株式会社コーチ・エィ 代表取締役社長 鈴木義幸

経営者との対話で、組織開発を実現する

株式会社コーチ・エィ 代表取締役社長  鈴木義幸(すずきよしゆき)

■プロフィール

200人以上の経営者に対するコーチング実績をもつエグゼクティブ・コーチ。
学生時代から心理学に興味をもち、慶應義塾大学文学部卒業後、広告代理店勤務を経て、ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学専攻修士課程修了。日本のビジネス界にコーチングの概念がなかった1997年にコーチ・エィ(当時はコーチ・トゥエンティワン)の創業に参画。2001年取締役副社長就任。取締役社長就任を経て、2018年1月より現職。

模索を続けた学生時代、衝撃を受けた二度の渡米、コーチングとの出会い。常に自分の心と向き合いながら、自ら道を選んで歩まれてきた鈴木社長。「対話を起こすリーダーを、組織の中に増やしたい」という言葉の真意は何か。コーチングの概念や今後の展望について伺った。

子どもの頃は、いわゆる「勉強ができる子」でした。
中高は静岡県の一貫校に通っていたのですが、成績は1位と2位しか取ったことがありませんでしたし、6年間成績優秀者として表彰もされていました。でも実際は、中学校に入学した最初の中間テストで2位を取ってから、順位を落とせないと必死で勉強していたんです。周囲の目を気にしていたんでしょうね。今思うと、逆にプレッシャーで苦しかったかもしれません。

大学時代は、勉強以外にラグビーと日本舞踊をやっていました。もともとは、つかこうへいさんに憧れて演劇をやりたいと思い、慶応大学の演劇研究会に見学しに行ったのですが、実際に見て、自分には合わないと感じて入会しませんでした。その代わりに演劇の土台になるんじゃないかと日本舞踊を習うことにしたんです。中学時代からやっていたラグビーは同好会で続けました。

大学の勉強で特に力を入れて学んだのが、社会心理学です。「誰かの発したメッセージが、世の中にどういう影響を与えていくのか?」という普及学が、特におもしろかった。1年休学してアメリカへ留学もしました。帰国後は、普及学への関心と、当時華やかだと憧れていた広告代理店を志望し、マッキャンエリクソン博報堂に就職しました。仕事をしていくうちに、1対多数への影響力ではなく、1対1で相手にどう影響していけるのかという方向へ関心が移っていきました。

そこで臨床心理学を学びにアメリカの大学院に進学しました。大学院の修士課程では、テネシー州の女囚刑務所でのインターンを2年間経験しました。刑務所に収監されている女性犯罪者のカウンセリングの仕事です。彼女たちの中には、話している間にバーンッと極端に違う人格を出す人もいました。どんな人でも、場面や相手によっていくつかの人格を持っているものですが、彼らはそれを自分でコントロールできなくなってしまうんですね。そういう人たちとのコミュニケーションを経験して、カウンセラーの難しさを痛感し、それと同時に、それまでに培ったコミュニケーションスキルは活かしたいと思って日本に帰国しました。

そのタイミングで、コーチ・エィのファウンダーである伊藤守から声をかけられコーチングと出会いました。1996年のニューズウィークに、コーチングの記事が掲載されたのですが、記事を読んだ伊藤が、コーチングの先駆者であるトマス・レナード(米国Coach U Inc.創設者)に連絡をと取り、個人の方がコーチングを学ぶためのプログラムを日本で始めたのが1997年の10月です。当初個人の方向けのサービスからスタートしましたが、現在は、企業・組織全体にアプローチするコーチングサービスをメインに展開しています。

コーチングの鍵は“対話“にあり

コーチ・エィではコーチングを「対話を通して、クライアントの目標達成に向けた能力、リソース、可能性を最大化するプロセス」と定義しています。具体的には、クライアントの目標に向けて、定期的なセッションをもって対話することで、クライアントの目標達成に向けた前進をサポートします。8か月~10か月かけて行うもので、実際にはこのセッションの他に、専用のITツールを活用したり、関係する方々へのインタビューやレポートなども行っていて、このプロセス全体をコーチングとしています。

「対話」についてですが、私たちは「対話」と「会話」の定義を明確に分けています。
会話の焦点は「同じ」にあります。例えば、「今日は寒いですね」「寒いですね」というように、共通の話題を見つけ、共感を育むことで信頼関係を作るコミュニケーションです。一方で、対話は「違い」にフォーカスします。双方の違いを顕在化させ、違いをぶつけあうことで、新しくアイディアやものの見方を2人の間に創出していく。それが対話です。コーチングセッションで話すものを、私たちは「対話」だと考えています。

コーチングでは、例えばクライアントに対して「リーダーシップについて対してどのような定義をお持ちですか」と聞いたとします。その時にコーチは、クライアントの反応速度を見ることがあります。「私のリーダーシップの定義はこうです」とパンっと答えが出てくる場合、その方がリーダーシップの定義を明確にはっきりと持っていることがうかがえます。それ自体は悪いことではありませんが、場合によっては長期間固定化している可能性がある。そこで次に、「リーダーシップに対する定義はいつ更新されましたか」と聞いてみます。

環境が日進月歩で変わる中、私たち自身も変わっていかないと変化についていくことができなくなってしまいます。変わるとは、物事の見方や捉え方、考え方を変えてみるということです。リーダーシップに対する見方や定義がもし固定化されてしまっていたら、新しい時代のマネジメントも難しくなるのではないでしょうか。

このような「経営者との対話」が、エグゼクティブ・コーチングです。
私たちが持っている前提や仮説は、育ってきた環境や関わる人たちの影響によって、無意識のうちに形作られていきます。無意識で持っているものなので、自分ではなかなか認識することが難しい。コーチという別の視点があると、自分の思考のパターンや癖に気づくことができるようになります。そうすると、違う選択肢があることに気づき、これまでと違う選択をすることができるのです。仮に同じ選択をするとしても、他にも選択肢があることを考慮したうえで、選ぶことは意味があります。

これは、コーチである私たちも同じです。
ですので、コーチ・エィでは、コーチ自身にもコーチがいます。コーチ自らが、思考が固定化せず柔軟でなければ環境に適応できないという実体験をもっていることが、コーチングをする上ではとても重要です。

イノベーション創出へ、等身大な人材を求む

当社は、「コーチングによる組織開発の支援」をしている会社です。
最終的に、我々のコーチングを受けた方々が、組織の中でたくさんの対話を起こしている状態を実現したい。現在の日本企業では、上下間や部門間で意見をぶつけ合う対話が本当に少ないのではないかと思っています。対話の少なさが日本経済の生産性を落とし、イノベーションの創出を阻む一因になっているといえるかもしれません。その中で、私たちは、コーチングを通して「対話を起こすリーダーを組織の中に増やすこと」を目指しています。自ら対話を起こすリーダーが増え、そこから新たなイノベーションが生まれると考えています。

コーチを採用するときに大事にしているのは、その人が「等身大で話せる人」かどうかということです。以前、非常に頭の切れが良く、どんな質問にも次々と答えられていた候補者の方がいたのですが、残念ながら不採用としました。なぜかというと、その方は、聞いているこちらからすると、事前に用意してきた話や自分の頭のメモリにある情報で対応しているように見えたからです。一方で、一つひとつの質問に対して、決して切れは良くないものの、自分の内側をしっかり見つめながら、自分の言葉で等身大に話されていた方がいて、その方を採用しました。

百戦錬磨の経営者から信頼を得るために最も大事なことは、頭の切れが良いことでも、ペラペラ話せることでもなく、ありのままの等身大でいることです。ただ、この姿勢は、入社後にトレーニングするのはなかなか難しいんですね。ですので、余計な鎧をまとわず等身大で話せる能力を備えている人にぜひ来てほしいと思っています。

大学生へのメッセージ

周りに合わせて自分の進路を決めないでほしいと思っています。
自分がやりたいことを見つけるのは、実はなかなか難しいものです。
大企業に就職するのもいいですが、留学したりベンチャー企業に入ったり、どんどん冒険してほしいです。歳を重ねるごとに、リスクは取りにくくなります。
若いうちに、進んでリスクを取りにいってください。

学生新聞オンライン2023年3月1日取材 専修大学 3年 竹村結

専修大学 3年 竹村結 / 成蹊大学 4 年 岡田美波

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