株式会社ボルテージ 代表取締役 津谷 祐司
独自のストーリーにこだわるコンテンツ作りで、世界へ羽ばたく
プロフィール
津谷 祐司(つたに ゆうじ)
福井県生まれ。東京大学工学部卒業後、博報堂に10年勤務。
その間、UCLA映画監督コースへ自主留学し、映画を学ぶ。
36才で株式会社ボルテージを創業し、社長に就任。
創業7年目、女性向け恋愛ゲーム第一弾をリリース。
2010年にボルテージを東証マザーズ、翌年に東証一部に上場させる。
2012年にはサンフランシスコにSFスタジオを設立、本人も移住し米国進出。
2016年に帰国。
創業時からの企業理念である、「アート&ビジネス」。実はこのキャッチフレーズの起源は、津谷社長の大学時代にまで遡る。幼少期から創作活動が大好きで、20代では映画留学を経験。そんな津谷社長だからこそ目指せる、ストーリーにこだわるコンテンツ制作とは。そして、ボルテージの強み、魅力について熱く語ってもらった。
■学生時代学生時代はとにかくいろいろ経験を積んでいました。例えばアルバイトは、定番の家庭教師だけでなく、ビアガーデンの店員や本屋の倉庫スタッフなどを経験しました。人とは違うことをしたいという気持ちが強かったのかもしれません。アルバイトは辛いことも多かったですが、「客商売」とはこういうものなのだ、と知ることができました。
そして就活の時期が近づき、一旦自分のやりたいことを整理してみたのです。方法としては、紙にどんどん興味のあることを書き出していきました。自分は何がやりたいのか、根本的に何に興味があるのかなど、思いつく限りペンを走らせました。そしてノート一冊分書き上げたところで、一つのキャッチフレーズに行き着いたのです。それが、「アート×ビジネス」でした。昔から工作などのクリエイティブな活動が好きだったのです。それも、出来合いのものを組み立てるのではなく、一から自分で創作するのです。この自分自身への問いかけ、自分と向き合った時間のおかげで、やりたいことの軸が明確になりました。
■挫折しかけた、あの瞬間
大学卒業後は広告業界である博報堂に入社しました。順調に仕事をしていましたが、2年目のある週末、大学時代の友人数人と、苗場スキー場へ行った時のことです。夜、友人の一人がいきなり、アメリカへM B A留学をすると話し出したのです。驚きました。しかし話を聞くにつれて、私も海外留学に強い関心を持つようになりました。調べてみると、アメリカの大学院には映画学科というのがありました。元々映画や映像には興味があったため、憧れを抱き、すぐに入学出願しようと決断しました。
ただ、合格するのに5年もかかり、その後、渡米した直後も英語でのコミュニケーションの壁にぶつかり、入学早々ノイローゼっぽくになってしまったのです。このままでは授業についていくことさえできないと、入学2日目には休学したいと主任教授にお願いに行きました。「制作人数が足りなくなるから駄目だ」と言われ途方にくれました。そんな時、学生課で紹介された日本人留学生の先輩にこう言われたのです。「10分間我慢して授業を聞きなさい。それができたら、次に1時間我慢しなさい。それができたら、さらに3時間耐えなさい。」と。苦労や悔しさもたくさんありましたが、とにかく負けちゃいけないと頑張りました。
■起業、そして苦難への道
無事、映画の大学院も卒業。日本へ帰国後、一旦は広告会社に戻り、社内起業としてインターネット事業を立ち上げました。しかし、大組織での意思決定手続きにエネルギーを浪費し、次第に私は事業を会社内でではなく、個人で好きなようにやっていきたいと思うようになりました。そこで、お世話になった博報堂を辞め自分の会社をスタートさせました。36才でした。事業内容としては、知人に紹介されたS F 小説家とストーリーゲームを作り、携帯で配信するというものでした。これは、現在ボルテージが行う物語ゲーム事業の先駆けと言えます
翌年、「バトル東京23」という携帯電話向け対戦ゲームを作り、賞を頂いたりもしました。その後もコンテンツ作りを続けましたが、やはり当時の自分は事業経営についての見識が十分でなく、最初の4年間はずっと赤字でした。初期から二人三脚で頑張ってきた妻である現取締役にも、何度も辛い思いをさせましたね。今では上場企業となり、大ヒットコンテンツも抱える企業となりましたが、当時を思い出すと苦労の連続でした。
■ストーリーへのこだわり
現在、ボルテージ社員の男女比は4対6となっています。これは採用の段階で特に決めているわけではなく、結果的に優秀な女性が多く入社してくれるからです。やはり大手企業だと女性が活躍できる環境はまだまだ十分に整っていないですよね。我々の企業では男女関係なく、入社間もない頃からゲーム内のコンテンツやイベントの企画を立ち上げることができます。中には、入社数年の社員の企画が大ヒットということも。確かにコンテンツ事業の競合会社はたくさん存在します。
その中でボルテージの魅力は、第一に物語にこだわっているところで、ゲーム性よりストーリーに重きを置いています。例えば、「偽装結婚」というテーマがあり、主人公の女性一人に複数の男性キャラクターが絡んでくる。ゲームとしての面白さというより、映画のように複雑な人間関係やキャラクターを楽しめる、ストーリーとしての面白さがあるのです。それが他社との差別化かと思います。もう一つが、女性向けが中心というところです。女性はストーリー展開や登場人物のキャラへの思い入れが強く、半端なシナリオでは満足してくれません。弊社では、新しいタイトルを作るたび、舞台や人物の設定、プロットを徹底的に議論し、工夫を凝らしています。一部ですが男性向けもやっていて、同様に練り込んでいます。
そのため企業として求める人材は、コンテンツビジネスに覚悟がある人。作るのが面白いと感じるだけでなく、それをビジネスとして成立させていく覚悟がある人、です。現在もさまざまなタイトルを、アプリだけでなく舞台化、映像化などしていますが、今後もさらに大きく発展させていきたいです。
■大学生へのメッセージ
やりたいことが見つからない、やりたいことが多すぎるなど、色々な悩みがあるかと思います。しかし、結局は何か一つに絞らなくてはいけません。ここで気をつけるべきは、消費活動と生産活動は全く別物だという事です。例えばゲームが好きだからゲーム業界だ、と安直に考えないでください。ゲームをプレイするだけなら消費活動であり、仕事にはなりません。仕事は生産活動なので、物語やゲームを作ることに没頭できなければならない。あなたが社会に対して何を生産し、提供していきたいのか、という視点で考えてください。学生時代に自分の軸を理解することは大変重要です。時間をかけて、じっくり自分自身に問いかけてみてください。
学生新聞WEB2020年11月30日取材
慶應義塾大学1年 伊東美優
慶應義塾大学1年 伊東美優 / 津田塾大学3年 川浪亜紀 / 駒澤大学4年 安齋英希
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