後の私たちの課題であり、仕事に対する魅力だと思います。
弊社はmRNAを基軸に、遺伝子編集とステムセルにも取り組んでいます。今年の1月には日本のスタートアップ企業を買収して更にワクチン製造のスピードを加速させるなど、社内外の力を結集して早期実現を目指しています。
■経営者である理由、その信念とは。
経営者として、私が大切にしているのは、その人の持つ可能性です。私には、その人が持つ可能性が見えます。その人自身が自分について想像している以上の可能性を引き出し、才能をフルに活かせる環境を作ることが、経営者としての私の役割です。
そして、個人の能力を組織へと繋げることで、さらなる大きな成果が得られることがあります。そんなときは、まさに経営者冥利に尽きる、非常にやりがいを感じる瞬間です。
また、仕事において私がモットーにしていることを1つ挙げるなら「理にかなったことをコツコツと続けること」です。その努力が開花したとき、自分だけではなく誰もの想像を超えるような大きな成果になることがあります。この考えは科学の性質、そして弊社の在り方にも通じます。明日誰かを救うことが出来なくても、理にかなったことをコツコツ続けていれば、それが多くの人の命を救えるような成果を生み出すのです。
■大学生へのメッセージ
この時代に学生として生きる皆さんには、本当に沢山の可能性があります。なぜならAIなどがまだ発展していなかった私の学生時代に比べて、やりたいと思ったことをより早く実現できる環境にいます。ですから、やりたいことにどんどんチャレンジしていって欲しいですね。やって失敗することと、やらずに後悔することではネガティブなインパクトでいうと同じくらいの大きさだと思います。チャレンジしなければ何も得られませんが、失敗からは学ぶことが出来ます。迷ったらやる。この思いこそ、何事にも共通する今後の成長への原動力になるはずです。
学生新聞オンライン2023年2月7日取材 東洋大学4年 伊佐茜音
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