たばこと塩の博物館

常設展示室「たばこの歴史と文化」展示の一部

日本たばこ産業株式会社(JT)が、かつて専売品であった「たばこ」と「塩」の歴史と文化をテーマに設立した、たばこと塩の博物館。博物館館長の菊池孝徳さんに博物館に対する思いを伺った後、実際に館内を見学させて頂いた。

たばこと塩の博物館
「たばこ」と「塩」の歴史と文化をテーマに、1978年11月に東京渋谷区にオープン。その後、老朽化や常設展示室・収蔵スペースの不足などにより、2015年4月、当時たばこの専売制度と関わりが深かった墨田区に移転した。リニューアル後は、展示スペースが従来の2倍に。たばこと塩の歴史や文化をより詳しく解説する常設展示や、それらに関連した特別展示に加え、図書閲覧室、多目的スペース、さらに約4万点の資料収蔵庫まで充実している。

■たばこと塩の歴史を教えてください。

南アメリカのアンデス山中が起源のたばこは、大航海時代を経て世界中に広まりました。日本に伝わったのは、16世紀後半。南蛮人との交流の中で、鉄砲などの貿易物と共に伝わり、17世紀前半には喫煙文化が浸透しました。仕事の合間やおもてなしのためなど、生活のあらゆる場面で使われていたんです。1904年にたばこの専売制度が始まりましたが、市場開放や行財政改革の動きにより、1985年に専売制度は廃止。現在は、健康志向が高まる中、たばこ業界全体として、たばことの共存に向けた様々な取り組みが行われています。

嗜好品のたばこに対して、塩は生活必需品。しかし、雨が多い日本は塩づくりが苦手なんです。そのため、原始・古代時代から、濃い塩水である「かん水」を採取してそれを煮詰めて塩を得る、独自の製塩技術が発展しました。その後、干満の水位差を利用する「入浜式」と、人力で海水をくみ上げる「揚浜式」という塩浜の形態に発達し、1972年からは、イオン交換膜を利用した電気エネルギーによる方式に全面的に転換されました。身近な塩が、実は苦労して作られているという事実は少し驚きですよね。

■展示のみどころは何ですか。

来館者の方に、実在する遺跡や資料を肌で感じて頂けるように意識した再現性の高さです。例えば、たばこの常設展示の入口には、現存する最古のたばこ資料として、メキシコ・パレンケ遺跡「十字の神殿」のレプリカ(写真)があります。神殿の右側の柱には、「たばこを吸う神」のレリーフが描かれており、大スケールの展示は必見です。その他、江戸時代のたばこ屋に加え、昭和のたばこ屋の店頭も再現しており、当時の風景を思い出すなつかしさも感じて頂けると思います。

また、塩に関する常設展示でも実物が目白押し。世界遺産のポーランド・ヴィエリチカ岩塩坑で信仰されている「聖キンガ像」のレプリカ(写真)は、現地の職人によって、全て現地の岩塩を使用して作られました。彫刻はもちろん、後ろの壁やシャンデリアの飾りまで、全て塩でできているんですよ。また、塩づくりの展示に加え、塩が入ったシャーレを画面にかざすと産地や結晶が見える体験型コーナーもあり、お子さんも楽しめます。これらは、リニューアル後の広い面積だからこそできる、圧巻でユニークな展示だと思います。

■今後の展望を教えてください。

 「たばこ」と「塩」に関わる歴史と文化を取り扱う、世界的にみてもユニークな博物館として多くのお客様にご来館頂き、心から感謝しています。今後とも常にお客様の視点に立って、様々な企画や展示がお客様の関心に寄り添えているか、新たな気づきを引き出せているかを点検しながらよりよいものに改善していきたいと思っています。この繰り返しと地域の皆さまとの良好な関係を維持していくことが、博物館が存在し続ける大切な要素であると考えています。
 健康志向が高まる今、たばこに対する社会の見方が変容していることは理解しています。しかし、たばこや塩が私たちと深く関わってきた歴史も、また事実です。お客様目線になって、この事実をしっかり伝えることで、たばこに対する批判的な見方や塩に関しても、これまでにない視点や気づきを与えられるのではと考えています。多様な考え方や価値観がある中、事実を学んだ上で自分はどのような見方をするのか、判断するきっかけになれば嬉しいです。この思いを博物館テーマの主軸に据えて、その上で、展示内容の質やサービスの向上、行っている取り組みの情報発信などにも力を入れていきたいですね。

■大学生へのメッセージ

一方通行ではなく、お互いに意思疎通ができているコミュニケーションを大事にしてほしいです。相手に関心を持ち、向き合い、相手の反応を見ながら対話をしていくことがスタートライン。これができれば、相手との間で共感が生まれ、本音をぶつけ合えると思います。それを目指して、今自分は何ができていて何ができていないのか、改めて見つめ直してみてください。デジタルも大切ですが、アナログもまだまだ捨てたのものではないかもしれないですね。

 実際に見学してみました!

2F 塩の世界

ポイント① 見て、動かして、学べる!
塩の性質や結晶のつくりなどについて学べるサイエンスコーナー。中でも印象的なのが、電子パネル上に塩の入ったシャーレを置いて、産地や結晶を学ぶ展示。シャーレを回すと画面上のコマンドも連動し、詳しく調べたり、結晶の写真を見たりするボタンを選ぶこともできます。大学生の私たちも夢中になって盛り上がりました。

3F たばこの歴史と文化

ポイント② 世界各国の喫煙具が大集結
各国の文化や風土に合った喫煙具がずらり。細かな装飾やデザインまで注目してしまいます。

ポイント③ たばこ寡占化の始まりに着目
定型品であるたばこ(シガレット)は、機械化がしやすい。効率的に早く生産できるアメリカの機械が日本にも導入されたことで、1分間に150~200本の製造が可能に。しかし、機械化の資本がない小さなたばこ工場は大ダメージを受けます。寡占化が始まるきっかけになったアメリカ産の機械を実物で見ることができ、その事実を実感しました。

 見学した学生の感想

「昔のたばこ屋を再現した展示が印象的でした。大まかな再現だけでなく、働いている人や家の中の細部まで再現されており、当時の雰囲気を自然に感じることができました。見学者の皆さんがより良い体験をするために行われた努力に感銘を受けました。」慶應義塾大学大学院2年 賀彦嘉

「たばこと塩の歴史を展示するだけでなく、国の歴史や文化なども学べる場所でした。たばこと塩に関する事前知識がなくても面白かったので、皆さんもぜひ訪れてみてください!」武蔵野大学4年 西山流生

 次回の特別展は…

「時代とあゆむ袋物商 たばこ入れからハンドバッグまで」をテーマに、2024年4月27日~6月30日まで開催される。詳しくは、こちらをチェック!

学生新聞オンライン2024年3月13日取材 上智大学2年 吉川みなみ(執筆・構成)

武蔵野大学4年 西山流生 / 上智大学2年 吉川みなみ / 慶應義塾大学大学院2年 賀彦嘉

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