株式会社エアウィーヴ 代表取締役会長兼社長 高岡本州
眠りの常識を変えたエアウィーヴ、世界への挑戦
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株式会社エアウィーヴ 代表取締役会長兼社長 高岡本州(たかおかもとくに)
■プロフィール
1960年名古屋市生まれ。名古屋大学工学部応用物理学科卒、慶応義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了後、父が経営する日本高圧電気に入社。87年米スタンフォード大学大学院修士課程修了。98年日本高圧電気代表取締役社長(現在は取締役)に就任。2004年に伯父から中部化学機械製作所(現エアウィーヴ)の経営を引き継ぐ。
愛知県名古屋市で生まれ育ち、父の会社を引き継ぎ、さらに倒産寸前だった伯父の会社を再生させるため、持っていた技術を生かして寝具ブランド「エアウィーヴ」を立ち上げたのが、代表取締役会長兼社長の高岡本州さん。長年培った経験を基に、国内外で挑戦を続ける高岡さんにお話を伺いました。
私は愛知県名古屋市で生まれ育ちました。私の父は社員が300人程度の規模の地元の中小企業で電力関連の事業を経営していたため、大学時代は、いつかのタイミングで父の事業に関わるかもしれないと思いながら日々を送っていました。
■学びと挑戦を重ねた学生時代の歩み
大学時代はゴルフ部に所属し、授業よりもゴルフ場に通う毎日でした。工学部で応用物理学を専攻していたものの、本当に物理が好きな学生たちに囲まれる中で「実は物理はあまり得意ではないな」と感じ、文系の分野である経営学に興味を持ち始めました。
卒業後、当時は日本でも数少ないMBAを修得することができる慶應義塾大学ビジネススクールに進学しました。しかし同級生の多くは企業から派遣された社会人であり、自分のような学生にはハードルが高い環境でした。課題も膨大で、明け方4時まで勉強する日もあるような2年間でした。
修了後は一旦東京で就職をしようと思い、就職活動を経てシンクタンクに入社が決まりました。しかし、父から猛烈に反対され、議論の末に名古屋に戻り、父の経営する電力会社向け配電機器メーカーの日本高圧電気に入社する道を選びました。そして、会社の人事担当の方にご挨拶に伺ったところ、すぐに海外留学するよう勧められました。理系のバックグラウンドを活かし、スタンフォード大学大学院の工学部に進学し、2年で卒業しました。
■エアウィーヴ誕生までの軌跡
日本高圧が製造する配電機器は、国内の電柱の約半数に使われています。1998年には同社の社長になりましたが、ここで培った真面目なものづくりへの姿勢はエアウィーヴの事業に活かされています。
エアウィーヴ誕生のきっかけは、釣り糸を作る機械を製造していた伯父の会社を引き継いだ際、なんとか再建しなければと苦悩する中で、当時製造していたクッション材の反発力を寝具に応用できるな、と気がついたことです。
ひらめきの背景には、若い頃にむちうちになった私自身の経験がありました。当時広く流通していた低反発の寝具は疲れが取れにくく、「身体をしっかり支える高反発のクッション材を使った寝具を作りたい」と思うようになりました。手元にあった技術を寝具に活用することで新たな価値を生み出し、会社を存続させるとともに発展させられるのではないかと考えたのです。
従来、寝具の多くにウレタンやスプリングが使われていました。しかし、我々はエアファイバーという全く新しい樹脂素材を使用したユニークな製品を開発したのです。
■社会インフラを支える祖業の資産を活用し、睡眠革命へ
寝具業界は歴史が長く、老舗企業が既に存在します。新規参入するには簡単な製品改良ではなく、新しい付加価値を生むイノベーションを起こさないといけません。
しかし、効果を比較する機会が少ない寝具は、既存品に対して不満を持つ消費者は少ないため、私たちがエアファイバーをイノベーションだと思っていてもお客様からは求められません。
そこで私たちは、まず買い足し商品であるマットレスパッドを作りました。薄いマットレスパッドは、売り場スペースが比較的小さくて済みます。そして、この薄さゆえに宅配便でも送ることができるため、自社物流を持たなくても事業への参入ができました。また、エアウィーヴのよさに最初に気づいてくれたのが身体に敏感なアスリートであったことから、睡眠にこだわるオリンピック選手に選んでもらえるような寝具を目指しました。
その後、東京オリンピックの選手村に寝具を提供することになり、アスリートの体形に合わせて個別化できるベッドマットレスを開発し、昨年のパリオリンピックでも約1万6,000床の寝具を1社で納入しました。現在では3分割でカスタマイズできるベッドマットレスが主力となっています。
日本の従来のBtoC企業は実店舗とネットショップで商品ラインを変えて販売することもありますが、私たちはHermès (エルメス)やChanel(シャネル)といったヨーロッパのラグジュアリーブランドが採用する手法と同様に、実店舗とネットショップで同一商品を展開し、どちらでも購入できるビジネス設計をしています。
こうした緻密に行ったブランディングとマーケティングが、商品のヒットにつながりました。なお、この両輪は、いまだに当社で最も重要にしている部分です。
エアウィーヴは18年前に事業を始め、国内では売り上げが200億を超えました。寝具は世の中にとって必要不可欠な商品です。おかげさまで超一流の方も含めて様々な方々に使っていただき、皆様に知られる存在になりました。私たちの寝具を通して人々の健康を支えていると自負しています。
今後は、企業理念である「眠りの世界に品質を」というメッセージを世界中に広めていきたいと考えています。製品の海外展開にも力を入れており、若手社員が海外で活躍する機会を作り、自分たちのブランドがまだ知られてない地域でもチャレンジしてもらうことで、彼らの視野が広がり、成長してくれることを期待しています。
■大学生へのメッセージ
チャレンジングな目標を設定してそこに向かって挑戦しないと、人は能力を伸ばせません。 そして、伸びることによって、新しい人々との出会いと発見があって、自身の器が大きくなったり、心が広くなったりして、自分たちの生活が豊かになります。エアウィーヴがオリンピックへの寝具提供という非連続なチャレンジをするのは、自分たち自身の能力を伸ばして商品を進化させようと思うからです。
大事なことは、 チャレンジ精神を持ち、素直で誠実でいること。そうすれば失敗した時に学ぶことができ、成長できると思っています。
学生新聞オンライン2024年12月11日取材 城西国際大学 1年 渡部優理絵
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城西国際大学 1年 渡部優理絵 / 武蔵野大学 4年 西山流生
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