映画監督 亀井岳

学生時代のうちに、「一生追いかけられるもの」を見つけてほしい

映画監督 亀井岳(かめい たけし)

■プロフィール
1969年9月3日生まれ。大阪府出身。
大阪芸術大学美術学科卒業、金沢美術工芸大学院修了。2001年、造形から映像制作へと転身。旅と音楽をテーマに、ドキュメンタリーとドラマを融合させるスタイルで映画を監督。監督デビュー作はモンゴルの喉歌をテーマにした「チャンドマニ~モンゴル ホーミーの源流へ~」(09)。マダガスカルの人々の営みと音楽を主題にした2作目「ギターマダガスカル」(14)は、2016年にマダガスカルの首都アンタナナリヴでも上映された。本作は、監督3作目となる。

8月3日公開の映画『ヴァタ~箱あるいは体~』。同作の監督と脚本を務めた亀井岳さんは、「今作は人と人の関わりの映画」であり、作中では「人と亡くなった人との関わり」が描かれているという。そんな亀井さんに映画を作り始めたきっかけから今作への思いや見どころについてお話を伺った。

■作品の記録から始まった映像制作

元々、金沢美術工芸大学在学中は、彫刻をずっと勉強していました。ただ在学当時は自分が納得できる作品は、まったく作り上げられていませんでした。大学院を卒業した後、能登半島の中学校の美術の先生として働き始め、空間自体を造形するインスタレーションと呼ばれる作品を学校の柔道場に制作しました。その作品は一時的な展示だったので、記録する必要があり、自分のビデオカメラで制作過程を撮影し5分ぐらいの映像に編集しました。
その時「この感じで作品を作っていけるかな」と感じ、アートワークとしての映像作品を作り始めました。納得のいく作品を作れることもあったものの、美術館やギャラリーのように立ったまま途中から見たり、途中で見るのをやめたりするのでは無く、「もっとちゃんと見てほしい」と思うようになりました。映画館なら最初から最後まで座って見るので、映画ならちゃんと見てもらえるだろうという変な動機から映画を作ろうと考えました(笑)。

■映画を作る中での苦悩と楽しさ

僕は今まで手掛けた3本の映画すべてを海外で作ってきたので、日本ほど整ってない過酷な現場で撮影を続けてきました。体調を崩しても自分で何とかしなくてはいけないですし、現地の人とコミュニケーションをとるのに何人もの人を挟まなければならないこともありました。一番きつかったのは、マダガスカルでの撮影中です。ダニに体中噛まれたものの、現地では痒み止めなども手に入らず、痒くて眠れない夜が続きました。今思い出しても、大変だったなぁと思いますね。映画を作るのは楽しいこともしんどいこともたくさんあります。楽しいだけで出来上がるほど甘くはないですが、基本的に好きなことをやっているので全部「楽しい」とくくれるのは幸せですね。

■前作があったからこその今作

学生時代からマダガスカルの音楽が好きで、前作『ギターマダガスカル』を作ろうと思いました。マダガスカルの音楽自体がその土地の儀礼や考え方と結び付いていることは分かっていたのですが、現地で撮影をする中で「マダガスカルの音楽自体は祖先との交流のためにある」というさらなる深みがあることに気づかされました。それは『ギターマダガスカル』のテーマではなかったので、また時間を変えて取り組む機会があったらいいなと思っていた想いが、今作につながっていると思います。
そして、『ヴァタ~箱あるいは体~』を制作するきっかけになったのは、前作の撮影中に今作のテーマでもある「箱」を運んでいる人と遭遇したことです。前作と今作は一連の流れの中にはありますが、前作はドキュメンタリーとドラマを融合した作品だったのに対し、今作はファンタジー要素のあるフィクションなので、作り方などは少し違っています。

■撮影中の印象的なエピソード

撮影で山の中に入って、祖先の役の方と二人きりになった時、僕は見通しをよくするため鉈で木を払っていたんです。そうしたら、殺されると思ったのか、祖先役の方がそのまま逃げていなくなってしまいました。その方を探すのに丸一日かけて、結局見つからず、キャスティングし直すことになりなした。その場にマダガスカルの方がいればよかったのですが、言語が喋れなかったし、申し訳なかったなと思います。
楽しかったエピソードで言うと、彼らは本当に音楽が好きで、雨で撮影ができない時もみんな演奏して楽しんでいましたね。映画にも演奏をしているシーンがあるのですが、その時の演奏は映画以上に楽しかった。音楽というと演奏する側と聴く側と分けて考えがちですよね。でも、彼らは演奏している人もしてない人も、聴いているだけの人もその場でダンスしている人も、みんなで空間を共有している状態が音楽なんです。そんな混然一体となる感じはやはり素晴らしいですね。それを、映画で表現したかったんです。

■作品を通じて「一番大事なのかは何か」をつかみとってほしい

この映画には「人と人との関わり、人と亡くなった人との関わり」が描かれています。亡くなった人は実際は見えませんが、この映画では出てきます。私たちはインターネットなど見えないものに縛られる時代に生きています。このように、見えないものは、昔も今も自分たちの生活に深く関わりがあるわけです。ただ、そのなかで一番大事なことは何かを感じてほしい。特に学生さんに、その感想を聞きたいですね。
この映画はマダガスカルの音楽と死生観を描いています。遠い国の話ですが、全く異質で遠いものではなく、我々にとって身近な映画になっているところが見どころだと思います。私達日本人には祖先の概念があります。だからマダガスカルと生活は全く違うけど、同じように亡くなった人が祖先になって、その祖先に会えたら良いなと思う気持ちがあって、その想いを音楽が現実化させるという流れは、日本に住む私達にも想像しやすいのではないかと思います。

■学生へのメッセージ

僕がいまやっていることの大半は、自分が大学生の時に出会ったことや向き合ってきたことだと感じます。その時の経験がすべてで、それが何だったのかをひも解くために創作活動しているようなところがあります。だから、学生さんにとっていまは非常に大事な時です。自分の本当に求めているものを見つけて欲しいです。いま、求めているものを見つける方法はいくらでもあります。これから先、見つけたナニカを一生追っていくのだと思います。

学生新聞オンライン2024年7月1日取材 東洋大学2年 越山凛乃

映画『ヴァタ~箱あるいは体~

出演:フィ、ラドゥ、アルバン、オンジェニ、レマニンジ、サミー
監督・脚本・編集:亀井岳
撮影:小野里昌哉 音楽:高橋琢哉
録音:ライヨ トキ
製作:亀井岳 櫻井文 スアスア
配給:FLYING IMAGE
2022/日本、マダガスカル/85分/カラー/アメリカン・ビスタ/ステレオ
© FLYING IMAGE

8月3日(土)より渋谷ユーロスペース、8月24日(土)より大阪・第七藝術劇場ほか、全国順次公開

公式サイト:vata-movie.com
公式X: https://www.twitter.com/vatamovie
公式Facebook: https://www.facebook.com/VataMadagascar
公式Instagram:https://www.instagram.com/vata_movie

★劇場公開記念イベント★大阪・東京開催!

【大阪】前作『ギターマダガスカル』上映&トーク

日時:7月28日(日)16時オープン 17時上映
料金:¥1,000円(1ドリンク込み)
上映:『ギターマダガスカル』(2014)
トーク:亀井岳(監督)×吉本秀純(音楽ライター)
場所:シェ・ドゥーブル
大阪府大阪市西区阿波座1丁目9−12
https://chef-doeuvre.jp/

【東京】ミュージシャン来日ライブ&トーク

日時:7月31日(水)19時オープン 20時開演
料金:¥1,000円+投げ銭
演奏:ジュスタン・バリ(マダガスカル)&マルク・シュミリエ(フランス)
DJ:AMA UU
トーク:亀井岳(監督)
場所:ワールドキッチン バオバブ
東京都武蔵野市吉祥寺南町2-4-6 B1F
TEL:0422-76-2430
https://wk-baobab.com/

東洋大学2年 越山凛乃/京都芸術大学1年 猪本玲菜

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