三菱UFJ信託銀行株式会社 取締役社長 窪田博
現場の答えを形に。信託業務で社会課題に挑む。

三菱UFJ信託銀行株式会社 取締役社長 窪田博(くぼたひろし)
■プロフィール
1992年に三菱信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)入社。上野支店での法人営業からスタートし、大蔵省出向、ロンドン支店での市場運用業務等を経て、経営企画と大企業法人営業を交互に経験。持株会社三菱UFJフィナンシャル・グループ財務企画部長、三菱UFJ銀行および三菱UFJ信託銀行の営業本部常務執行役員等を経て、2025年4月より現職。
顧客の資産を預かり、管理・運用しながら、資産承継や企業年金、不動産仲介・管理、証券代行などの信託業務を通じて、社会的課題の解決に貢献する役割を担う信託銀行。信託業界において、そのリーディングカンパニーとして成長を続ける三菱UFJ信託銀行の社長・窪田博さんに、大切にしている考え方や強みについて伺った。
学生時代は、部活動に最も力を入れていました。東大の体育会ラクロス部に所属し、毎日練習に明け暮れていました。また、他大学の仲間たちとアメリカ遠征も経験し、日本での競技の普及活動にも努めました。
3年生からは、将来を見据えて、公認会計士の資格を目指すことを決意。家庭教師のアルバイトもやりながらの資格勉強は大変でしたが、今振り返れば非常に充実した時間だったと思います。
就職活動では、財務の知識を活かした運用を行いたいという思いから、生命保険や金融業界を中心に検討していました。当時はバブル期で学生の売り手市場。企業からのアプローチに応える形が多い中、唯一、自分から電話をかけたのが、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)でした。1兆円規模の運用に携われる規模感や若手の挑戦を尊重する風土に惹かれ、当社への入社を決意しました。
■多彩なキャリアでの経験
入社後は、現場と経営企画部を行き来しながら、幅広い経験を積んできました。特に印象深いのは、初の海外勤務であるロンドン支店時代です。念願だった運用の現場に携わることができたのは、大きなやりがいにつながりました。
ロンドンから日本へ帰国した際は、三菱信託銀行とUFJ信託銀行との統合のため統合企画室に配属になりました。通常は2か月の帰国準備期間が設けられるのですが、私は家族と共に実質わずか2週間で帰国し、そのままUFJ信託銀行との統合に向けて奔走することになりました。統合までの1年間は、毎日深夜まで働き続け、タクシーでの帰宅が日常となるほど多忙でしたが、やり遂げた時の達成感は格別でした。
他にも、大変だった経験があります。1つは、法人営業の課長として東京電力を担当していた時に、東日本大震災が発生しました。原発のメルトダウンという未曽有の事態に直面し、銀行としての再建支援という役割に加え、社会的課題にも向き合わなくてはならないという非常に困難な局面を経験しました。
もう1つは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)内で貸出業務を三菱UFJ銀行に移管し、三菱UFJ信託銀行は信託業務に特化することが決まったときのことです。経営企画部にて私自身がこの再編を進めなければならない立場だったため、まず、これまでファイナンス業務に携わってきた多くのメンバーへ説明を行う必要がありました。熱い想いを持ってこれまで仕事に取り組んできた仲間に対し、この再編を伝えることは本当に辛かったですが、最後は納得して一緒に短期間でこのプロジェクトを成し遂げることができた際は、このような仲間に感謝すると共に一緒に仕事ができたことを誇りに思いました。現在では「あの時の再編で信託業務に経営資源を集中することができ、信託業務でのグローバル展開などそこから得られた大きな強みがある」という認識が会社全体で共有できていると思います。
経営企画部に在籍していた頃の経験は、現在も活かせる部分が非常に多いです。当時は、「自分が社長だったらどうするか?」という視点で考えなければならない場面も多く、そのようなトレーニングは今の自分の土台を築いてくれたと思います。
■本質を見失わないために、大切にしてきたこと
キャリアを通じて、大切にしてきた考え方がいくつかあります。1つは、「自分が常に正しいとは限らない」という姿勢です。だからこそ、今の立場でもまずは相手の話にしっかりと耳を傾けること、普段から積極的にコミュニケーションをとることを心がけています。
トラブルが起きた際も、感情的になるのではなくまず相手の話をよく聞きます。そして、「これは誰のためなのか?」と問いかけることを意識し、「お客さまのため」「会社全体のため」という視点に戻ると本質的な解決に近づくケースが多く、結果的に物事はうまく進みます。
一方で、信念を持った意見は、きちんと主張しようと意識してきました。私自身、たとえ相手が上司であっても、「お言葉ですが」という前置きを添えて、自分の意見を諦めずに主張していました。だからこそ、社長の立場になっても、現場の声を拾い上げたいと思っていますし、社員にも積極的に主張してほしいと考えています。常に意識しているのは「答えはお客さまやマーケットという現場の近くにある」ということ。そこから得た答えを形にしていくのが、経営者である自分の役割だと考えています。
■三菱UFJ信託銀行ならではの強み
三菱UFJ信託銀行の最大の特色は、国内最大級の信託銀行であると共に、信託銀行では最多の海外拠点を持ち、グローバルに事業を大きく展開している点です。お客さまのグローバル化するニーズに応えるべく、積極的に海外展開を進め、その粗利益は全体の約45%を占めるまでに成長しています。
また、国内の貸出業務はMUFGの三菱UFJ銀行に任せ、純粋に信託銀行でしかできない信託業務に専念できる点も大きな特徴です。信託は、日本の未来にとっても不可欠な機能です。資産承継、企業年金、不動産の管理・運用など、人生やビジネスのさまざまな局面で、「人に代わって信頼され、託される」重要な役割を担っています。しかしながら、信託業務はお客さまやプロジェクトごとにアレンジが必要で手間がかかる上に収益が出るまでに時間がかかり、後回しにされがちです。そうした中でも、私たちは信託に特化した銀行として、その社会的役割を果たすべく、常に先進性と専門性を発揮し挑戦を続けています。
さらに、当社は長年にわたり信託業界を引っ張ってきていると自負しており、革新的な取り組みにも積極的です。たとえば、ブロックチェーン技術と信託機能を掛け合わせたスキームを導入して、100億円規模の不動産を1万円単位で小口化し流通させる仕組みを構築し、新しいマーケットを開拓しました。こうした制度設計やデジタル領域にまで関与できる点も、三菱UFJ信託銀行ならではの魅力です。
加えて、少数精鋭の体制の中で、若手のうちから多様な経験が積める環境が整っていることも、当社の大きな強みだと感じています。
■大学生へのメッセージ
信託業務は、時代とともに社会課題が変化するなかで、常に新しい挑戦が求められる分野です。だからこそ、私たちは自分を磨き続ける学生、そして自由に自分の意見を主張できる学生の方にぜひ仲間になっていただきたいと思っています。
私たちは、「日本でどの領域でもダントツ一番の信託銀行になる」ことを目指しています。成長し続ける会社でなければ、社員も「この会社で働いていてよかった」と思えません。だからこそ、社員一人ひとりが誇りを持って挑戦し続けることができる場を整えたいと考えています。
大学生は人生の中でもっとも自由に時間を使える時です。今だからこそ、心から打ち込めることを見つけて、思い切ってチャレンジしてみてください。余談ですが、私はよく、休日にジョギングをしています。身体を動かしていると、ふとアイディアが浮かぶこともありますし、頭を空っぽにできる時間はとても貴重です。きっと、みなさんにとっても「無になれる時間」は、何かを考えるうえで大きなヒントになると思います。
学生新聞オンライン2025年6月10日取材 上智大学4年 池濱百花

情報経営イノベーション専門職大学1年 襟川歩希/上智大学4年 池濱百花/法政大学1年 渡辺碧羽
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