株式会社龍角散 代表取締役社長 藤井隆太

自社の強みに注目し、40億の借金から200億円企業へ

株式会社龍角散 代表取締役社長 藤井 隆太(ふじい りゅうた)

■プロフィール

1959年東京都生まれ。1984年桐朋学園大学音楽学部研究科修了後、小林製薬に入社。三菱化成工業(現・三菱ケミカル)を経て、1994年龍角散入社、1995年代表取締役社長に就任。

世界で初めて開発した服薬補助ゼリーや「龍角散ダイレクト」「龍角散ののどすっきり飴」の投入などで累積赤字を一掃。売上を就任時の5倍まで伸ばす。また、フルート奏者としてコンサートへの出演や後進の指導にもあたっている。

「ゴホン! といえば龍角散」のキャッチコピーでお馴染みの、株式会社龍角散の代表取締役である藤井隆太さん。社長就任約20年間で売上を5倍に伸ばした敏腕経営者として知られる藤井社長に、学生時代から現在に至るまでの軌跡やこれからの世の中でありたい企業の姿まで、幅広いお話をお伺いしました。

■音楽だけに没頭していた学生時代

幼少期は、両親が音楽を好きだった影響を受け、3歳からバイオリンを始めました。高校からフルートに転向し、大学は音楽を極めるために桐朋学園大学音楽学部へ進学しました。龍角散はオーナーカンパニーなので、周囲は私が跡を継ぐものだと考えていたと思います。しかし、大学に入った時に父からは「会社経営はやらなくてもいい。音楽に没頭して。ただ、手を抜くことだけは許さない」と言われました。

桐朋学園では一般学科は勿論、音楽関係の授業や実技のレッスン、アンサンブルやオーケストラの授業に加えて、先輩方や師匠から回してもらえる演奏の仕事を積極的に受けていたため本当に忙しかったです。在学中に何とかプロとして食えるようになっていなければならないという大変な危機感がありました。音大を卒業しても雇ってくれる企業はありませんからね。

ただ、父から「会社を継がなくていい」と言われたとはいえ、大学時代は世の中に色々な仕事があるなと感じることも増えていきました。たとえば、コンサートをすればチケットを売らなければならない。これがなかなか簡単に売れず、「需要と供給がミスマッチを起こしているときに売るにはどうしたらいいのか」といったマーケティングを考えるようになりました。この経験から、音楽以外の仕事も知っておきたいと感じるようになったのです。

そして、フランス留学では、音楽は「自分の人生観を表現する文化芸術文学」だと言うことをあらためて思い知らされたのち、小林製薬や三菱化成工業(現三菱ケミカル)で働きました。そんな折に、社長である父の病が発覚したため、いよいよ龍角散へと入社することになったのです。

■「再建は諦めるべきだ」と思うほどひどかった当時の経営状態

私が入社した当時は、龍角散の売上も落ちており、経営は非常に危険な状態でした。売り上げ40億円に対して、借金も40億円。コストは上がるばかりで、今後3年間経営が続くかもわからない状況でした。調べるほどに想像以上に状況が悪いことが判明し、何度事業を諦めようと思ったかわかりません。しかし、会社を続けるのも大変ですが、会社を潰すこともとても大変です。だったら少しずつでも借金を返し、周りに迷惑をかけずにやめようと考えるようになりました。そんなときに妻がこう言ってくれたのです。

「私は社長夫人になりたいわけじゃないから逃げてもいいんだよ。でも、これまでにお世話になった方やお客様に恩返ししなくていいの?」 そう言われたとき時、「一生借金を払い続ける人生でもいい、やるか」と心に決めて、会社の経営を引き継ぐことを決意しました。

■強みを伸ばすことが、ヒット商品開発につながる

改革するにあたって、まず初めに行ったのが龍角散の強みを知ることです。龍角散の強みを知るため、個のニーズを掘り下げようと、愛用者の方々にグループインタビューなどを行いました。すると、龍角散は強い薬を服用できない妊婦さんや産婦人科医などから「ちょっとのどの調子が悪いときに安心して服用できる生薬・漢方由来の薬」であるとして、支持されていたことが判明したのです。

「弱いところをカバーするよりも、強いところを伸ばすことが大切だ」と考え、弱点を見るのではなく「生薬・漢方専門」「のどに強い」という強みを生かそうと方向転換したのです。 そして、のどの専門メーカーとして、選択と集中をして商品開発やマーケティングを進めた結果、売上5倍、そして借金もゼロの200億円企業へと変わっていきました。おそらく、日本でこれだけ喉に特化している会社は他にはありません。これが私たちの強みでもあります。だからこそ、うちの製品を使って下さった方が満足したと喜んでくださる声が嬉しいですし、やりがいでもあります。

必ずしも「大きい会社だから強い」ではない

会社をもっと大きくしないの?」とよく聞かれます。ただ、私が思うに、大きい組織は新しいことに挑戦するのが苦手です。

 一方、中小企業の強さは斬新さと迅速性です。「小さい=弱い」ではないし、大きくすればいいというものでもありません。また、「利益よりも当社の企業活動の結果、お客様が少しでも健康になれるかどうか」いう点が経営判断のポイントです。ですから上場など考えたこともありません。今くらいの社員100人前後の規模がちょうどいいと感じています。

 そして、将来的にみた時、社会に必要とされないのに、今後100年、200年と会社を続ける必要はないとも感じています。我々を取り巻く環境はどんどん変化していますが、当社が進化できず社会的使命を果たせなくなれば、もはや存続する意味はないので、その時は退場すれば良い。それだけです。逆に言えば、自ら進化して、常に社会に貢献できる企業を目指し続けていきたいと思っています。

■大学生へのメッセージ

人生で挫折を経験した人は強いです。さらに、その挫折を経験した上で努力した人は、やはり違います。龍角散では新卒の定期採用はしていませんが、「自分で社会を変えてやる!」という勢いを持つ人に魅力を感じます。

あと、大学生のみなさんにはもっと「健康は自らが作るべき」との意識を持ってほしいです。せっかく親から頂いた体なので、ありがたく大切に使わせていただくという考えを忘れないでください。「健康は自ら作るもの」です。いくら健康保険があったとてしても、誰も大病を患ったり寝たきりにはなりたくないでしょう。是非若い時から将来の自分を意識して「セルフメディケーション」を心掛け、長く健康を維持して、人生をおおいに満喫してほしいものです。

学生新聞オンライン2022年8月27日取材 法政大学1年 佐伯桜優

学生新聞インターン一同

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