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赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」 熱気溢れる紫テントにて上演

2025年10月5日赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」が東京・赤坂サカス広場 特設紫テントにて開幕しました。
「赤坂芸術祭」は、昨年「赤坂舞台芸術祭」としてスタートしたテント上演型演劇イベント。今回の「赤坂芸術祭2025」は、赤坂サカス内の紫テントでメイン公演として「血は立ったまま眠っている」を上演。初期の寺山修司作品を演出した中屋敷法仁さんにお話を伺いました。

■寺山修司の言葉と共に自由になる、テントでの芝居

私は寺山修司さんと同じ青森の出身で、寺山さんが亡くなった翌年に生まれました。だから、先輩たちから「生まれ変わりなのではないか」と揶揄されることも多かったんです(笑)。寺山さんの作品には子どもの時から触れていて、どのように影響を与えられたのかを覚えていないくらい影響されています。私が表現の仕事をする際には必ず指針となるような、とても偉大な先輩でした。だからこそ寺山さんの作品はあまりにも恐れ多い存在で、長い間その作品を私が手掛けることはないだろうなと思っていました。
ただ、いよいよ寺山さんが亡くなった年齢である47歳に自分自身が近づいてくるにしたがって、「寺山さんはそのような扱いをされることを望んでいないのではないか」という考えに至りました。当時から、寺山さんは時代や若者に寄り添った言葉を使っていました。そう考えると、別に寺山さんは偉大な存在になりたかったわけではないのではないか……と。この考えから、そろそろ自分でも寺山さんの作品を手掛けなければと思っていたところに、この赤坂芸術祭2025の紫テント上演のお話をいただき、上演を決めました。30年以上寺山さんの言葉に触れてきているので、今回この作品を上演することは、自分にとっても答え合わせするような感覚でした。

■勇気と覚悟を持ち合わせて挑む紫テント芝居

現代の演劇は、作品の内容、表現の仕方など、あらゆる点でお客様に満足していただかなくてはいけないという強いプレッシャーがあります。本当に丁寧に創り上げないと、この荒々しい資本経済の中では演劇は生き残っていけません。だから、本作でもその点には非常に気を配りました。
たまに「劇場ではなくテントの上演は難しいのでは?」と聞かれることがありますが、決してそんな感覚はありません。劇場は、映像技術や照明技術などのテクノロジーがありますが、テントにはそれが少ないだけ。頼れる技術がない一方で、勇気と覚悟を持ち合わせた俳優さんの体と言葉だけあれば何とかなります。むしろ自分たちの信念みたいなものが問われるような気がしています。その点でいえば”テントでの芝居”は芸能本来の底力や「演劇をやりたい」という衝動を体現できる場所だと思います。今回は勇気と覚悟があるメンバーと共にできてよかったです。私たちも決してテントの人間ではないのですが、テントだからこその特性を生かして、もう一度自分たちの言葉や、体の在り方を問い直したいと考えています。

■言葉の力を受け取ることのできる本作の見どころ

現代は、言葉を発することがリスキーな時代で、喋らない者勝ちだったりします。これからは、更に安全な言葉や右にも左にも行かないような言葉も増えてくるのではないかとすら思っています。でも、言葉は本来そういうものではなく、私たちが想像もつかなかった素敵な空間に連れていってくれるものではないでしょうか。
今回は詩人である寺山修司さんの初期の作品を扱っているため、言葉が非常に瑞々しくも荒々しいです。これを現代の令和のテントを見ることで、寺山さんの言葉は私たちをどこまで連れて行ってくれるものなのか、そして私たちの体を形作ってくれるものが何なのかがわかると思います。寺山さんの言葉を借りることで、私自身も自由になったなという気がしています。
詩というものは理解すればするほど、解釈すればするほど旨味が減っていくものなので、「理解できない」「つかめない」というところから始めていかないといけません。23歳の寺山さんの衝動を私自身も理解ができているわけではないし、お客様にも理解してほしいわけではありません。でも、寺山さんの言葉には、テクノロジーにも追いつかないイマジネーションが潜んでいるので、彼の言葉を通じて自分が何を受け取っていくのかを考えてほしいです。

■学生へのメッセージ

若いうちに、できる限り失恋をした方がいいと思っています。失恋とは、恋だけではなく、自分の信じる芸術や、自分の信じる政治でも良い。何かに挫折したり、絶望したりすることは若いうちにたくさん経験した方がいいなと思います。
私は小学生の頃から言い訳が上手かったので、一個の失敗から学ぶのに時間がかかってしまいます。「こんなはずではなかったんだ」「こんなにうまくいかないんだ」という失恋をしても、経験を重ねれば重ねるほど「これもいい経験だった」と傷つかないように自分に言い訳してしまいます。できるだけ若いうちに何か大きな失恋をして、怒ったり泣いたりしてみてください。その経験から、きっと何かが生まれてくるはずですから。

学生新聞オンライン2025年10月5日 城西国際大学2年 渡部優理絵

<観劇した学生新聞インターン生の感想>

始まりから怒涛の連続でした。
あまり演劇は観たことがなく、良し悪しもあまりわからず観劇したのですが、文字通り空いた口が塞がらず、むしろ感嘆の声が出ないように必死に我慢するほどでした。
この劇の一番の魅力は、なんと言っても間近で観れることだと感じました。
一番後ろの席でも、まるで演者が目の前にいるかのような迫力で、役者さんと目が合うので、劇への没入感が桁違いです。私自身も主人公の行動に一喜一憂したり、時には涙がこぼれそうになったりと、感情の起伏が激しかったです。
また舞台の見せ方もとても魅力的です。
演劇でありがちな小道具や背景を表現するための板などは一切なく、全てのことを人間が表現します。
動物や風、回想シーンやエフェクトまで、本来小道具を使うようなところを人間が表現することにより、小道具以上に情景の視覚情報や言葉にはできない空気感を表しています。90分という長丁場にも関わらず、絶対に飽きない仕組みが隅々まで考えられ、余すことなく表現されていました。

情報経営イノベーション専門職大学2年 山田千遥

この作品を観劇したとき、人生で初めて”衝撃で言葉が出ない”という状況になりました。日常のしがらみを全て忘れ、目の前で起こるその出来事に熱中し、中屋敷さんが演出する”テラヤマワールド”に心を奪われていたのだと思います。
寺山さんの作品を人生で初めて観劇して、”理解する”ではなく、”感じる”演劇だと思いました。
「百年たったら帰っておいで、百年たてばその意味わかる」という言葉の通り、AIすらも完全に理解することはできない寺山さんの言葉ですが、人間である私たちだから寺山さんが紡いだ一つ一つの言葉に重みを感じ、中屋敷さんの演出により感情を受け取ることができるのだと思います。
演出である中屋敷さん、キャストのみなさんが魂を削りながら魅せてくれる90分間の芝居を観て、見え方・受け取り方・感じることは、観客の方が過ごしてきた人生によって変わってくると思います。難解だ、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、それでも私は、この作品を観て令和のテントで感情を受け取ってほしいと思いました。
誰⼀⼈⽋けることなく千秋楽を迎えられるよう、⼼から願っています。

城西国際大学2年 渡部優理絵

<公演情報>

赤坂芸術祭2025「血は立ったまま眠っている」

作:寺山修司
演出:中屋敷法仁

2025年10月5日(日)~10月16日(木)
会場:赤坂サカス広場 特設紫テント

【出演】
良:押田 岳
灰男:武子直輝
夏美:川崎愛香里
大村わたる 原田理央 長尾友里花 福井 夏 蓮井佑麻
中嶋海央 佐々木穂高 田中 廉 山中啓伍 浦谷賢充

ゲスト
10月5日(日)/16日(木)18:30公演 中屋敷法仁(劇団「柿喰う客」)
10月6日(月)18:30公演 三納みなみ
10月8日(水)18:30公演 小御門優一郎(ノーミーツ)
10月10日(金)18:30公演 淺場万矢(Office8次元)
10月11日(土)14:00/18:30公演 吉井翔子(Office8次元)
10月12日(日)/13日(月祝)18:30公演 安里勇哉(TOKYO流星群)
10月14日(火)18:30公演 多和田任益(梅棒)
10月15日(水)18:30公演 田中朝陽

※本公演はテント公演のため、一般的な公演とは少し環境が異なります。
以下の内容をあらかじめご了承いただいた上で、チケットをご購入ください。

【公式サイト】
https://www.gorch-brothers.jp/chi_nemu2025
【公式X】
@chi_nemu2025 #血眠2025
【主催】赤坂芸術祭2025 実行委員会

城西国際大学2年 渡部優理絵/中屋敷法仁

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