リノベる株式会社 代表取締役社長 山下智弘
人生の「点」を結ぶことで、未来を築く。
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リノベる株式会社 代表取締役社長 山下智弘 (やました ともひろ)
■プロフィール
近畿大学卒業後、社会人ラグビーを経てゼネコンに入社。2010年リノベる株式会社設立。ミッション「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」のもと、既存ストックの中古流通・利活用を推進するリノベーションプラットフォームを構築。国内No.1のワンストップ・リノベーション事業者に急成長させた。CRE活用を支援する都市創造事業や省エネ性能向上も積極的に展開。
学生時代に没頭したラグビーの経験や、ゼネコン時代のおばあちゃんとの出会い。それらの経験を経て、現在はリノベーション事業で世界へ挑む山下社長。その挑戦とビジョンとは。挫折を糧にし、夢を現実に変えてきたその歩みから、未来を築くヒントが見えてくる 。
僕の大学時代は、ほとんどラグビー漬けでした。高校でラグビーに出会ってから夢中になり、進学する大学も「ラグビーができるかどうか」で決めたくらいです。ただ、うちの家は裕福ではなく、新聞社で夜通し働くアルバイトもしていました。朝日新聞の編集補助をやっていて、4年間で約300日は新聞社にいましたね。学費や生活費を稼ぐためだったんですが、ラグビーとアルバイトで大学生活があっという間に過ぎていきました。
■「おばあちゃん事件」とリノベーションとの出会い
卒業後は、ラグビーを続けられる企業に入社しました。実業団での採用だったので、ラグビーが半分、仕事が半分という特殊な環境です。でも、1年目の夏、合宿で「もう自分の体では限界だ」と気づいたんです。その壁を感じて絶望の淵に立たされました。ラグビーも会社も辞めるしかない。そこからはお世話になった恩を返して辞めようと決意し、「同期110人の中で圧倒的な営業成績を出すこと」を退職の条件にがむしゃらに働き、1位を達成したところで会社も卒業させてもらうことにしました。
次に進んだのは建設業界、いわゆるゼネコンです。先輩の紹介で施工現場の仕事を始めたのがきっかけでした。ものづくりが意外と楽しくて、やりがいを感じたんです。「自分にはラグビー以外にもできることがある」と気づけたのは大きかったですね。その後、正社員となり、団地再開発プロジェクトなどに関わるようになりました。
ゼネコン時代の忘れられない出来事があります。それは、団地再開発プロジェクトでの「おばあちゃん事件」です。その団地は100戸以上の住居がありましたが、ほぼ全員が転居してくれた中で、1人のおばあちゃんだけがどうしても退去しない。僕はそのおばあちゃんを説得する担当になりました。まずは仲良くなろうと、毎朝、おばあちゃんを接骨院に送り迎えし、一緒に買い物に行く。そんな生活を1か月以上続けたある日、ようやくおばあちゃんの家に入ることを許されました。そこで、お孫さんの写真を見つけたんです。おばあちゃんは、「疎遠になってしまった孫に会いたい、孫のためにこの家を残しておきたい」と話してくれました。それなら新しい家にお孫さんの部屋を作りませんか、新しい家なら帰ってきてくれるんじゃないですか、と提案したところ、なんと立ち退きを納得してくれたんです。
新しいマンションが完成し、喜んでくれるかなと会いに行った引っ越し当日、おばあちゃんは僕に掴みかかってきて「私の人生を返せ」と泣き叫んだんです。周りが喜ぶ新しいマンションが、彼女には「過去を奪われた場所」にしか見えなかった。ショックでした。どう返事してどう会社に帰ったかも覚えていません。
団地再開発プロジェクトが落ち着き、3ヶ月の長期休暇を認められた僕は、海外をまわってみることにしました。ニュージーランドやヨーロッパのラグビー仲間を訪ねて回ったんですが、そこで気づいたのは「海外では古い建物を壊さない」という文化でした。衝撃的でした。それに比べて日本では新築至上主義。これが「リノベーション」との出会いだったんです。
■リノベるが目指す「かしこく素敵な暮らし」
帰国後、僕はリノベーションという概念を広めるために会社を立ち上げました。それがリノベるの始まりです。リノベるは、古い建物を「新しい価値に生まれ変わらせる」リノベーションのプラットフォームを提供しています。個人のお客さまには、お客さまご自身が自分でも気づいていない「こんな暮らしをしたい」という心の奥底にある本当の想いを引き出すところから始め、不動産や金融機関、設計・施工パートナーなどをマッチングします。法人向けには築古ビルの利活用をサポートし、個人・法人・産業の課題を価値にしながら、社会全体に貢献することを目指しています。
社員は全員、「愛され感、頼られ感、おしゃれ感(機転が利くこと)」の3つの要素を持つ人たちです。お客さまや職人さんたちとの関係性を大事にし、ただのビジネスではなく、信頼と感動を生み出すことを意識しています。そして、「日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。」というミッションを掲げ、暮らしを提供しています。
■日本から世界へ、そして大学生へのメッセージ
これからの10年、僕は欧州から始まったリノベーションに、ジャパニーズクオリティをのせて世界に広げたいと考えています。日本の建築の施工精度、収まりの美しさは世界に誇れるものです。それを「ジャパニーズクオリティ」として海外に展開していく。これが次の挑戦です。成長と革新を楽しんで、これに一緒に挑戦してみたいという学生さんがいたら、ぜひ応募いただきたいです。
最後に、大学生の皆さんに伝えたいのは、「今ある時間の価値に気づいてほしい」ということです。学生時代は、時間的にも頭の中にも余裕があります。その余白を使って、たくさんの「点」を集めてください。そして、その点を「糸」に結びつけ、自分だけのストーリーを紡いでほしいんです。それはアルバイトでも、旅でも、何でもいい。新しいことに飛び込む勇気を持って、自分を広げていってください。
僕が大学時代に戻れるなら、もっと多くのことに挑戦したかったと思います。皆さんはもっといろんなことを吸収してたくさんアウトプットしてください 。
学生新聞オンライン2024年11月21日 東京大学4年 吉田昂史
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