株式会社丸井グループ 上席執行役員、兼、株式会社丸井 代表取締役社長 青野真博

時代のニーズを的確に捉え、新たな顧客価値を共創していく

株式会社丸井グループ 上席執行役員、兼、株式会社丸井 代表取締役社長 青野真博(あおのまさひろ)

■プロフィール
1984年、㈱丸井(現㈱丸井グループ)に入社。レディス事業部長、事業推進部長等を経験後、2011年に㈱丸井取締役に就任。その後、取締役店舗事業本部長、常務取締役 を経て、2019年専務取締役兼丸井グループ上席執行役員、2020年7月より代表取締役社長(現任)、2021年4月丸井グループ上席執行役員 小売事業担当(現任)。

小売・フィンテック・未来投資の「三位一体」で独自のビジネスモデルを確立している丸井グループ。型にはまらない会社のユニークさに魅かれ、入社時からあらゆる業務を担ってきた青野社長が見る、丸井グループの魅力とは何か。とりわけ、近年取り組みを加速させている「売らない店®」の背景や強みについて伺った。

大学時代は、家庭教師やテイクアウトの寿司屋など様々なアルバイトを経験しました。また、坪田尚子さんという小さい劇団員の女優さんが好きで、よくミュージカルを観劇していました。今でいう「推し活」ですね(笑)。
就活時代は、とにかく「面白い会社」を探していました。昔から周りの人を笑わせることが好きなひょうきん者でしてね(笑)。業界を絞らず、会社や事業の「ユニークさ」を軸に説明会などに参加していました。その中で一際面白さを感じたのが、当社丸井のプレゼンでした。仕事の幅の広さにも魅力を感じたため、入社を決めました。入社後は、カードセンターでの集金役や、スーツや浴衣の販売員、商品の仕入れを行うバイヤーなど幅広い業務に携わりました。新入社員の頃から社長のように「自分が丸井なんだ」という気概で仕事をしていましたので、社長となった今もあまりやることは変わりません。

■「信用の共創」が生み出す独自性

当社はコアバリューとして「信用の共創」を掲げています。「信用の共創」とは、創業者の言葉「信用は私たちがお客さまに与えるものではなく、お客さまと共につくるもの」に由来するものです。創業時の商売は家具の月賦販売でした。当時高額だった家具を幅広いお客さまにご購入いただけるよう、当社が購入代金を一時お貸しして、それを月々の分割払いで返済していただくというものです。現金商売のように一期一会で売ったら縁が切れてしまうという関係ではなく、売った後も、10回、12回、24回払いなど、お客さまとお店とのお付き合いが長く続きます。お支払いの遅れがなければ、ご利用可能金額が増え、ご利用期間が長くなるほどお客さまの信用はだんだんと上がっていきます。こうしたお客さまとのかかわりの中で、「信用はお客さまと共につくるもの」という精神が生まれてきました。このように私たちは、一般的なクレジットカードの審査のように、お客さまの年収や職業、資産の有無などに応じて一方的に信用を与えるのではなく、ご利用実績を通じてお客さまと双方向で信用を共に創っていく、つまり「信用の共創」を積み重ねてきたのです。たしかに、貸し倒れリスクもありますが、間口を広げた上で、ライフタイムバリューを上げることで、どこにも負けない価値の高いカードとなるのです。これは、当社ミッションの「すべての人が『しあわせ』を感じられるインクルーシブで豊かな社会を共に創る」を体現していると思います。“しあわせ”の感じ方は人によって異なりますよね。例えば、コロナ禍で不要不急が制限されましたが、自分の好きなものは不要不急ではないはずです。このように、「信用の共創」のもと、一人ひとりの好きを応援することが我々のビジネスの神髄なのです。

■目指すのは、新たな選択肢が揃う店

近年、若い人を中心に、価値観が変化してきているので、シェアする、中古品を使うといった顧客ニーズが増えています。また、IT技術の発展やスマホの普及により販売チャネルもオンライン上のECサイトにシフトしています。このようなニーズやチャネルの変化に対し、当社も店の在り方を革新していく必要に迫られました。
そこで、近年取り組みを加速させているのが、体験の場を提供する「売らない店®」です。購入のためではなく、商品のデザインや色、使用感などを確認するために来店するお客さまに体験の場を提供するのです。これは、テナント側にとっても良い影響があると思います。一般的に、販売員に対して、「売り込む」イメージを持っている方も多いのではないでしょうか。しかし彼らは、純粋にお客さまのお役に立ちたいという貢献志向を持っている方ばかりです。したがって、無理におすすめするのではなく、まずは、商品やサービスの良さを体験していただくという「売らない店®」の発想は、お客さま側が体験の場として活用できるという良さだけでなく、販売員やテナント側も気持ちよくお客さまの役に立つことができることにもつながります。
当社は10年前まで、仕入れて売る百貨店と同じビジネスモデルを取っていました。売上の7割はテナントに払い、3割が百貨店に入る仕組みです。一方、現在の「売らない店®」は、固定家賃をベースに場所を貸しているため、売上は関係なく安定した収入が入る仕組みになっています。どういうことか具体例を挙げて説明します。以前、あるテナントさまから「商品在庫が店頭に無い時、ECサイトですぐに購入できるようにしたい」というニーズを受けました。その条件を承知した上で、出店を承諾すると、そのテナントさまは、こちらの対応にひどく驚かれたのです。詳しくお聞きすると、百貨店はもちろんショッピングセンター、アウトレットからも断られたそうです。それらのお店は店頭で売れたら売れただけ儲かる仕組みであったため、店舗での売上が下がることにつながるネットへの送客は許されなかったのです。その点、当社のビジネスモデルは、店頭での売上の影響が少ない家賃収入が中心のビジネスモデルなので、むしろ「売らない店®」が“強み”と言えると思いますね。既に「売らない店®」として商標登録もしております(笑)。2025年度までには「売らない店®」を完結させ、他にはない新たな選択肢が揃っている店にしたいですね。

■大学生へのメッセージ

時間がある大学生のうちに、自分の好きなことを見つけて個性を追求してください。上司として多くの部下を育てる中で感じるのは、何でもこなすオールラウンダーよりも一点突破型の方が伸びるということです。様々なことにチャレンジして、自分の「好き」をとことん突き詰めてください。それは社会に出たとき必ず役に立ちます。
これは、サステナビリティにも通ずる部分があります。サステナビリティとは持続可能な社会にすること、簡単に言えば社会を良くしていくことです。人は一人では生きられません。支え合いながら生きていくには、社会のため、人のために役立つ必要があります。人の役に立つとは、誰かを笑顔にすることです。そのためにはまず、自分自身がどういうときに笑顔になるかを知ってください。自分が笑顔になることを知っている人は、相手が何に笑顔になるか理解できるようになると思います。

学生新聞オンライン2022年12月23日取材 専修大学3年 竹村結

南山大学1年 田中友萌 / 日本大学3年 和田真帆 / 専修大学3年 竹村結

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