俳優・脚本家・プロデューサー 岩瀬顕子 

忘れてはいけない記録を記憶として伝える使命があるから

俳優・脚本家・プロデューサー 岩瀬顕子 (いわせあきこ)

■プロフィール

栃木県出身。企画・脚本・出演する劇団「日穏-bion-」(びおん)主宰。
グローバルにも活動し、映画「アースクエイクバード」」、ジョニー・デップ主演映画「MINAMATA」、ドラマ「TOKYO VICE」などの海外作品にも出演。
また、ドラマ「特捜9」等の脚本を手掛けるほか、2023年秋公開の映画「シェアの法則」(小野武彦主演)でも、脚本とプロデュースを担っている。

女優として役を演じる一方、脚本家そしてプロデューサーとして作品を創り出す岩瀬顕子さん。「色んなものに挑戦してより良い作品を、自分なりの方法でメッセージを伝え、多くの人に笑顔やエネルギーを与えたい」と語る岩瀬さんに、様々な作品を手掛ける理由や、お仕事に対する想いを伺った。

■表現することの意味

私は大学生活をアメリカのバージニア州で過ごしました。在学中はミュージカルに出演したり、インターナショナルソサエティという留学生が自分の国の文化を伝える団体で、副部長を務めたりしていました。3年生の夏、バックパッカーとして3ヶ月旅をして様々な物事を吸収し、一度日本へ帰国。その後アメリカに戻り、バージニア州立ウィリアム&メアリー大学に編入しました。レベルの高い大学だったこともあり、あまり遊ぶ暇もなく、日々勉強していましたね。学生時代は授業についていくのに必死で、図書館で過ごした思い出ばかりです。
表現をすることが好きになった原点は、幼少期に習っていたバレエです。自分で踊るのも見るのも好きでした。もともと沢山の芸術や文化に触れていた方だったので、自然と表現する事は好きになったのかもしれません。しかし、当時はそれを仕事にしようとは思っていませんでしたね。現在の仕事を選ぶきっかけとなったのは、大学4年生の時にメキシコの養護施設でボランティア活動をしていた際、ある劇団のお芝居を子供たちが見てとても喜んでる姿を見たことです。演劇は人の心に栄養やエネルギーを与えられるものだという事に気づきました。元々は国連やNPOで働きたいと思っていたのですが、それより自分に向いている方法で人に笑顔を与えられる存在になりたいと強く思うようになりました。私自身が小学生の頃に教師からいじめられた経験などもあったことから、現実を忘れられる世界に憧れを持っていた事もあると思います。だからこそ、お芝居を通して違う人間を生きることで、拠り所を見つけていたのかも知れません。

■役者として、脚本家として

私は女優として演じ、脚本を書き、作品を生み出す仕事を行なっていますが、最初にこの芸能の世界に足を踏み入れたのは役者としてです。役者は”待つ”仕事です。海外作品の場合は基本オーディションで誰にでもチャンスがあるのですが、日本だとオファーが来るのを待つのがほとんどです。お仕事の話が来ても「自分が本当にやりたい作品か?」と自問自答することもあり、待っているだけというのは私の性に合わないなと感じました。でも、演劇は続けたい。それなら自分の思ったものを作ってみようと思い立ちました。実際に脚本を書くことになったのは知り合いに頼まれたからなのですが、意外と評判が良く、脚本の依頼が続くようになりました。演技をしているときは楽しいのですが、やっぱり脚本を書くモノづくりをしている時は大変ですね。でも、書いたものが形となってみなさんが観て、喜んでくれると「嬉しいな、やってよかったな」と強く思います。
ある時、私の劇団の舞台を観たテレビドラマのプロデューサーが、終演後にすぐ楽屋へ来て、ドラマの脚本を作ってみないかと言ってくれました。その時はお断りしていたのですが、何度も声を掛けて下さり、やってみるかと思い立ちました。このように知り合いの方などからお話を頂いて、どんどん色んなお仕事に携わらせてもらって、仕事の幅を広げているような気がします。だからこそ出来ないことは、その時その場で調べて勉強しながら、挑戦して作っています。
それから、私は役者でいる時も制作側でいる時も共通して、みんなが気持ちよく作品に参加できるように現場を明るくする事を心掛けています。笑顔と「ありがとう」を大切にしています。
そして、ハリウッドの映画やドラマにもいくつか出演していますが、これらは全てオーディションで決まりました。海外作品のオーディションは日本での知名度は関係なく、その役に合うかどうかで審査されるので自己PRなどもなく、演技だけを見られます。
映画『MINAMATA』のオーディションを受けた時は、舞台設定が熊本の水俣なので、標準語で書かれている台詞を熊本弁にして受けました。水俣病についてリサーチしたり、熊本弁を教わったりして役になりきる努力をして挑戦しました。

■プロデュース作品の舞台「オミソ」、映画「シェアの法則」について

舞台「オミソ」は、伝統食品であるお味噌の魅力を伝えたいという想いから始まりました。こちらは「みそっかす」と呼ばれるような、のけ者扱いされてしまう息子がいるお味噌屋さんの家族をテーマにした、笑えて泣ける温かい作品です。
映画「シェアの法則」のテーマは多様性を認め合うこと。地球は大きなシェアハウスだから、相手をリスペクトし、価値観の違いを受け入れようというお話です。
私が作っている「日穏」の作品は、戦争、差別、介護問題、安楽死など、社会問題を背景に描いていることが多く、特に戦争については、20代の頃から取材してきた戦争体験者の話を伝えていく事が使命だと思って続けてきました。
エンターテイメントは、伝える事に最も有効な手段です。なぜなら、記録を記憶にすると記憶に残りやすいからです。作品を見て、感情移入の追体験をし、内容に共感した視聴者がその先を考えることができる。それがエンターテインメントの強みだと思います。

■学生へのメッセージ

「人生はエンドレスだ」と大学生の時は思っているかもしれませんが、人生そんなに長くはありません。これはいつかやろうと思っていたとしても、若いうちにしかできない事もあります。やりたいと思ったことはすぐに行動してやってほしいですね。そして、フットワークの軽いうちに旅に出るのもいいと思います。色んな世界を見て様々な国の価値観を知って、沢山の人と話して自分の視野を広げていってください。

学生新聞オンライン2023年7月3日取材 国立音楽大学3年 岡部満里阿

日穏-bion- オミソ 2023(東京公演)

公演日:2023年8月25日(金)~9月3日(日)

劇場:赤坂レッドシアター

チケット:(全席指定)
一般前売り 5,000円 当日 5,500円 U-25 3,500円 高校生以下 2,500円
(※U-25及び高校生以下は要証明書)

出演:
内浦純一、岩瀬顕子、剣持直明(劇団だるま座)、堂免一るこ、伊原 農(劇団ハイリンド)、鈴木朝代、和田慶史朗(演劇集団円)、石井絵理佳、種村 愛、たんじだいご

企画・脚本:岩瀬顕子 

2019年に上演して好評を博した作品の再演!
バブル時代の地方都市にある老舗味噌屋を舞台に繰り広げられる笑えて泣けるヒューマンドラマ。

法政大学3年    鈴木悠介 / 慶應義塾大学4年 伊東美優 / 国立音楽大学3年 岡部満里阿 / 武蔵野大学 4年 西山流生

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