株式会社山本海苔店 代表取締役社長 山本貴大

先祖代々守り続けてきた伝統を、後世に繋ぐ

株式会社山本海苔店 代表取締役社長 山本貴大 (やまもとたかひろ)

■プロフィール
2005年慶應義塾大学法学部卒、同年東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行、2008年山本海苔店に入社、仕入部配属。翌年より海外事業に従事。2016年専務取締役営業本部長、2017年専務取締役営業本部長兼管理本部長、2021年7月19日代表取締役社長就任。

嘉永2年(1849年)に日本橋室町で創業以来、高品質な“おいしい海苔”を提供し続けてきた山本海苔店。そのような老舗企業の次期7代目として、伝統を守り続ける山本貴大代表取締役社長にお話を伺った。

学生時代はサッカーに夢中で、幼い頃は“サッカー選手”になりたいと思っていました。将来の夢はあったものの、代々続く“山本海苔店”の息子として生まれ、成長していく中で、後継者になることをどこかで自覚していたように思います。会社を継ぐことを強要されてはいなかったので、反抗したり、プレッシャーを感じたりすることはありませんでした。実際に就活をする時には、大学卒業後すぐに山本海苔店に就職するか、他の企業に就職して経験を積むかで父親に相談しました。結果としては、まずは社会について学ぶことを優先し、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に就職しました。

銀行では4年間勤務し、最初は景気が良かったこともあり、池袋支社に在住中は、充実した日々を過ごすことができました。また色々な企業に関わっていく中で、社会における常識や知識は徐々に身についてきたように思います。しかし新宿支社に異動後、私の状況は大きく変わりました。お客様が一般の中堅企業から不動産会社になり、後のリーマンショックにつながる不動産不況の影響を受け景気も悪化。これらの変化により、お客様に対するアプローチ方法が180度変わり、池袋支社で勤務していたころのようにはいきませんでした。元々父親と外で働くのは3年から5年以内と約束していたこともあり、東京三菱銀行を離れ山本海苔店に入社することを決めました。

◾️海苔を製造する上で大切なこと

海苔屋の中でとても大事な業務は“仕入れ”です。漁師さんからどれだけ良い海苔を仕入れることができるかで、その年の商売が決まります。海苔の味には芽を若い段階で早く切ることができるかがとても大事です。早く刈れば刈るほど、味や色ツヤが良くなる反面、芽を早く摘んでしまうと、採れる海苔の量が減ってしまいます。質の良い海苔を仕入れたい私たちと量を増やして売上を上げたい漁師さん。このような状況の中で、両者にとって不利益にならない状況を生み出すためには、“高い値段で海苔を仕入れる”ということが肝になるのです。このことは、銀行で勤務していた私にとって一番驚いた出来事でした。一般的に、仕入れの金額をできる限り安く抑え、高く売れる企業が優れた企業であると思います。しかし、弊社は売上を上げるのはもちろんですが、仕入れ価格を下げることは決してしません。なぜなら、「海苔産業のリーディングカンパニーである私たちが海苔を安く仕入れるということは、海苔業界の衰退に繋がる。漁師さんから高く仕入れてでも、おいしい海苔をたくさん作ってもらうことが大切」という考えが根本にあるからです。海苔製造業として、“おいしい海苔”をお客様に届けるために、海苔漁師さんとの良い関係を保ち続けることはとても重要な要素となっています。

◾️海苔業界の将来性

海苔の国内生産量は下降傾向ですが、世界の海苔の需要はとても高まっています。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、世界中で日本料理店が増加傾向にあります。この傾向は、人口や富裕層の伸び方などの要素を考慮して、2050年まで続くといわれています。今の時代、ここまで伸びる市場は他にはあまりなく、そのような点からも海苔業界は他の業界に比べて強みがあると思います。海苔需要の世界的な高まりは、グローバル市場への期待が見込まれることを意味します。弊社でも、上海やロサンゼルスなどの各国に拠点がある子会社の髙岡屋と協力しながら、海外での営業活動を強化していく予定です。

◾️今後の展望         

だれかに贈り物をする際、普段自分では買わないような高価な果物や食品を贈ることが多いと思います。私たちが作っている海苔製品もギフト市場での販売を主な目的として作っていました。それは、スーパーなどで購入する海苔の価格と10倍ほど異なる商品もあります。ですが、近年の日本での市場規模は縮小傾向にあり、私たちの商いは2015年頃より贈答品からお土産市場にフォーカスしていきました。そして、切り替えて10年ほど経った今、業務用に挑戦したいと考えるようになりました。しかし、業務用海苔の平均価格は枝のりサイズ1枚20円ほどが平均ですが、海苔業界を守る為にも100円~150円ほどで販売をしたいと考えています。
これを実現するためには、高品質のおいしい海苔を使用した料理を提供する飲食店が必要です。そこで私は山本海苔店として、このような海苔を使用する飲食店を経営したいと考え始めるようになりました。おいしい海苔を提供する飲食店を開業し、一つの市場として成長させることが私の夢ですね。

◾️学生へのメッセージ

とにかく今を楽しんでほしいですね。自分の興味あることに積極的に挑戦して、今を充実させていきましょう!

学生新聞オンライン2024年8月20日取材 国際基督教大学2年 渡邊和花

東洋大学2年 越山凛乃/東洋大学3年 橋本千咲/国際基督教大学2年 渡邊和花/京都芸術大学1年 猪本玲菜/上智大学3年 吉川みなみ

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