劇場都市TOKYO演劇祭

数多くの劇場が立ち並ぶ東京。しかし、日常的にはその演劇文化は、いまだ浸透しているとはいいがたい部分もあります。そこで、演劇や劇場が、街や社会と大いに融合をしていく機会を作るため、1月10日から3月31日まで開催されたのが「劇場都市TOKYO演劇祭」です。

今回、『学生新聞オンライン』では、同イベントの受賞者たちや『ナビゲーション』の出演者たちにインタビューを決行!それぞれの感想や学生時代の思い出を伺いました。

PART1
劇場都市TOKYO演劇祭 受賞式(2022年3月30日開催)にて、受賞者インタビュー

【最優秀主演俳優賞】
鳳恵弥『ナビゲーション』主演女優

賞をとった感想としては、「皆で取った賞だ」ということです。共演者はもちろん裏で表で作品を支えてくれる方々がいて成り立つ、最高の舞台でした。舞台芸術で演じさせて頂ける機会自体が本当に貴重で、さらにこのような素晴らしい賞を頂けることは「奇跡なんじゃないか」という想いです。

私の役者人生において大きな転機となる出会いである尊敬する脚本家、江頭美智留先生と、私の憧れである先輩役者、松本梨香さんをお繋げしてスタートしたこの作品は想えば最初から奇跡溢れた作品だったようにも感じます。

そして何と言っても、初めて1等賞を頂けたことが嬉しくてたまりません。幼い頃からずっと2位、3位という結果が多く、今回が人生初の1位でした。

人と深く関われる職業として、俳優業の右に出るものはないと思います。その一方で「儚さ」も感じる業種。作品をつくる数ヵ月間は仲間たちと密に関わりますが、千秋楽を終えるともう一生会わないということも。そんな「儚さ」も魅力の一つかもしれません。

今後の目標として、仲間づくりやまた先輩方から学ばせて頂いたことも次の世代に伝えていくということにも意識を持っていきたいと思います。40歳という人生の折り返しを迎え、世代交代も感じる日々(笑)
今後は自分が女優として演じた「軌跡」を残していきたいです。

演劇と聞くと、学生はまだ「未知の世界」という感じる方も多いかもしれません。だからこそ、このような演劇祭が多くの学生にとって演劇に触れる機会になれば嬉しいです。演劇は人生に素敵な影響を与えてくれるもの。身近な人が出ているものから、ぜひ触れてみてください。
(取材・文/東海大学 4年 大塚美咲)

【最優秀助演俳優賞】

松本梨香『ナビゲーション』出演女優

賞をいただけて嬉しいのと同時に、「これからはもっと演劇を盛り上げる立場にならなくては」という責任感も強くなりました。これまで呼吸をするように舞台の上に立ってきました。お芝居を通じて誰かの立場になりきり、セリフという言霊を通してファンの方の心の支えになりたいという想いがありました。観る人が「よし、明日もいきてみようかな」と思えるような活力を届けていきたいです。目指すは「みんなの強力ビタミン剤」です!

また、この賞は表現者としての私の背中を押してくれる受賞となりました。次の目標はパラリンピックで国家斉唱をすることです。舞台と違って、「歌」という限られた時間の中で、いかに視聴者に元気を届けられるかに挑んでいきたいです。そう思うようになったきっかけは、以前に私が養護学校の生徒さんに向けて歌を歌った際に、その父兄の方がとても喜んでくださったことです。これからも歌を含め「表現者 松本梨香」として自分ができることは全て行なっていこうと思っています。

自分が目指す姿を思い描くだけでなく、行動に移していくことが大切だと感じています。そのための第一歩として私が行なっているのは、自分が成し遂げたいことを10回以上口にしていくことです。「叶える」という字は口に十と書きます。口にすると自分の言ったことに対して責任のある行動を追求するようになるので、よかったら皆さんも実践してみてください。
(取材・文/津田塾大学 4年 宮田紋子)

【最優秀新人俳優賞】

吉田知央『トワイライトの涙』主演俳優

最優秀新人俳優賞を受賞出来た事に今、本当にびっくりしています。1月に舞台が始まってから、初主演という事もあり、自分への挑戦でもありました。ご縁があって立たせてもらった舞台で、普段からお世話になっている方と演劇を出来て、純粋に楽しかったです! のびのびと主演を出来たのは周りの方々の支えがあったからこそで、僕だけの力だけではないと思っているので本当に感謝でいっぱいです。これからは新人の枠を超えて頑張っていきたいです。

今回の作品はミステリーコメディーですが、お客さんが笑った中に緊張感を持たせ、どんな展開なんだろうと引き込ませられるのが俳優業の魅力ですね。ストーリの中のセリフを通じて、世の中へ向けて心に刺さる言葉を届けられる特別なお仕事だなと思います。

ドラマや映画なども出演してみたいですが、枠に囚われず、好きな事を仲間と一緒に出来てご飯が食べられる様になりたいですね。もっと演劇を観てもらうために大きな劇場で公演をしたり、主演を演じたりしたいです。

学生の皆さん、このご時世で楽しみや思い出が無くなってしまっても、気が沈んでも何も変わらないので、しんどいと思わずに生きる活力をプラスに考えてみてください。今できる青春を存分に謳歌してほしいです。
(取材・文/国立音楽大学 2年 岡部満里阿)

■PART2
こけら落とし公演『ナビゲーション』マスコミ公開リハーサル(2022年1月12日開催)実行委員長&出演者インタビュー

劇場都市TOKYO演劇祭 実行委員長 佐山泰三

東京って、世界中のどこよりも一番劇場の数が多いんですよね。そういうツールが揃っているのに、活用できていないのが現状です。

でも、実はこれって日本の他の部分にも言えてしまう。例えば公民館や教会。これらもハードの部分は日本が作っているものの、ハードを活かす中身まで充実できていないのが現実なんです。要は作るだけ作っておいて、「中身がない状態」なんです。

わかりやすく言うならばパソコンですね。パソコンも実際に触れる部分であるハードだけ工場作っても使えないですよね。ハードよりもむしろソフトのほうが実際利用する回数は多いじゃないかってくらいソフトの部分は大事。でもそのソフトの部分は、これまで話したように今の日本には殆どない。だから劇場においては、そのソフトの部分を充実させる演劇祭が必要。演劇の良さっていうのは見た人じゃないと、実際に会場に足を運んで自分の目で見てみないとわからないものなんです。

私も中学時代に演劇に関わって、自分の目で見た、得た感動って今も忘れていない。リアルの感動って一生忘れないんですね。生の感動は人生を通して一生涯残り続けるからこそ、こうした生で見る機会というのをどんどん増やしたい。少しでも良いソフトを作って発信していくのは私たち劇場側の責任。素晴らしい芝居を1人でも多く見てもらって、次の世代へ継承していきたい。今回劇場都市TOKYOを構想するにあたって、東京都の援助もあります。これを毎年できるようにして、自分のやりたいことに自らチャレンジする人たちをどんどん排出していきたいです。

(取材・文/神奈川大学 卒業 竹尾あさと)

『ナビゲーション』脚本家・江頭美智留

3年前から死体を運ぶ話をやりたいと思っていましたが、どんな人が運べばいいのかとずっと考えていました。そんなときに、鳳さんと松本さんとの出会いがあり、この二人なら大好きな「テルマ&ルイーズ」という作品のような二人になれるのではないか。そう思い書いたのがこの作品です。自分で書いたもので泣けるのはとても幸せなことだと思いました。一度観た後に是非とも、もう一度観ていただきたい作品です。

私は大学で脚本を教える授業を受け持っていますが、現在の学生はとにかく真面目で、課題にも熱心に取り組んでいると思います。それと同時に、本当に繊細で、授業や学校に来られなくなってしまうことも多いですね。

学生と話していると、「友達はこうしている、でも自分は出来ない」という子が本当に多くて。私は昔から他人のことは邪魔しないで、自分のやりたいことだけをやればいいと思って生きてきたし、周りにも言ってきましたが、そういう風に生きられない人もいるということを、この数年、学生と接したことでわかってきました。

誰にも話せなくたっていいので、とにかく焦らないこと。私自身も遠回りしたことがたくさんあります。時間をかけて、他人と比べず自分の好きなように生きていいんじゃないかなと思います。

(取材・文/日本大学 3年 柴野桃七)

『ナビゲーション』主演女優・鳳恵弥

リハーサルが終わって楽屋の方にもどったときに江頭先生に「泣けたよ」と言ってもらえて、褒めていただけました。今はそれがすごく幸せです。そして、東京は大きな劇場都市だと再認識できる演劇祭を佐山さんに作っていただきました。その演劇祭という目標に向かってチャレンジできる幸せを噛みしめながら、稽古場での練習や本番を迎えることができました。これは演劇人生の中でも何本指に入るくらい大きな分岐点になっているような気がします。

しかし、どの劇団も同じように切磋琢磨しながら稽古をし、葛藤していると思います。それに負けないように、我々も一つでも多くの賞を取れるようにもっともっと上を目指してやっていきますので、お客様一人ひとりが審査員という気持ちで、厳しい目を持って見ていただきたいです。

そして、今回の作品は伏線が多く張り巡らされていて、小気味いいテンポの作品なのでそうした臨場感を劇場に感じに来てほしいです。また、作品の中では何度も「大丈夫」という言葉がちりばめられていて、みんなを励まし、後押しするような温かい作品になっていると思います。

(取材・文/日本大学 3年 石田耕司)

『ナビゲーション』出演女優・松本梨香

今回、この作品を素敵なキャストとカンパニーでやらせていただけたことが嬉しかったです。この作品には、人間臭さみたいなものがぎゅっと詰まっていて、いま、みんなが忘れかけているようなものが入ってると思います。

私はこの作品の中の「大丈夫」という言葉がすごく好きです。幼い頃、私が迷ったり悩んだりした時に母親が「できるから大丈夫」と言ってくれた事で、コロナ禍で、劇場がどんどん潰れていき、役者の友人が引退したりと、2年間辛いことや苦しいことなど色んなことがありましたが前を向け、大変な事でも乗り越える勇気をもらえたのです。これからもみんなに元気や笑顔を届けていきたいです。そして私たちが全身全霊命を燃やして「役者バカ」でやっていることの想いも伝わったらいいなと思っています。来場されるお客様は私たちの役者としての「命」に繋がっています。

お芝居をやっていてもすごく感じるのは、「生まれてきたこと自体がすごい」ということです。我々はこの世に、自分の意志でしか生まれないのだそうです。生まれるというのは知らない世界に初めて飛び込むということで、恐いことだと思うのです。なので、そんなすごいことを既に成し遂げてきた自分自身のことをもっと信じてあげてください。そして、人は地球に立っているだけでも常に前に動いています。人に後戻りはないのです。自分のペースで一歩一歩ずつ前に向かって歩んでいってください。


(取材・文/津田塾大学 4年 宮田紋子)

『ナビゲーション』出演&音楽担当・パッパラー河合

舞台で演技をすることは初めての経験でした。幾度となく行ってきた音楽のステージは準備無しで挑むことができますが、舞台となると勝手が全く違います。リハーサル中、目に涙を浮かべながら演じている鳳さんの姿が自分にとってはすごく新鮮でした。作品中の楽曲についてはすべて自分が手掛けています。脚本家の方も同じだと思いますが、自分の書いた曲は子どものようなものです。

約2年前からコロナ禍が始まり、オフラインでの活動ができなかったころはライブ配信で音楽を届ける活動もしてきました。ライブ配信は、初めは物珍しさから注目を集めますが、何度も見てもらえることありませんでしたね。やはり、生で届けるエンターテインメントに勝るものはないと、コロナ禍の経験を経て改めて実感しました。

学生時代はやりたいことがたくさんあると思います。しかし、ほとんどのことは上手くいかないという心待ちで挑んでください。私自身学生時代にバンドを始めましたが、売れ出したのは10年後です。何かをやり始めた当初は周りから認められないかもしれませんが、それが当たり前です。失敗は成功のプロセスになるので、そこで気を落とさず努力を続けてください。

(取材・文/東海大学 4年 大塚美咲)

東海大学 4年 西田航平/日本大学 2年 石田耕司/東海大学 3年 大塚美咲/日本大学 2年 柴野桃七/津田塾大学 3年 宮田紋子/神奈川大学 4年 竹尾あさと

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