映画監督 日比遊一

一歩踏み出す勇気と希望を届ける

映画監督 日比遊一(ひびゆういち)

■プロフィール
1964年、名古屋市出身。高校卒業後に俳優を目指して上京し、20歳でニューヨークへ。2016年、高倉健のドキュメンタリー映画『健さん』を監督。モントリオール世界映画祭ワールド ドキュメンタリー部門の最優秀作品賞、日本映画批評家大賞ドキュメンタリー賞を受賞。2019年、樹木希林企画による『エリカ38』では脚本・監督。2021年、名古屋を舞台にした『名も無い日』では製作・脚本・監督。現在、ニューヨークを拠点に活動中。

2024年10月11日全国ロードショーの映画「はじまりの日」。9月28日、第63回名古屋講演会にて、映画を手掛けられた日比遊一監督をゲストにお招きし、映画の制作背景や魅力、映画に込めた想いについて伺いました。
伝説のロッカーの再生と若き歌姫の誕生の物語を描く本作では、元JAYWAILボーカリストの中村耕一さんと、圧倒的な歌唱力で注目されている歌手の遥海さんがW主演で映画に初挑戦され、従来のミュージカル映画とは一線を画す、大人のための音楽ファンタジーの世界が魅力です。

■映画を手掛けよう思った経緯

前作の名古屋を舞台に手掛けた「名も無い日」が作家として最後に撮るような作品だったので、そのあと頭が真っ白になってしまいました。しかしコロナ禍に入り、自分にとって考える時間ができたことをきっかけに、昔から歌の力を問うような映画を作りたいと思っていたことが再燃しました。スポーツの大会や祭典などで合唱したり、何か災害や戦争が起こったら歌で慰めや祈りを行ったり、人類は歌の力を借りて生き延びてきたところがあると思います。そういった歌の力や音を映画に残したいという想いで今回の作品を作ることになりました。

■2人の主演との出会い

毎回チャレンジのある現場を作りたいなと思っていて、今回の場合は名の知れた俳優さんよりも、皆さんが知らないような歌手を主演として起用したいなと思いました。女役の遥海さんは、実は7,8年前に彼女が路上で歌っている動画をYouTubeで見ていて、その歌唱力に魅了されて名前をメモに書き留めていた子でした。今回はソニーミュージックさんとのコラボでしたが、新人で誰もまだ知らないような子はいないかと聞いたときに、偶然紹介されたのが遥海さんだったので、これは運命だなと思いましたね。男役の中村耕一さんは、たまたま前作の繋がりで奥さんの矢野きよ実さんと出会い、ライブを拝見させていただいたことがきっかけです。久しぶりに涙が出るくらい感動して、自分の映画の構想と重なって、夜も眠れなくなったことを覚えています。演技に自信がないという理由で3回もオファーを断られましたが、どうしても諦めきれず、脚本を中村さん仕様に変更し、セリフも極力少なくし、4回目のオファーでようやく受けてくださることになりました。

■名古屋を舞台にした理由

私の仕事の一つは、名もない公園や路地裏に命を吹き込み、新しい「聖地」を創り出すことだと考えています。40年間海外で生活していましたが、コロナ禍で久しぶりに名古屋に帰ってきたときにさびれた街の風景を目の当たりにし、映画を通して地元の観光業や飲食業の再生に少しでも貢献したいなと思いました。また、昔私の実家は今のMIRAI TOWERのちょうど真下にあったので、自分自身の心の聖地でもあり、10代で日本を出てしまったふるさとの原風景を取り戻したいという想いもありました。名古屋市や中部電力をはじめ、多くの企業様からの撮影協力や、ご協賛のお陰で名古屋を舞台にした今回の作品が仕上がったので、本当に光栄な気持ちと感謝でいっぱいです。

■撮影のこだわり

今回はドラマの部分はデジタルではなく、フィルムで撮影しました。デジタルというのは何回も撮れて、その中で自分がいいとするテイクだけを残すことができますが、フィルムで撮影すると時間もかかりなかなか取り返しがつかないので、スタッフや俳優さんの緊張感が違います。主人公達が初めて映画で演技をやるという2人だったので 、リアル感をフィルムのトーンで出したいという狙いと、人生はやり直しやごまかしがきかないということを映画を通して次世代に伝えたいという想いがあります。歌のシーンはデジタルで撮影しているのですが、一気にファンタジーな世界観になって、皆さんが歩いている名古屋の街がパリのように、MIRAI TOWERがエッフェル塔のように見えるような演出にしました。ミュージカル要素も交えたリアルとファンタジーが融合した、邦画ではあまり見ない舞台映画になっています。

■映画を通して伝えたいこと

70歳の一世を風靡したロック歌手の再生と、人前では喋れないようなシャイな女の子の歌姫誕生の物語で、2人の主人公達が歌を通して友情を育み、お互いの背中を押しながら新しい人生を歩んでいく物語です。「はじまりの日」というタイトルは、“皆さんのはじまりの日”になればいいなという想いを込めました。一歩踏み出す勇気が新しい未来の第一音になり、 いつか大きな旋律になって物語を奏でることができる、そんなメッセージが込められている映画です。一歩を踏み出す勇気が出ない、諦めたくないという気持ちがあるが上手く表現できない、そんな方には特にこの映画を見ていただきたいですね。名古屋から全国、そして世界へと発信できる映画だと思っているので、ぜひ劇場に足を運んでご覧ください。

映画「はじまりの日

こんなにも自然に心の機微を映像と歌で表現した映画がかつてあっただろうか。
国際映画祭受賞監督である日比遊一の描く今作は、従来のミュージカル映画とは一線を画す。
抒情的な映像から、自然に生まれ出る魂の歌声。
それは大人のための音楽ファンタジーであり、観る人を物語と歌の世界にやわらかに引き込んでいく。

監督・脚本・プロデュース:日比遊一

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
製作プロダクション:ジジックス・スタジオ 2024/日本/カラー/107分

学生新聞オンライン2024年9月28日取材 学生新聞編集部

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