キュウ
ネタは絶対面白いのに伝わらなかった…。昨年のM-1で何が変わったのか?
<プロフィール>
お笑い芸人 キュウ
ぴろ (左)
生年月日:1986年5月4日
出身地:愛知県
特技: イラスト、ポテトチップスをいい音を立てて食べる
清水 誠 (右)
生年月日:1984年2月23日
出身地:愛知県
特技:空手、瞬時に涙を流せる
株式会社タイタン 所属
キュウのお笑いオフィシャルチャンネルhttps://www.youtube.com/channel/UCDishZFfEEFw_TRee8w4WRg
漫才師の頂点を決定する「M-1グランプリ2020」の敗者復活戦で見せたネタで、一躍その名を広めたキュウ。じつは、彼らの創り出す違和感やむず痒さが、受け入れてもらえなかった過去もあった…。そしてその悔しさを乗り越えて迎えた2021年は、彼らにとってどんな一年になるのか。いま注目のふたりに漫才へかける想いをうかがった。
■どんな学生時代を過ごしていましたか?
清水:中学生の頃から芸人になりたいと思っていたんですけど、両親からは大学への進学を説得されて。でも、芸人になる夢をどうしても捨てきれなかったので、NSC(吉本総合芸能学院)に通える距離にある、近畿大学へ進学することで納得してもらったんです。
入学してみたら、大学の授業はNSCに通う余裕がないほど大変でした(笑)。でも、大学を続けられないくらいなら、芸人を目指すことも途中で諦めてしまうだろうと思って、3年間で単位を取り終え、最後の1年間でNSCに通いました。
ぴろ:僕も両親から学歴はつけてほしいっていわれていました。大学に進学さえしてくれれば好きなことをしてもいいってことだったので、授業をサボって遊んだり、放課後の教室に残って友達と話す日々でしたね。
卒業後は中学生の頃からの夢だった漫画家を目指していましたが、25歳の頃に夢を諦めて芸人になりました。清水さんは当時の事務所の先輩で、ふたりでネタを見せ合ったり、ゲームをしたりして過ごすうちに仲良くなっていったんです。
■別々のコンビとして活動されていたようですが、コンビ結成の経緯を教えてください。
清水:その頃からぴろのネタはかなり個性的で、僕にはない感性があったんですよ。ぴろたちの漫才を「僕だったらもっと面白くできるのに!」と思いながら見ていたので、解散したらコンビを組みたいと思っていました。
ぴろ:自分が作ったネタを、相方も面白いと思ってくれていないとやっていて楽しくないし、そこの信頼って大事だと思うんです。清水さんにはその信頼があったので、コンビを組まないっていう選択肢はありませんでしたね。
■面白いと思うものが似ていたんですね。おふたりが思う漫才の良さって何ですか?
ぴろ:ネタの責任のすべてを負えるところですね。小細工が通用しない戦場に丸腰で立つシンプルさがかっこいいと思っています。コントだとセットや設定でお客さんをネタの世界観まで連れて行けるけど、漫才はゼロから始まります。だから、台本、演技、黙っていても何かを伝える雰囲気など、いろんな力を持っていないとできないところが漫才のよさですね。
清水:コントって真っ白すぎて、何していいのか、わからないんですよ。漫才には先人たちが築いてきた型があるから、その道を行くもいいし、はたまた脱線してもいい。いろいろ考えて、工夫をこらせる漫才にずっと憧れていたんだと思います。
ぴろ:コントはその世界のせいにできる逃げ道があるけど、漫才はすべて自分たちの責任になるし、見ている人も同じように感じるものだと思うんです。その負担の大きさにヒリヒリしますね。
■最近では無観客ライブなども増えて、「ヒリヒリ」を感じられる場が減ってきたのではないかと思いますが…。
清水:僕たちのネタはお客さんと一緒に場の空気を創っていくタイプではないので、虚しくなることはないです。最近はSNSで反応を確認できますしね。
ぴろ:M-1の反響も目に見える形で分かりやすくなりましたよね。コロナ禍だからモチベーションが下がるってことはあまり感じないです。
■やはりお客さんからの反応はやりがいにつながるんですね。
ぴろ:もちろん、お客さんに面白いと思ってもらえることも嬉しいですが、関係者や先輩芸人さんに評価されたい欲が強いです。単独ライブとM-1の二大評価が重要です。 特にM-1はもれなく全コンビを評価している大会だから、そこで結果を出すというのは、文句をいわせない唯一の方法というか。
■ネタをやっていて、苦労していることはありますか?
清水:同じネタを披露しても、立つステージが違うだけで評価のされ方も変わってくるところです。「ルパン」は、結成初期のネタなんですけど、去年のM-1準決勝で披露して、やっと高評価をいただくことができました。ぴろのネタは間違いなく面白いのに、それが伝わらない期間は悔しかったです。
ぴろ:僕が作るネタは、見る側にとって見たいものじゃなかったんです。見る人は自分たちが見たいと思うものでしか笑わないから、その人たちに受け皿を用意するための意識改革を少しずつ行なってきました。それがM-1で一気にこじ開けられたと思います。
■ネタのスタイルは昔から変わっていないんですか?
清水:幽霊が出る回じゃない『世にも奇妙な物語』を見ているときのような気持ち悪さを感じるネタをずっとやってきました。
ぴろ:その気持ち悪さを、“感覚”と“ロジック”のバランスを考えて伝えるよう工夫しています。芸人も笑ってくれるネタって、感覚的な部分にあって、公式に当てはめたものはなかなかウケないんですよ。でも、感覚的な部分だけでネタを作ってもお客さんに受け入れられないから、ロジックを使って見やすくする作業を意識して行なっています。バカバカしさと賢さ、両方がないと伝わらないんじゃないですかね。お笑い好きじゃない人にも伝えられるようにしないと。
■今後の夢や目標としている存在を教えてください。
ぴろ:目標はMー1優勝です! あとは、東京03さんに単独ライブの日程を意識させられるまでに成長することです。「キュウと被りたくない」ってビビらせられたらいいですね。
尊敬する芸人像としては、バカリズムさんです。できない部分を見せてないだけかもしれないけど、自分が見る限り完璧な芸人として成立しているのですごいと思います。
清水:僕はマルチに活躍したいので大泉洋さん、ユースケ・サンタマリアさんです。
ぴろ:芸人さんのほうがいいんじゃない?
清水:聞かれたら答えようと思っていたんですけど忘れちゃいました(笑)。思い出したらいいますね。
■最後に大学生に向けてメッセージをお願いします。
清水:僕の先生に、40歳で「これからは好きなことをやって生きる」って辞めちゃった人がいるんです。ああ、こういう自由な生き方もあるんだな、って思いましたね。だから人生、そんなに重苦しく考えなくていいと思いますよ。あせらなくても大丈夫です。
ぴろ:将来を考えろっていわれてもね、わかんないですよね。就活の面接で落とされることもあると思うけど、「一瞬で何がわかるんだ!」って勢いでいいと思います。M-1でだって面白い人が落とされています。すべては「運」だと思って、大学生のみなさんにはタフにというよりソフトに考えるようにしてほしいです。型にハマった先の未来が幸せだとはかぎらないですし。楽しい道を選んでも意外と大丈夫です。人生はいくらでも方向転換できます。死ぬときに、1本でもシワが少ないほうがいい。笑いジワはいいけどね。最後みんなに顔を見られたとき「この人満足だったんだ」って思われる顔でいたいよね。
学生新聞WEB取材日2021年1月20日 明治学院大学 3年 菅井七海
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