秩父短編文学賞 授賞式・梅津瑞樹氏朗読会

秩父文学祭実行委員会は、秩父文学祭(6月7日~29日)において、6月22日に『秩父短編文学賞 授賞式』を開催しました。本文学祭は、秩父市、西武鉄道株式会社、株式会社西武不動産、そして日本大学芸術学部が共同で開催するイベントとして「何度も秩父に訪れていただきたい」という思いのもと、秩父に新たな魅力を創出するべく、秩父のレトロな街並みと四季を堪能できる自然や景色など、魅力的な観光資源と「文学」という文化的要素を掛け合わせた地域と文学が融合した新しい形の祭典です。
『秩父短編文学賞 授賞式』は西武鉄道の特急ラビューで池袋駅から西武秩父駅まで最速77分という運行時間にちなみ、「77分で読める短編小説」をテーマに作品を募集し、430編の応募がありました。
授賞式では、お客さまや関係者など約400人が見守る中、審査員長の林 真理子氏をはじめ、梅津 瑞樹氏、額賀 澪氏、市川真意氏ら審査員による最終審査により決定した、大賞1名、審査員特別賞3名の計4名の方が表彰されました。また、表彰後には梅津 瑞樹氏による秩父短編文学賞大賞受賞作品の朗読会が開催されました。その他にも前夜祭として行われた秩父古民家再生事業の一環として開発された宿泊施設「NIPPONIA 秩父 門前町」でのトークイベントや、会場となった秩父宮記念市民会館の周辺において、秩父グルメフェスタなどさまざまなイベントも開催されました。

■秩父文学祭実行委員会会長 秩父市長 清野和彦 挨拶
秩父市は観光文化都市として、豊かな自然、歴史と伝統文化を感じる街並みがあり、近年では、アニメやお酒での町おこしなどの取り組みを日々進めております。
秩父短編文学賞では、令和の文豪を発掘することを目標に、”文学”という今までにないコンテンツから新たな交流を生み、この秩父文学祭から秩父市が更に魅力あるまちへと発展していくことを期待しております。

■株式会社西武不動産 代表取締役社長 齊藤朝秀 挨拶
西武鉄道池袋線・秩父線の終着点である秩父で、秩父市様からもご協力をいただき、古民家再編事業の一環として古民家宿泊施設「NIPPONIA 秩父 門前町」を運営しております。この素敵なエリアで何かできないかと、日本大学芸術学部の皆さんと意見交換をしたところ、今回のイベントに繋がるご提案をいただきました。秩父市様にも非常に前向きにお力添えをいただき、本日を迎えることができましたことを感謝申し上げます。
このイベントをきっかけに、今後さらに、秩父の魅力や文学というものが良い形で、様々な人に浸透していくことを願っております。

■審査委員長 林真理子 総評
このような素晴らしい機会を設けてくださった皆様に心より感謝するとともに、母校である芸術学部文芸学科がこの催しに参加できたことを日本大学の理事長として大変嬉しく思います。
今回選考させていただくにあたり、短編小説というのは起承転結と、淡々と、という兼ね合いが難しく、作家の力量が試されるものだと思っておりましたが、非常にレベルが高く、驚きました。作品のどれもがバラエティに富んでおり、非常に尖った作品があったかと思うと、じんわりと暖かくなるような小説もありました。
この秩父短編文学賞において、1回目から素晴らしい作品が出たことをとても嬉しく思っています。皆様、本当におめでとうございました。

■第1回 秩父短編文学賞 大賞 『風船人間』伊藤日々 大賞受賞コメント

「風船頭の人間」そんなイメージが浮かんできたのは、この文学賞の締め切りの2週間前でございました。このイメージが浮かんでからは、これを形にしたいという強い衝動が収まらず、書き始めました。
自身の枠組みについて、人との枠組みについて、もっと自由であれたらいいなというふうに思いながら書きました。
これまで小説というものを書いたことがなかったのですが、風船頭の話を書きたい、形にしたいというような衝動をそのままに生かすことができたのは、この文学祭と文学賞が背中を押してくれたからだと思っております。
真っさらな状態の、この文学祭の文学賞に、お名前を記していただけたこと、身に余る光栄でございます。どうもありがとうございます。

■審査委員/朗読会 俳優 梅津瑞樹 単独インタビュー

◇良い文学について
何でも”最初のつかみが肝心”と言ったりしますが、受賞した作品の多くが、最初の数行でもっと読みたいと思わせる”吸引力”があったと思います。
そして今回審査委員をやってみて、タイトルも大事だと思いました。
僕が今回審査員特別賞に推させていただいた、えきすときおさんの『破壊姉と復活妹』はまさにその権化のような作品だと思いました。

◇朗読と舞台演劇の違い
朗読は、小説を原文のまま読むことが多いので、普段僕がやっている、セリフだけを言う演劇と違って、俯瞰で自分を見ているというところを更に表現できるものだと思います。

◇学生へのメッセージ
この文学祭は、日本大学芸術学部の4年生の学生さんと一緒に運営していました。彼らと話をしているとき、とてもキラキラしていて、未来には楽しいことしか待っていないんだよと学生を終えた身としては思うのですが、当人たちとしては、一寸先は闇と思ってしまっている人もいると思います。
信念さえあれば、何事も失敗しても成功しても、どう転んでもいいと思える人生が先に待っていると思うので、そこは自分を信じて頑張ってほしいです。

■取材の感想
◇授賞式について
文字を通して表現をする方々が紡ぐ言葉の素晴らしさを改めて感じた一日でした。
特に、林さん、市川さんの審査員特別賞をダブル受賞した「束の間の呼吸」の著者、三枝美穏子さんの受賞コメントの「今までやってきたことは間違ってなかったんだ。書き続けていいんだ。と背中を押してもらえたような、そんな気持ちになりました。」という言葉が私の中で響き、目頭が熱くなりました。
どのようなことでも、どのような状況になっても、何歳になっても、好きなことを一所懸命に続ける姿は美しいと感じました。
受賞された皆様のこれからのご活躍を祈念すると共に、この素晴らしい文学祭が末永く続くよう祈っています。

◇朗読会について
大賞に選ばれた作品が朗読される珍しさはもちろんですが、作家・俳優としてもご活躍されている梅津さんが審査員としてこの作品に関わってきたからこそ、その世界を深く理解しながら朗読をされていたように思います。
女性と男性の演じ分けも素晴らしかったことに加えて、淡々とした語り口調から日常が過ぎ行く中、自分だけが取り残されているような感覚が強く伝わってきました。その落ち着いた導入があったからこそ、後半にかけての感情の変化、状況の変化がより際立ち、惹き込まれていきました。
風船が揺れる描写と連動した舞台演出、風船に当たるスポットライトなどが、『風船人間』という話の世界観をさらに引き立てていたように思いました。もう一度見たい!もう一度聴きたい!と思わずにはいられませんでした。

学生新聞オンライン2025年6月22日取材 城西国際大学2年 渡部優理絵

城西国際大学2年 渡部優理絵 / 梅津瑞樹

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