「学生新聞」とは、学生の、学生による、学生のための新聞です。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長 CEO 西野秀明

想定外を力に、世界と人を繋ぐ体験を創る

ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長 CEO 西野秀明(にしの・ひであき)

■プロフィール
2000年にソニーに入社。ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ、フェリカネットワークスを経て、2006年にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE))に入社。戦略・商品企画、プラットフォームビジネスなどを担当したのち、2025年4月に社長 CEOに就任。

文系から転向し、プレイステーション事業の最前線を歩む西野秀明氏の原点は、悔しさと楽しさをもたらした、ある日突然の技術的挑戦だった。日米を往復し、技術と経営を繋いだキャリアの先に見据えるのは、文化や国境を超えて人をつなぐエンタテインメントだ。「遊び」の持つ可能性と、未来を創る若者への期待を語る。

■“悔しさと楽しさ”を原点に、日米を往復したキャリア

文系で大学に入った私の転機は、生協で買ったPCのOSを、先輩がFreeBSDに入れ替えてしまったことでした。最初は「なんでこんなことをされるんだ、悔しい」と感じましたが、FreeBSDの操作におもちゃのような楽しさを見出し、理系学部へ転部しました。その後、エレクトロニクス、音楽、映画など多様な事業を行うソニーへ入社することになります。
入社して最初の3年は、携帯電話関連の仕事に関わりました。その後は2006年にゲーム事業へ移り、日本→米国赴任→日本→米国赴任と往復してきました。そこでプレイステーション 4のハードウェア企画やネットワーク構築など、日米の現場で技術と経営の両方を深く理解し、現在の基盤を築きました。

■「共創」と「体験」で挑む、ハードウェア普及への戦略

ソニーの売上の約3割を占めるゲーム事業は、1億以上の月間アクティブユーザーを持つ巨大ビジネスです。プレイステーションの魅力は、大画面での没入感や物語性といった「質の高い体験」。そして、自社タイトルだけでなく多くのパートナーと作品を作る「共創」の姿勢にあります。
リビングでのゲーム文化が根強い米国に対し、日本ではスマホゲームが人気で据え置き機の存在感が薄れています。しかし、PS5には良質な作品が揃っており、「本体が高くて手が出ない」という声に応えて日本での価格を見直しました。ハード自体で利益を出すのではなく、ソフトで収益を回収するビジネスモデルのため、「遊びたいゲームがあるから本体を買う」というサイクルを大事にしています。

■求めている人材は「やりたいことを持っている人」

一緒に働いてほしいのは、「自分のやりたいことをちゃんと持っている人」です。質問をするだけじゃなく、「これをやりたい」と自分から動ける人。新しいアイディアや考え方をどんどん持ってきてくれる人が、実は一番ポテンシャルがあるんですよ。
私自身、今は社長ですが、考えが古い部分もあるかもしれません。だから「西野さんが言っていること、そこが古いよね」と素直に指摘してくれる人のほうが、ずっと未来をつくる力がある。ジェネレーションギャップを超えて、自分の目線で自由に動ける人、暴れてくれる人と一緒に仕事できると面白いです。
会社としては、リソースやフレームワークなどの土台を提供します。だけど、その中で自分の面白いこと、挑戦したいことを自由に実現してほしい。やりたいことがある人は、納得感も出るし、成長も早い。私たちはその「面白さ」を大きくしていく環境を提供できると考えています。
だから、これから入ってくる人たちには、自分の可能性を信じて、会社の中で自由に挑戦してほしい。未来は、若い人たちが創るものです。会社はその舞台を作る役割ですから、やりたいことを持って、どんどん試してほしいですね。

■今後の展望と挑戦

プレイステーションは世界中で多くの人に遊ばれていますが、全世界の人口から見ればまだまだニッチな存在です。だから、コントローラーと画面を組み合わせたプレイステーションならではのゲーム体験を、より多くの人に届けていきたいと思っています。文化の違いは確かにありますが、日本のアニメやゲームのコンテンツが国境を超えて楽しめる例もあり、同じゲームで人と人がつながる可能性もあります。ネットワークが発達した今、オンラインで外国の友人と一緒に遊ぶ、といった体験も増えてきています。もちろん、その中で、不快な体験が起こらないよう、安心して楽しめる環境の提供にも取り組んでいます。こうして文化や国境を超えて、人々がつながりながら楽しめるエンタテインメントを広げていくことが、引き続き大きな挑戦であり、会社としての展望です。

■大学生へのメッセージ

私は、大学生の皆さんには「やりたいことをやれる場所を見つけて、やりたいだけやってほしい」と思っています。ただ、その“場所の見つけ方”って難しいですよね。結局のところ、人と話すことでしか見つからないと感じています。質問するって実はとても難しいのですが、相手にきちんと質問してみると、「あれ、なんか違うな」と思う瞬間もあれば、「これはいける」という感覚が返ってくることもあります。自分が感じた違和感や好奇心は、言葉にしてみないと動きません。だからこそ、口に出したり、書いてみたりすることを大事にしてほしいです。
また、「やりたいことが見つからない」という相談もよく聞きますが、あまり長いスパンで考えようとしなくていいと思います。私自身、学生の頃は三ヶ月くらいで何か形にできないと不安になっていました。でも、逆に言えば三ヶ月で挑戦したいことは見つけられる。大きな目標を五年かけて作れと言われると重たすぎるけれど、目の前の小さな「面白そう」に手を伸ばしていけば、自然と大きなことにつながるはずです。
面白いことって、意外と“誰かが突然持ってきてくれる”場合もあります。私も、勝手にパソコンのOSをFreeBSDに変えられたことが今のキャリアに繋がるきっかけになりました。想定外の出来事が、自分の人生を一気に広げてくれることもあるんですよね。
もう一つだけ言うと、私は学生の頃、あまり外の世界を見なかったことを少し後悔しています。飛行機が怖かったので海外にも行かず、食べるものも同じものばかり。今は世界中の社員と働いていますが、「もっと若いうちにいろんなものに触れておけばよかった」と思うことも多いです。だから、皆さんにはぜひ、多くの人に出会い、多くのものを見てほしい。人と何かを一緒にやる経験は、自分を大きく成長させてくれるはずです。

学生新聞オンライン2025年11月21日取材 東洋大学4年 太田楓華

法政大学3年 島田尚和/武蔵野美術大学1年 石井生成/昭和女子大学2年 阿部瑠璃香/東洋大学4年 太田楓華/上智大学2年 張芸那

関連記事一覧

  1. この記事へのコメントはありません。