映画監督 岡本崇  一つでも「好き」を見つけることが、人生を楽しむ秘訣

映画監督 岡本崇(おかもとたかし)

■プロフィール
奈良県出身。
2008年頃からインディーズバンド界のMV制作黎明期を支える。2017年より本格的に映画制作を始め、短編映画『ロック未遂』が福井駅前短編映画祭2018でベストアクトレス賞を受賞。2021年、『ディスコーズハイ』では神戸IFFにて奨励賞、日本芸術センター映像グランプリにて発掘賞を受賞。その他多数の入選作を持つ。

7月8日より公開される映画『ディスコーズハイ』。同作の監督を務めたのがインディーズバンドのMV制作を支える岡本崇さんだ。自らが音楽活動する中で、「才能や口約束のような目に見えないものに翻弄される音楽業界において、音楽がど真ん中にあるべきだ」という気持ちを込めて制作したという。そんな岡本監督に、これまでの苦悩や作品の見どころについてお話を伺った。

■元々音楽に興味はなかった
今はバンド活動、MV制作、スチール撮りをメインに行っています。しかし、実は、もともとは音楽が好きという気持ちは全くと言っていいほどありませんでした。音楽を始めるきっかけは、高校時代に友人から「バンドをやろうぜ」と言われてバンドを組んだことです。ここではバンドを組んだだけで、全く活動せず、楽器すら買いませんでした(笑)。ですが「なぜかバンドってええな」と思い、段々とギターが好きになり、音楽を専門的に学びたいと思って音楽の専門学校に通いました。
そして学生時代からギタリストとしてツアーを回る仕事につきましたが、段々と地盤を固めていく難しさを感じるようになりました。その後、バンドで色々なところを回っている際に、仲良くなったカメラマンと交流を深めていく中で、カメラに興味を持ちました。それがきっかけで舞台の映像制作などを行う会社に入社しました。その後、自分でもバンドもやりつつ、MVが今よりも盛んではない時代から、軽い気持ちでインディーズバンドのMV制作に携わってきました。

■MV制作での苦悩
スポンサーがいる企業案件の場合はお金も時間も十分にあるし、きちんとスケジュールも管理されていますが、インディーズバンドの場合は、お金も無いし、バンドの人々も意識が低くて、しょっちゅう遅刻します。最初は「自分の作品を撮っているとは思えないくらいのテンションじゃない?」と驚きました。ですが、自分もバンドをやっていたので、「何とかして一緒に大きくなりたい」という気持ちで制作を続けています。そして段々と撮影の際には遅刻の時間などを見越してロケ地を押さえるようになりました(笑)。
そういった部分、僕も含めて愛すべき奴らなんです。
いや、もちろんそんな人ばかりではありません、意識の高いバンドマンも大勢いるということをお伝えさせてください。
また、MVがバンドの方のPRに繋がって喜んでもらったり、MVの再生数が多かったり、「○○のMVを作ったのって岡本さんですよね?」と周囲の人から言われるとやっぱり嬉しいですね。

■音楽とMV制作の共通点とは
MV制作には「このように作ってほしい」と先方から依頼がある場合と「お任せ」でお願いされる場合、このどちらかになることが多いです。音楽で伝えることとMVで伝えることは同じだと考えているので、曲を聴き込んだうえで「この曲のテーマは何か」を考えるようにしています。これは僕の場合になりますが、歌詞の固有名詞をそのまま用いるような、形通りに作るのはあまり好きではないので、少し外した感じで歌詞を映像で言い換えるように心がけています。

■当初の企画からシフトチェンジして作った映画
『ディスコーズハイ』については、元々は40分くらいで「MVあるある」のような映画を撮りたいと思っていました。ですが、自分の好きな俳優さんやアーティストさんにキャスティングオファーをしていたら、予想以上にしっかりとしたキャストが決まったので、「もっとしっかりしたものを作らなければ」とシフトチェンジしていきました。特に冒頭とクライマックスの歌唱シーンは、僕が作詞作曲した歌を自分の好きな方々に歌っていただいたので、是非注目して欲しいですね。また、冒頭のライブシーンに関してはよくある当て振り(口パクのように楽曲に動作を合わせるもの)でいいと伝えていましたが、楽曲を実際に演奏していただけたので、撮影中、監督である僕もテンションが上がりました。

■警察沙汰になりかけた撮影
驚いたのは、作中、大声で叫ぶシーンを木造の建築物で撮影していたとき、本当の事件だと勘違いされ、近所の方に警察に通報されそうになったことです。もちろんちゃんと許可を取っていたので、大事には至りませんでした。
他にも2020年のコロナ禍で大変だった時の撮影だったので、楽器を持っているだけで白い目で見られることもありました。コロナを機に解散しようとしているバンドもいたので「映画が公開されるまで解散しないでくれ」とお願いをしたり、ロケ地を確保したりするのが大変でした。もちろん遅刻が多い方もいましたが、過去の経験から入り時間を早く設定するなど、対策をして撮影しました(笑)。

■今後もインディーズにチャンスを与えたい
今後もMV制作をやりつつ、映画制作にも取り組んでいきたいと思っています。僕はわかりやすいアクションが好きなので、「大げさなアクション」「わかりやすい山場」を多く含んだ映画を撮ってみたいです。もちろん僕自身もミュージシャンを諦めているわけではないですが、知られていないだけで、実はすごくよいバンドやよい歌はたくさんあると思っています。いまは知られていないけれども、才能が埋もれているインディーズバンドの方々をより多くの人に見てもらえる機会を、1つでも増やしていきたいです。自分が売れるのも嬉しいのですが、仲の良い人たちが売れると自分事のように嬉しいし、その方々の中に僕も混ざりたいと思います。

■大学生へのメッセージ
とにかく1つでも自分の核となるような「好き」を見つけて欲しいです。僕は自分がやりたくて、自分が好きで楽しいことを、一番の優先順位にあげる人生を歩んできました。「夢」と呼ぶほどの大きなことではなくて、ただ「好き」な状態ことでも良いと思います、「でっかい好き」を見つけられると、楽しく人生を歩んでいけます。僕は元々漫画家を目指して挫折しましたが、音楽などの「別の好き」を見つけ、今は楽しい人生です。まぁ、なんとかなるで!

学生新聞オンライン2022年5月18日取材 中央学院大学4年 田根颯人

ディスコーズハイ

日本芸術センター第13回映像グランプリ発掘賞
神戸インディペンデント映画祭2021 奨励賞

その「好き」が才能。
目に見えないものに翻弄される音楽業界だからこそ
音楽がど真ん中にあるべき

7月8日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

キャスト:田中珠里 下京慶子 後藤まりこ
監督・脚本・撮影・編集・楽曲制作・整音:岡本崇

公式サイト: https://plisila.wixsite.com/mysite
Twitter: @raidiochandesu
Facebook: @discordshigh

©2021コココロ制作

慶應義塾大学 3年 伊東美優 / 津田塾大学 卒業 脇山真悠 / 中央学院大学 4年 田根颯人

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