森下仁丹株式会社 代表取締役社長 森下雄司
130年の歴史を紡いできたのは、判断と信頼の積み重ね
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森下仁丹株式会社 代表取締役社長 森下雄司(もりしたゆうじ)
■プロフィール
1995年甲南大学経営学部卒業後、三和銀行(現、三菱UFJ銀行)へ入行。支店での法人営業、業務出向、本部業務に従事、2007年森下仁丹株式会社に入社。
新規事業、海外事業などの推進を担当し、経営企画部長、ヘルスケア事業本部長、カプセル事業本部長を経て、2019年現職に就任。2023年12月より(株)MJ滋賀代表取締役社長も兼任。
130年の歴史を誇る森下仁丹株式会社。伝統的な製品に加え、新たな挑戦を続ける代表取締役社長、森下雄司さんに、今回インタビューをお願いしました。森下さんが抱える、未来へのビジョンや学生への熱いメッセージを伺いました。
■学生時代に築いた仲間と情熱
私は幼稚園から大学まで甲南学園の一貫教育を受けてきたため、小学校の友達、中学校の友達、大学の友達と、進学するたびに雪だるま式に仲間が増えていく感覚でした。学生時代は、授業の合間に学校の食堂やたまり場で先輩や同級生と喋って、帰宅後はアルバイトに励むというルーティンで過ごしていました。
また小さい頃からやっていたスキーにも打ち込んでいました。同級生に誘われてスキー同好会に入り、夏は良いスキー道具を買うためにプールの監視員のアルバイトやトレーニング、冬はスキー場でアルバイトをし、スキーの練習をしていました。
自分としては、学業にも真面目に取り組んでいたつもりですが、社会に出てから学んだことの方が多かったです。今思うと「もう少しできたことがたくさんあったな」とも思いますが、それでも充実した学生生活でしたね。
■厳しさの中で培った学び
就職活動では、好きなものに携わりたいという気持ちがあり、スポーツメーカー、食品メーカー、飲料メーカーを志望していましたが、結果的に銀行に進みました。
12年間の銀行員生活は、非常に厳しい環境でありながらも、現在の私の糧となり、原点となっています。
私のような同族企業の人は、広告代理店さんや同業のメーカーさんで勉強する人が多いです。しかし、私の場合は銀行で金融や経済に関する知識を学び、12年の間に2回の合併を経験し、出向も含めて営業以外の職場にも行きました。銀行の仕事を通じ、サラリーマンとして組織で行動する上で、とても内容の濃い経験をさせていただいたと思っています。
その後、34歳のときに森下仁丹に営業課長として入社しました。特に「森下家の人間だから」といった特別扱いを受けることはなかったので、仕事ができなければ会社から認めてもらえないと思いました。そのため、常に与えられた仕事に一所懸命取り組むことを考えていました。110年近い歴史のある会社の中で、何ができるのかを模索しながら前向きに楽しく「人のためになる仕事っていいな」と思い、仕事をしていた記憶があります。
その後、社長に就任した際には、責任の重さを改めて実感しました。それまでも最終的な判断を下すのが社長であることは理解していたつもりでしたが、実際にその立場になると、日々細かい決断から大きな判断まで求められます。
たとえば、「AとB、どちらにするべきか」という話があった場合、明らかにAが良いのであれば、私に相談が来る前に既にAに決まっています。しかし、Aにも課題があり、Bにも良いところと課題がある場合、最終的な決定は私が下さなければ前に進めません。自分なりの経験をもとに、これから先のことも考慮して決断をしないといけないというところが社長という立場になって改めてわかったことです。
■選ぶ基準は「損得」だけではなく「パーパス」
2023年は創業130周年に当たったことから、新たに会社のパーパスも策定しました。その内容は、次のようなものです。
「思いやりの心で、オモロい技術と製品で、一人に寄り添い、この星すべてに想いを巡らせ、次の健やかさと豊かさを、丹念に紡いでゆく。」
何かを選び、決定する際、事業会社である以上、業績や利益が向上することは一つの大切な要素です。しかし、そこだけにとらわれてしまうと、会社の歴史、ポリシーやフィロソフィーに反してしまうこともあります。
そこで私たちは「自分たちがするべきことかどうか」をパーパス視点で考えるようにしています。
また、私個人としては「創業者や先代、歴代の社長たちならどう判断しただろうか」という視点でもよく考えます。もちろん時代背景が違うので、必ずしも同じ判断が適切とは限りません。しかし、これまでの経験も踏まえて「我が社としてどうすべきか」を考える姿勢は、常に忘れないよう心がけています。
こうした経験の積み重ねは、特に社長としての立場に就いてから強く意識するようになりました。私が社長になった1年後にはコロナ禍が始まり、それから数年間は非常に厳しい状況が続きました。大きな災害や社会的な出来事は、望んで経験できるものではありません。しかし、結果的にその中で得た経験が自分の糧となり、社員たちの行動力にも繋がったのだと思います。社員全員が協力し、困難な状況を乗り越えるために動いてくれたことには、本当に感謝しています。
■信頼は一つひとつの積み重ね
“信頼”とは、お客様に認めていただくことです。「この会社の製品は良いね」「これをまた買おうかな」と思っていただけるまでには、長い時間がかかります。我々が「良いものだ」と思って製品を世に送り出しても、競争が激しかったり、価格が高かったりと、様々な理由で市場に定着しないことも少なくありません。そういった中でも、「森下仁丹だから安心して使える」とお求めいただくお客様がたくさんいらっしゃいます。その信頼を裏切ることは、これまで製品を守り続けてきた先輩方にも顔向けできません。そのため、メーカーとして何よりも大事な要素である安全性は常に最優先事項として取り組んでいます。
■大学生へのメッセージ
社会人になったり、ある程度の年齢を重ねたりすると、「学生時代にもっとこうしておけばよかった」という話をたくさん聞きます。私は学生時代をとても楽しめたので、みなさんにもぜひ学生生活を楽しんでほしいです。よく言われることですが、「学生の時期は、時間はあるけれどお金がない。社会人になると、お金はできたけれど時間がない」という話があります。ないものねだりかもしれませんが、やはり学生時代にしかできないことにどんどん楽しんでチャレンジしてほしいと思うのです。その中で、何かしら自分が続けられることを見つけていってください。
学生新聞オンライン2024年11月27日取材 城西国際大学1年 渡部優理絵

日本大学 4 年 鈴木準希/東洋大学 2 年 越山凛乃/城西国際大学 1年 渡部優理絵
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