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映画監督 川添ビイラル 作品を通して「ハーフ」、アイデンティティを考える機会に

映画監督 川添ビイラル(かわぞえ びいらる)

■プロフィール

大阪ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科での卒業制作『波と共に』(’16)が、なら国際映画祭NARA-waveと第38回ぴあフィルムフェスティバルに入選し、第69回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーに選出される。短編第2作目『WHOLE/ホール』(’19)は、第14回大阪アジアン映画祭インディー・フォーラム部門にてJAPAN CUTS賞 スペシャル・メンションを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTS 2019へ正式出品される。現在はフリーランスとして河瀨直美監督や世界的に活躍する監督の元で映画制作に携わる。

10月15日よりロードショーとなる『WHOLE/ホール』の映画監督を務めた川添ビイラルさん。映画監督としての苦悩や喜びや、普段あまり取り扱われない「ハーフ」という存在のアイデンティティを取り扱った本作の見どころ。そして、映画監督としてのこれからの展望について伺った。

■見つかったやりたいこと

私は小学生の頃は勉強が得意だったわけでもなく、やりたいことも特にはありませんでした。映像に関わる進路を決めたのは、小学6年生か中学1年生の頃にあった「メディアクラス」という授業を受講したときです。この授業では、学生が主体となり、カメラで動画撮影から編集まで行い1つの映像作品を作るのですが、講義を受けるなかで、「自分のやりたいことはこれだ!」と思いました。

もともと私の父が映画好きで、『ゴッドファーザー』などの有名な作品をリビングで見ているのを、父の背後から弟と一緒によく見ていました。その影響で、私自身も映画がずっと好きだったので映画に関わりたいと思っていました。

その後、大阪ビジュアルアーツ専門学校に進学した後は、映画に関わるもの全てを学びました。専門学校の卒業作品では難民を題材にした作品を作りました。福島原子力発電所の事故による国内の避難民と、自国の迫害から逃げ日本に留まる国外からの難民のストーリーを描きました。この頃から、社会に対して問題提起をするような作品を作るようになりました。

■苦労とやりがいは表裏一体

私は映像とは1つの言語であると考えています。作品を作るときは、その作品を通して1つのメッセージを伝えることを大切にしています。映画を作るのは非常に大変で本当にしんどいですが、その時間こそが生きている感じがします。

作品は、人に見てもらって初めて意味を持ちます。そのため、自分では「いい作品だ」と思っても、たくさんの方に見てもらえるような、よりいい作品を作り続けるよう頑張らないといけないといけません。

私が映画作りで一番大変だと思うのは脚本作りです。脚本作りは他の作業と異なり、基本的には孤独な作業なので、精神的に辛いことが多いです。さらに、映画は映像作品であって劇ではないので、セリフだけに頼らず、映像で伝えないといけません。従って、自然なシチュエーションに合うセリフを作ることには、毎回苦労します。また意見を押し付けないような脚本作りも意識しないといけないため、その点でも非常に難しさを感じます。

■弟との共同作業で生まれた『WHOLE/ホール』について

私の弟が、ハーフのアイデンティティに関する作品を作ろうと考えていたことから『WHOLE/ホール』が生まれました。この作品は弟の経験をベースにしたもので、弟が考えた脚本を修正するプロセスが長くなってしまい、非常に大変でした。

また、「自分の居場所がない」と感じる主人公のハーフの春樹の役に適している人を探すのも大変でした。そんな中、サンディー海さんの演技をはじめて見たときに、「彼は春樹だ!」と思ったのを覚えています。彼と何度も何度も話し合いや脚本の読み合わせを通して役作りをしていきました。もう一人のハーフの主人公・誠役の私の弟を含め、今でも3人で仲がいいです。むしろ弟と海さんが仲良くなりすぎて、撮影中にふざけていたため、少し大変でした。

■ハーフやダブルについて考える機会に

作品が完成した今が、一番嬉しい瞬間です。これから多くの人に自分の作品を見てもらえると思うとやはり嬉しいです。本作は「ハーフ」や「ダブル」という、普段あまり考えることはないテーマについて扱った作品です。物語の中では、自分のアイデンティティを深く捉え日本に居場所を感じられない春樹と、「自分は日本人」と考え、出自についてあまり考えず生活している誠という正反対の二人が、お互いとの邂逅により、それぞれ自分のアイデンティティを探し求めるようになります。これらのテーマは難しく答えのない問題です。そのため映画内で答えを完全には出さず、自分の意見を押し付けない、観客の皆さんに考えてもらえるような作品を意識して作りました。他の作品にはない面白さがある、と私は考えています。私自身、自分がハーフでありながら、自分のアイデンティティについてはあまり考えたことがなかったですが、この映画を通して考えるようになりました。

■どの考え方も自由で、どの考え方も間違ってない

また世界にはいろんな人がいて、ハーフの中にも「ハーフ」と呼ばれても問題ない人もいれば、「ダブル」と呼んで欲しい人、「ミックス」と呼ばれたい人など、さまざまな人がいます。しかし、どの考えも自由であり、決して間違っていないと思います。そのようなメッセージも込められた作品になっています。映画を通して普段はあまり考えることのないこの問題について、深く考えてみてください。

■今後作っていきたいもの

私は自分自身まだまだ未熟であり、まだ自分では映画監督であるとは胸を張って言えません。なので、胸を張って映画監督と言えるようになりたいという夢に向かってこれからも頑張りたいと思います。私はメッセージがあって、社会に何かを投げかけるような映画をつくりたいと考えています。今作っているのが昨今問題になっている「#ME TOO」を題材にした作品です。この作品を通じて、性暴力・それに関する社会問題を社会に問いかけたいと思っています。こちらの作品も非常に考えさせられるものとなっていますので、そちらも楽しみにしていただけると幸いです。あと、今作っている作品の多くが短編映画なので、いつかは長編映画を撮りたいなと考えています。

■大学生へのメッセージ

大学生という期間は悩んだり、色々考えたりする時期だと思います。アイデンティティや個性について悩みがある方は、ぜひこの映画をみてください。本作を通して、あなたの生活がより豊かになると思います。

学生新聞オンライン2021年9月6日取材 慶應義塾大学 1年 在原侑希


『WHOLE/ホール』
俺は日本人や
“ハーフ”と呼ばれる青年2人の、欠けていた半分を満たす出会い

10月15日(金)よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー
公式HP:https://www.whole-movie.com/

日本のメディアで活躍するポジティブな印象のハーフタレントとは裏腹に、「ハーフ」という言葉をネガティブな意味で受け止め、自らのアイデンティティーに戸惑い、苦しむ若者も存在する。

日本生まれ、日本育ちで日本のパスポートしか持っていない、監督の川添ビイラルと脚本・主演の川添ウスマン兄弟は、日頃からハーフの偏ったイメージに違和感を感じていて、タレントでもない、日本で普通に暮らしているハーフを主人公にした映画を作ることを決意。知り合いの紹介で、同じく日本生まれ、日本育ちのサンディー 海に出会い、春樹役に抜擢した。

純粋な目線で、どこにでも居るハーフの日々の生活を通して、アイデンティティーや日本社会に対する複雑な気持ちを誠実に描いた。多様性を目指す現在の日本社会に語りかける本作は、第14回大阪アジアン映画祭でJAPAN CUTS Award スペシャル・メンションを受賞し、北米最大の日本映画祭であるニューヨークのJAPAN CUTS及びソウル国際映画祭に正式出品された。


日本体育大学 1年 大内貴稀 / 青山学院大学 3年 鈴木理梨子 / 津田塾大学 3年 川浪亜紀 / 慶應義塾大学 1年 在原侑希

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