
イオンペット株式会社 代表取締役社長 米津一郎
挫折と挑戦の先に「社長」があった イオンペット株式会社 代表取締役社長 米津一郎(よねづ いちろう) ■プロフィールペットのトータルケアをサポートする多角的な事業を展開するイオンペット株式会社の代表取締役社長。1968年11月生まれ。東京都出身。2015年、イオンペットに執行役員として就任。トリミング・ホテル事業チーム責任者 兼 トリミング・ホテル事業グループリーダー、営業最高責任者などを経て、2020年より現職。 学生時代から明確な夢があったわけではなく、趣味やアルバイトに費やしていたという米津一郎社長。バブル期真っ只中に社会へ足を踏み出していったが、仕事との出会い、そして退職・転職と、さまざまな経験を通して成長を重ねてきた。現在はイオンペットの社長として、動物医療、小売、ペットサロン、保護活動の現場を率い、「ペットは家族」という理念のもと動物と人間の共生社会の実現に本気で向き合っている。そんな米津社長の話を伺った。 ■学生時代は悶々とした日々。社会に出て初めて気づいたこと 正直に言うと、学生時代は遊んでいることも多かったです。バブルの空気に乗っていましたね。学生時代から明確な目標があったわけではなく、アルバイトをしながら、日々を過ごしていました。私の就職活動期は、売り手市場で、最初に内定をいただいた製菓メーカーに就職を決めました。東京出身の私が配属されたのは神戸支店。最初は正直、戸惑いました。でも実際に働いてみると、いろんな人との出会いがあって、仕事って案外面白いなって思えるようになりました。この時期に「自分で会社の経営をしたい」という夢を持ち始めました。ずっと営業をしていたのですが、企画職を希望して、本社のブランドマネージャーとして働くようになりました。ですが、マーケティングの知識も損益計算書の読み方も何もわかりませんでした。それを見た会社が、私をビジネススクールに通わせてくれました。夜はメールでケーススタディを議論して、昼間は仕事。本当にあの時期が人生で一番勉強をしましたし、成長を感じられました。 ■ベンチャーに飛び込んで社長へ。退職・転職を経てたどり着いた今 製菓メーカーを辞めたあと、1年間だけコンサルの経験を積みました。経営者になるなら、新たな視点で企業を見ることも必要だと思ったからです。その後、エンターテインメント企業に転職して、5年間勤めました。さらに新たな世界で挑戦をしたいと思い、今度はベンチャーの世界に飛び込みました。その後はベンチャー企業2社で、社長を経験しました。でも、そのうちの一社では、1年半で退職することに。その後、4か月間は転職活動。49歳での転職活動は正直きつかったです。あまりにきつくて、その時は長年の夢だった社長業を諦めかけたほどです。そんなときに声をかけてくれたのが、今のイオンペットでした。最初は執行役員で入社させていただきました。以前社長業で思うような成果を発揮できなかったこともあり、社長になるつもりは全くありませんでした。私の前任の社長が本当に尊敬できる方で、この社長の元で勉強したいと思うようになりました。その方の行動一つ一つが勉強になり、以前、私が社長で思うようにできなかった理由もわかってきました。その数か月後、「次はあなたが社長をやってくれ」と言われたときは、本当に驚きました。でも、腹をくくって引き受けました。 ■ペットと人間が共生できる社会へ。イオンペットが大切にする“優しさと本気” イオンペットの強みは、何より「ペットが好きな人」が集まっていることです。これは本当に大きな要素だと思います。社員の専門性も高く、獣医師は200名以上在籍していますし、看護師やグルーマーなどの専門職も数多くいます。単に仕事としてではなく、「この子の命を守りたい」「幸せにしたい」という思いを持った人たちが集まっているのです。例えば、動物病院の事業では、予防から診療まで広く対応しています。さらに夜間救急や高度医療まで対応している動物病院チェーンは非常に少ないと思います。最近では相模原に大型の動物医療センターも開設しました。グルーミング事業でも「ワンちゃんにやさしい施術」を徹底しています。ワンちゃんに負担のかかる施術をせず、その子が一番快適に過ごせるように、短時間で丁寧に仕上げるスタイルです。社内教育制度も充実しており、イオンペットでは新入社員も早い人では2か月ほどでカットデビューできる仕組みも整えています。また、保護動物の譲渡活動にも力を入れていて、行政や地域のステークホルダーの皆さまと連携しながら活動しています。将来的には、お迎えするご家族の方も安心してペットを迎え入れられるような仕組みを作りたいと思っています。さらに、小売部門ではイオングループのスケールメリットを活かし、多彩な商品ラインナップとともに店舗を運営しています。アパレルやフード、ケア用品に至るまで、すべて“ペットの暮らし目線”で展開されているのが特徴です。動物医療から日用品、サロン、譲渡活動まで、一気通貫でカバーできる企業は、国内でも非常に限られています。「ペットは家族」。これは当社がずっと大切にしている価値観です。売上や数字だけではなく、その命にどれだけ本気で向き合えるか。それが私たちの差別化の核心だと感じています。 ■学生へのメッセージ 私は採用面接のときにいつも見ているポイントがあります。それは、「人の力を引き出せる人かどうか」です。自分ばかりが目立ちたいタイプではなく、人に敬意を払い、相手の能力を活かせる人が、これからの時代に求められるリーダーだと思っています。学生のみなさんに伝えたいのは、「やりたいことはどんどんやってください」ということです。今は年功序列も終身雇用も崩れて、人材が流動化しています。そのため、失敗しても、やり直しは何度でもできます。もし今、何をしていいかわからず悶々としているなら、まずは目の前のことに全力で取り組んでみてください。それを突き詰める中で、きっと何かが見えてくると思います。本を読むことも、人と語ることも、全部が次の自分をつくる材料になります。 私自身、学生時代は明確な将来のビジョンはありませんでした。でも、だからこそ言えます。人生はいつからでも変えられますし、どんな道にも可能性があります。今この瞬間から、何かを始めても遅くはありません。 学生新聞オンライン2025年5月29日取材 法政大学4年 佐伯桜優 法政大学4年 佐伯桜優 / 法政大学4年 島田大輝