映画監督 白石和彌 映画を撮ることは、観るより2億倍も楽しい

白石和彌(しらいしかずや)

1974年12月17日生まれ、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、フリーの演出部として活動。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビュー。主な監督作品に、『凶悪』(13)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『凪待ち』(19)、『ひとよ』(19)、『孤狼の血 LEVEL2』(21)など。

2013年に公開された『凶悪』で映画界にその名を轟かせた白石監督。学生時代から映像に触れてきたが、映画監督としてやっていけるという思いはなかったという。監督の作品には常に「人間の多様性」が描かれ、観たものに何かを残す。そんな話題作を世に送り出す白石監督の映画製作における思いとこだわりを伺った。

■続けてきた好きなこと

札幌の映像系の専門学校を卒業した後、就職をせず映画塾に入りました。その映画塾の関係で、若松プロに入ることになり、助監督として10年以上勤めましたが、映画を撮っていてもいなくても、波乱万丈でとにかく楽しかったです。しかし、30歳を過ぎたあたりで助監督の仕事をやり切ったと感じました。「助監督を辞める」と宣言し、映画製作会社で企画開発の部署で働くようになると、それまでの体を使った仕事から頭で考えて仕事をするようになりました。 そうした中で企画した『ロストパラダイス・イン・トーキョー』を撮ったのですが、好きなことをやってだめだったら仕方がない、この業界から退こう、という覚悟を持った作品でした。このとき、はっきり監督としてやっていけると思えたわけではありませんでしたが、その後の一つひとつの仕事や人とのつながりから、見える風景が変わり、気持ちも変わっていったように思います。

■映画をつくる責任

映画を撮る上で、底辺と言 われる人たちの気持ちをいつも忘れないようにしています。 映画は、権力の反対側から物事を見ないといけません。話題になった作品を見てみても、そういった人間の不条理さや反権力を描くことが映画に求められているのだと思います。その中で、人間の多面性を描くことを大切にしています。殺人を犯した人が何かの拍子 におばあちゃんを助けてあげる、そんな多面性を持つのが人間なのだと思います。たと え脇役のワンシーンでもその人のバックボーンを見せられるように、ちょっとした仕草を重要視しています。自分が撮っているのは人間だということを大前提に、エンタテインメントを作らなくてはいけないと思います。そして作品の中に落とし込むだけ落とし込めば、今伝わらなくとも歴史的作品になればいつか伝わると思っています。

■映画をつくる楽しさ

監督を始めたときから今まで、この一本がだめだったら辞めようという気持ちで挑んでいます。そもそもここまで撮れたことが奇跡であって、観ていただく方にも真摯に向き合ってきました。しかし、映画監督だけが人生ではありません。今は、一つひとつの作品にやりたいことをとことん詰め込んで取り組んでいこうと思っています。ただやはり、この仕事って本当に楽しいんですよね。映画は観ることも楽しいですが、作る方が2億倍楽しいんですよ。楽しみ方を知っちゃっている。いつ辞めてもいいと言いながら、離れられないんだろうと思います(笑)。映画は一人で生み出せない、スペシャリストが集まって作るものです。今は、まだまだ監督として吸収できることがありますし、それをスペシャリストたちに教えてもらいながら撮っている感覚が強いです。そうやって試行錯誤して新しいことにチャレンジしていきながら、今後も映画をつくっていきたいです。

■massage

今、コロナで大変だと思いますし、学生さんは本当にいろいろ考えているなと思います。しかし、一昔前より少し大人しくなったのではないかとも感じています。学生のときには、学生のときにしかできないことがあります。物事を知らないからこそ突き進めることもあるので、もっと行儀悪く過ごしていいと思います。大学生のうちに簡単に限界を決めず、冒険してほしいなと思います。

学生新聞別冊2022年4月号 津田塾大学4年 川浪亜紀

津田塾大学4年 川浪亜紀 / 日本大学4年 辻内海成 / 埼玉大学2年 成田裕樹

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