シャボン玉石けん株式会社 代表 森田隼人

父の思いを受け継ぎ、無添加石けんで人々の健康と環境を守る

シャボン玉石けん株式会社 代表 森田隼人(もりたはやと)

■プロフィール
1976年、福岡県生まれ。2000年3月専修大学経営学部経営学科卒。同年4月にシャボン玉石けんへ入社。関東エリアの卸店、百貨店、スーパー、ドラッグストアチェーンなどへの営業に携わる。その後、取締役副社長などを経て、2007年より現職。無添加石けんを通じた現在の環境問題を広く社会に伝えるため、講演活動も積極的に行っている。

「健康な体ときれいな水を守る。」を企業理念に、人にも自然にもやさしい無添加石けんにこだわった商品を展開するシャボン玉石けん株式会社。17年間の赤字を乗り越え、父の事業への思いを受け継ぐ森田隼人社長に、これまでのキャリアや無添加石けんの魅力についてお話を伺った。

■父の事業に対する見方の変化
幼少期の頃から、何となく家業を継ぐのだろうという意識はありましたが、小学生の頃は父がシャボン玉石けんの社長であるということに幾分の気恥ずかしさを感じていました。「お父さんはどんな仕事をしているの?」と聞かれて、「シャボン玉石けん」と答える度にポカンとされるくらい、当時は地元でもほとんど知られていなかったのです。もちろん実家では当社の白い石けんを使っていたので、友人のお宅にお邪魔した時、戦隊モノなどのキャラクターがデザインされた石けんやカラフルな石けんを見て、うちは変わった石けん会社なのだという認識をもっていましたね。ですが、私が中学生の頃、父が「自然流『せっけん』読本」という本を出版したことをきっかけに、翌年から会社は黒字となりました。当時、本の執筆も自宅でしていて、原稿がたくさん置いてあったので、裏紙として勉強用に使用していたのです。勉強の途中で原稿を読み、父の会社は環境に優しい商品を作っているのだと気づき、父の事業に対する見方が変化した時期となりました。

■シャボン玉石けんをより身近に感じた大学時代
大学時代はあまり模範的な学生ではなく、よくお酒を飲んで過ごしていました。今思えばどうしたものかと思うのですが、私は4年間アルバイトを経験しませんでした。将来は70歳を超えても家業を継いで働いているだろうと思っていたので、大学生のうちは働かないと決めていたんです。ただ、大学時代から当社の株主だったので、小冊子や会報誌などの自社の発行物を目にするようになったり、東京の大学に進学して一人暮らしを始めて家事をするようになり、当社の石けんを使ったりするなど、シャボン玉石けんの事業をより身近に感じるようになりました。昔はほとんど知られていなかった会社の商品が店頭に並べられていたり、東京のテレビCMで流れたりしているのを見ると、感慨深いものがありましたね。

■父の思いを受け継ぐ
大学卒業後は、そのままシャボン玉石けんに入社しました。母は何年か他で働くことを提案してくれましたが、父の年齢を考慮し、卒業後すぐの入社を決意したのです。私は父が45歳の時の子供なので、早く事業に携わろうという気持ちで、父の背中を見ながら一緒に事業を進めようと思っていました。初めは工場に入って実際に商品作り、その後各部署を一通り経験したのち、経理や営業職に携わりました。私は入社2年目にして取締役、そして翌年には取締役副社長に任命されたのですが、流石に自分には早すぎると思い、父に相談しました。父から返ってきた言葉は、「いいからやれ」。父は「役職が人を育てる」という信念をもっていて、若くても責任ある役を経験しておくことが成長につながると考えていたんです。そして、私が30歳のときに社長に就任することになり、社長就任半年後に父が他界しました。お客様の期待を裏切らないよう良い商品をお届けし続ける、従業員やその家族の生活を守る、という使命感や重圧が一気にのしかかってきましたね。父は無添加石けんの素晴らしさを伝えるために、年間100回もの講演をしたり、取引先様や一般の方の工場見学を広く受け入れたりするなど、本当に地道な活動を続けていました。「シャボン玉石けん」というキャッチーなネーミングや、キャラクターの登場、赤字の中でもCMを続けるなど、現代でいうブランド展開も行うなど、カリスマ的な経営者でした。私の場合は、一人で全部やるというよりも社員一人ひとりが活躍できる環境づくりを行い、社員と一緒に企業理念の実現を目指して取り組んできました。

■こだわりぬいた無添加石けん
 他社では4~5時間ほどで作る石けんを、当社では1週間かけて作っています。「健康な体ときれいな水を守る。」という企業理念にあるように、肌にやさしく、環境にもやさしい商品づくりにこだわっています。これは当時、父自身が湿疹に悩んでいたことが関係しています。1960年代、高度経済成長期で洗濯機などの家電が多く誕生しましたが、アメリカから入ってきた合成洗剤が急速に普及しました。父もいち早く合成洗剤を取り扱うようになり、業績も順調でしたが、同じ頃から原因不明の湿疹に悩むようになったんです。薬でもなかなか治らなかったのですが、得意先から依頼があって開発した無添加石けんを使ったところ、みるみるうちに湿疹が治りました。父は経営のことを考えて悩んだ末、1974年に「体に悪いと分かった商品を売るわけにはいかない」と一大決心し、無添加石けんのみの製造・販売に切り替えました。無添加石けんに切り替えてからは、売上が1%以下になり、17年間もの赤字が続きましたが、とにかく無添加石けんの魅力を信じて、石けんの良さを広げる取り組みを続けたんです。父の地道な努力もあって、今では多くの人に手に取ってもらえるようになりましたが、そこには長年の苦労がありましたね。

■無添加石けんの可能性に挑戦
現在、一般消費財としての無添加石けんの販売のみならず、新たな事業も進めています。それが、石けんの技術を応用した消火剤の開発です。水に石けん系消火剤を混ぜることで、少ない水で効率よく消火できるだけでなく、環境にやさしいという特徴があります。これは1997年の阪神淡路大震災の火災で多くの人が亡くなったという事例から、少ない水でより迅速な消火活動を目指して北九州市消防局や北九州市立大学と共に産学官連携で開発しました。その他にも、JICAに協力いただきインドネシアの森林・泥炭火災用消火剤の普及にも取り組んでいます。インドネシアでは化石燃料になる前段階のものが土の中で発火することがあるのですが、これらの火災に対して石けん系消火剤の活用・普及を目指しています。
今後も、人々の健康や地球環境を守り、社会に貢献できるよう尽力していきたいです。

■大学生へのメッセージ
 大学生の皆さんには、大学生のうちにしかできないことをたくさん経験してほしいと思っています。勉強だけでなく、思う存分遊ぶことも大切です。貴重な大学生活ですので、後悔のないよう過ごしてほしいですね。私の座右の銘は「好信楽」という言葉です。これは、「好きなことを信じ、楽しむ」という意味。もともとは父の座右の銘で、本居宣長の古事記伝に載っています。まずは物事に対する、好きという感情があることが大切です。何事も楽しんでこそ長続きします。皆さんも自分の好きなことを見つけて、大切にしてほしいです。

学生新聞オンライン取材2023年5月15日 上智大学2年 白坂日葵

明治大学大学院1年 酒井躍 / 慶應義塾大学4年 伊東美優 / 東洋大学4年 濱穂乃香 / 武蔵野大学4年 西山流生 / 日本大学4年 和田真帆 / 成城大学 3年 小笠原萌

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